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2話【保険適用】
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整理しよう。
俺は友人に頼まれ――もとい勧められて、ある保険に加入した。それは契約者が死んだ後、リビングデッドとなって第二の生を与えられるという何とも突飛且つこの街らしいと言えばらしい保険内容だ。
そして契約を結んだ後、かかりつけの総合病院へ向かう途中例の友人――バンシーの叫び声を聞いた。バンシーの叫び声は死を予告するものだ。つまり、それが聞こえてしまった俺はその時……死を予告されていたらしい。
で、実際に死んだ。死因は交通事故。ショックのせいか、イマイチ詳細な光景は思い出せない。
そこでさっきの保険が適用され、俺は見事リビングデッドとなった。絶賛、第二の生が始まる……今ここ、といったところか。
「理解しました」
「ず、随分と落ち着いてますね……っ」
「にわかには信じられませんが、自分の身に起こっていることを考えたら理解するしかないかと」
毛布の感触も、室温も、何も感じないのはそういうことらしい。理解するしかないだろう。
先生の話を思い出すと、どうやら俺は三日間眠っていたようだ。
上体を起こしてみる。が、やはり何も感じない。
「えっと、あの……保険内容、憶えていますか……?」
「リビングデッドになった後のことでしょうか?」
「は、はい……えっと、一応説明します……た、担当医、なので」
どうやら俺の担当医らしい先生が、白衣を着たままパイプ椅子に座る。
「えっと、これから一ヶ月……山瓶子麒麟さんには、その……リハビリを、受けてもらいます。その間、あの……寝泊まりする病室……えっと、お部屋は、ここです」
「はい」
「リビングデッドは食事を摂らなくてもいいのですが、その……食べちゃダメというわけではありませんので……食べたかったら、いつでもナースコールで申してください」
「分かりました」
ソワソワと落ち着かない様子で、先生がしどろもどろに説明をしてくれた。
とにかく、俺はリビングデッドとなってしまったのだから体に慣れなくてはいけない。保険内容には職場へのフォローも入っていたから、問題ないようだ。さすが天使、優しい。
「た、担当医は……ボク、馬男木雪豹……です」
「馬男木先生、ですね」
「っ、は、はいっ。何かありましたら、えっと……言ってください。一応、最初の一週間はリハビリルームまで車椅子で送り迎えを、します……」
至れり尽くせりだ。だが逆を言うと、一週間以内にリハビリルームまで歩けるようにならないといけない、ということだろう。
上体を起こしただけで、体の違和感が尋常じゃないから……正直、自信はない。
「あ、あの……えっと、その……必要無いかもしれませんが、一応……じ、自己紹介します」
馬男木先生は立ち上がって、ペコリと頭を下げる。
「馬男木雪豹、です。えっと、担当医です。あ、あとは……その」
恐る恐る顔を上げて、馬男木先生は一番重要っぽい部分を一際小さな声で囁くように呟いた。
「――た、他種族です。人間じゃありません。体は、その……雪で、できています」
もう一度頭を下げると、ふわっと何か――もとい、粉雪が髪から舞い落ちる。
――馬男木雪豹先生は、体が雪でできている【雪男】だそうだ。
俺は友人に頼まれ――もとい勧められて、ある保険に加入した。それは契約者が死んだ後、リビングデッドとなって第二の生を与えられるという何とも突飛且つこの街らしいと言えばらしい保険内容だ。
そして契約を結んだ後、かかりつけの総合病院へ向かう途中例の友人――バンシーの叫び声を聞いた。バンシーの叫び声は死を予告するものだ。つまり、それが聞こえてしまった俺はその時……死を予告されていたらしい。
で、実際に死んだ。死因は交通事故。ショックのせいか、イマイチ詳細な光景は思い出せない。
そこでさっきの保険が適用され、俺は見事リビングデッドとなった。絶賛、第二の生が始まる……今ここ、といったところか。
「理解しました」
「ず、随分と落ち着いてますね……っ」
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毛布の感触も、室温も、何も感じないのはそういうことらしい。理解するしかないだろう。
先生の話を思い出すと、どうやら俺は三日間眠っていたようだ。
上体を起こしてみる。が、やはり何も感じない。
「えっと、あの……保険内容、憶えていますか……?」
「リビングデッドになった後のことでしょうか?」
「は、はい……えっと、一応説明します……た、担当医、なので」
どうやら俺の担当医らしい先生が、白衣を着たままパイプ椅子に座る。
「えっと、これから一ヶ月……山瓶子麒麟さんには、その……リハビリを、受けてもらいます。その間、あの……寝泊まりする病室……えっと、お部屋は、ここです」
「はい」
「リビングデッドは食事を摂らなくてもいいのですが、その……食べちゃダメというわけではありませんので……食べたかったら、いつでもナースコールで申してください」
「分かりました」
ソワソワと落ち着かない様子で、先生がしどろもどろに説明をしてくれた。
とにかく、俺はリビングデッドとなってしまったのだから体に慣れなくてはいけない。保険内容には職場へのフォローも入っていたから、問題ないようだ。さすが天使、優しい。
「た、担当医は……ボク、馬男木雪豹……です」
「馬男木先生、ですね」
「っ、は、はいっ。何かありましたら、えっと……言ってください。一応、最初の一週間はリハビリルームまで車椅子で送り迎えを、します……」
至れり尽くせりだ。だが逆を言うと、一週間以内にリハビリルームまで歩けるようにならないといけない、ということだろう。
上体を起こしただけで、体の違和感が尋常じゃないから……正直、自信はない。
「あ、あの……えっと、その……必要無いかもしれませんが、一応……じ、自己紹介します」
馬男木先生は立ち上がって、ペコリと頭を下げる。
「馬男木雪豹、です。えっと、担当医です。あ、あとは……その」
恐る恐る顔を上げて、馬男木先生は一番重要っぽい部分を一際小さな声で囁くように呟いた。
「――た、他種族です。人間じゃありません。体は、その……雪で、できています」
もう一度頭を下げると、ふわっと何か――もとい、粉雪が髪から舞い落ちる。
――馬男木雪豹先生は、体が雪でできている【雪男】だそうだ。
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