短編集[作:ヘタノヨ コヅキ]

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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【滴り注げ、双翼の愛】

オマケSS【妬いて妬かれて、双翼の愛】 下

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 それから、数分後。


「右翼お兄様、あの。これは少々、お行儀が悪いですよ……?」


 ソファに座り直した右翼の、膝の間。そこに今、左翼はチョコンと身を縮こまらせながら座っている。


「だって、また左翼が怪我をしたら嫌だからね。こうして、目と手の届く範囲に置いておきたいんだよ」
「ですが、これでは右翼お兄様の読書を邪魔してしまいます」
「読書は左翼がそばにいないときにするよ。それか、左翼も一緒に読書をしているときかな」


 本ではなく、左翼に意識を向かわせて夢中にする作戦。これは、大成功だ。……想像の、数倍以上に。

 手で触れても平気なほど冷めたカップを両手で持ちながら、左翼は俯いた。


「私はまた、人間を相手に嫉妬をしてしまいました。右翼お兄様にとって一番が私だと分かっているのに、それでも右翼お兄様が私以外の──人間の生き様を褒めるから、幼稚に拗ねてしまったのです」
「それで、左翼はぼくの好きなホットミルクを用意してくれたの?」


 コクンと一度、縦に頷く。素直な左翼を抱き締めながら、右翼はニコリと笑みを浮かべた。


「ここで『嬉しい』と言うのは、少し趣味が悪いかな。だけど、ごめんね。ぼくは左翼が妬いてくれると嬉しいみたい」
「本当に、趣味が悪いです。私は今、とても落ち込んでいますのに……」

「裏を返せば、左翼が落ち込む必要なんてないってことだよ。ぼくとしては、こんなに愛らしいヤキモチはいつだって大歓迎。大好きだよ、左翼」
「私は『ヤキモチ焼きな自分が嫌です』と告げているつもりなのですが……」


 どことなく、話が平行線だ。拗ねた左翼は、右翼を振り返る。
 左翼の不満げな視線に気付くと同時に、右翼は困ったように笑った。


「じゃあ白状すると、ぼくだってヤキモチ焼きの面があるよ。例えば『このホットミルクを作るのに誰かの手を借りた』なんて言われたら、ぼくはすごく気分が悪くなるだろうからね」
「そう、なのですか? ……確かに、ヤキモチはされると少し嬉しいかもしれませんね」
「でしょう? だから、いいんだよ。左翼のヤキモチ、全部ぼくに頂戴?」


 やはり、右翼は凄い。左翼の中にあったモヤモヤを、一瞬にして消してしまうのだから。


「ですが、安心してください。このホットミルクは私だけの力で作りました。誰の手も借りていませんよ」
「うん、だと思った。左翼はお兄様想いのいい子だからね」
「右翼お兄様ったら、くすぐったいですよ」


 うなじに、右翼が顔を埋めている。くすぐったさに目を細めつつ、左翼は言葉を続けた。


「ですが、私はこうした作業を今までしたことがありませんでしたので、使用人に心配をかけてしまったみたいです。厨房からここに来るまで、使用人たちが心配そうに私を追いかけてきましたから」
「そうなんだ?」
「はい。それで、あの扉だけ開けてもらいました。両手が塞がってしまったので、その点では助かりましたけど」


 瞬間。


「……へぇ。そうだったんだ」


 右翼の声が、少しだけ低くなったのだが。上機嫌な左翼は、気付かなかった。

 そして当然ながら、右翼も左翼に気付かせるつもりがない。


「ねぇ、左翼。このホットミルク、左翼の口移しで飲ませてくれない?」
「えっ。くっ、くち、うつし……ですか?」
「うん、口移し。ねぇ、いいでしょ? お願い、左翼。……ね?」
「あ、あのっ、右翼お兄様……っ。いけません、こぼしてしまいますっ」

「じゃあ、こぼしてもいいよ。左翼の体が舐められるなら、これ以上ない棚ぼた展開だからね」
「なにもよくありません……っ!」


 迫られることに未だ慣れていない左翼の体を強く抱き締めながら、右翼は心の奥底から滲み出る暗い感情を笑顔に隠したのだから。




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