リビングデッドと雪男

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

文字の大きさ
4 / 49
2話【保険適用】

1

しおりを挟む
 バンシーは、妖精だ。性別は女のみ。
 見た目は人間と似ているけれど、れっきとした他種族だ。

 そんなバンシーだが、普段は人間と同じように生きていける。現に鷭とは同じ高校を共に卒業した。そのくらい、普通の友人感覚。

 だが、一つだけ大きな特徴がある。

 ――人の死を、叫び声で予告するのだ。

 そう言っていたのは鷭だったか、それとも別の誰かだったか……薄れゆく意識の中、俺は何でかそんなことを考えていた気がする。



 目が覚めた時、見覚えのある天井が視界に入ってきた。

 ――けれど、自分の部屋ではない。

 何だか気味の悪い感覚に、俺は視線を泳がせた。自分の部屋ではないと分かっているけれど、やはり見覚えがある。

 ――たぶん、俺が通院している総合病院だ。


「……ぁ、あー……っ」


 掠れているけど、声は出る。目も動くし、病院独特の匂いもした。

 ――なのにどうしたことか、体には何も感じない。

 横たわっている筈なのに、背中から何も伝わってこないのだ。毛布だって掛かっている。なのに重くもなければ軽くもないし、寒くも暑くもない。

 さて、あまり動じることがないと友人に言われている俺だが……さすがに状況が状況だ。こう見えて、かなり動じているぞ。

 そんな時だ。


「……し、失礼、しま……す」


 俺以外に誰もいなかった寂しい病室の扉が開き、誰かが入ってきた。

 ――訪問者にも、見覚えがある。


「……先、生」


 そこに立っているのは……他種族の医者だ。一応言っておくが、腱鞘炎の先生ではない。正直あまり関わったことがないけれど、見たことはある。

 ――目を惹かれる綺麗な容姿だからだ。


「あ、お、お目覚め……ですか……よ、良かったです……っ」


 動く度にキラキラと何かが舞い、それでも真っ赤な瞳でこちらを見ている先生はゆっくりと俺に近付く。


「えっと、えっと……どこか、違和感は?」
「違和感しかないです」
「で、ですよね……っ」


 俺は確か、腱鞘炎を診てもらう為にこの病院へ向かっていた筈だ。
 なのに今……俺はベッドに横たわっている。当然、意味が分からない。

 ぼんやりとする頭をグルグルと動かして、意識を失う直前の記憶を掘り起こす。
 確か、そう……鷭の叫び声を聞いて、それで……?


「や、山瓶子麒麟、さん……今から話すことを、よく聞いてくださいね」


 おぉ、説明してくれるのか。それは助かる。……なんて思うくらいには記憶が曖昧だ。渡りに船とはこのことか。

 先生は俺が横になっているベッドのそばに立つと、後ろ手に持っていたらしい一枚の紙を見せてきた。


「三日前、貴方が契約した『【種族・人間限定】死後生命保険』ですが……契約したその日に、貴方は交通事故で死にました。な、なので、その……保険が適用されて、えっと……貴方は今、リ、リビングデッド……です」


 備えあればなんとやら、というやつか。

 ……と思える余裕が、その時の俺には無かった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

三ヶ月だけの恋人

perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。 殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。 しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。 罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。 それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

処理中です...