短編集[作:ヘタノヨ コヅキ]

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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【花言葉には頼らない】

オマケSS【スミレの花言葉は『素直』】 上

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 田塚は鳥羽井を見つめて、にこりと笑った。


「新しい花を育ててみようと思うんだ」


 それは、土曜日の朝。開店前のことだ。
 鳥羽井は掃き掃除をしながら、自分より背の高い田塚を見上げる。


「商品ですか? それとも、愛人とかそういう意味合いの【花】でしょうか」
「商品じゃないし、もうひとつの選択肢が残酷すぎるよ! ……そうじゃなくて、店の前に置く花のこと!」

「なるほど、そちらの【花】でしたか。驚きました」
「花屋の店長として至極当然のことを言っただけなのに!」


 ちなみに、鳥羽井は決して怒っているわけでも、嫌なことがあったから八つ当たりをしているわけでもない。……つまりは、平常運転だ。

 女性のことを花扱いしている田塚が一口に『花』と言っても、どの【花】なのかがイマイチ伝わり辛い。……つまりは、完全なる自業自得だ。


「店先に新しいお花を飾るのはとてもいいと思います」
「だよね? 商品として育てるんじゃなくて、自分たちのために育てるのって、また違った意味合いで楽しいんだよね」


 それには、鳥羽井も同感だった。
 田塚ほど花に詳しいわけではないが、鳥羽井は花を見るのも、育てるのも好きだ。

 それに田塚は、なんと言っても花屋の店長。鳥羽井の知らない花を用意できるだけではなく、鳥羽井が知らない花の豆知識も教えてくれる。

 ほんの少しだけワクワクとした気持ちで、鳥羽井は田塚の言葉を待つ。


「どんな花か、気になる?」


 鳥羽井の高揚が伝わったのか、あるいはただなんとなくそう思ったからなのか。田塚はタイミングよく、鳥羽井が知りたいことを口にする。鳥羽井は当然、頷いた。

 するとなぜか、田塚は目を丸くしたではないか。


「驚いたな。……キミが素直に頷いてくれるだなんて」


 いつもツンとしていて、田塚に対しては特にドライすぎる鳥羽井の対応。それを一身に受けている田塚としては、鳥羽井が素直に頷くのは予想外だったらしい。

 別にひねくれ者というわけでもない鳥羽井は、なんとなく田塚のセリフが面白くなかった。


「僕の好きなものに、キミが興味を持ってくれるなんて……嬉しいなぁ」


 可笑しそうに肩を揺らす田塚の反応が、ますます面白くない。……と言うよりも、なんだか気恥ずかしかった。


「私だって、花屋で働いているんです。お花に興味を持ったって、なにも笑われる理由はないと思いますが」
「あははっ、そうだね。……うん。素直な子は好きだなぁって」
「っ!」


 田塚お得意の、口説き文句だろうか。笑みを浮かべたまま、田塚は真っ直ぐに鳥羽井を見ている。

 最近の田塚は、なんだか変だ。鳥羽井の家に田塚が来た、あの日から。

 田塚はことあるごとに、鳥羽井に対して積極的すぎるアプローチをするようになっていた。それは当然、鳥羽井にとっては嬉しいのだが……。

 正直に言うと、どこまで本気なのかが、分からない。
 なにを隠そう、田塚は女と見れば赤子から老婆まで誰であろうと口説く男だ。そんな田塚の言葉をそのまま素直に受け取れるほど、鳥羽井は馬鹿ではない。

 だからこそ、鳥羽井は。


「えっ、あれっ? なんでそんなに睨むの?」


 とりあえず、田塚のことを睨んでみた。 




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