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1章【先ずは先輩を消してくれ】

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 そんなこんなで、幸三との関係は三年。

 ほぼ毎日隣にお互いの存在を感じていた俺たちは、同僚よりは友人のような関係になっていた。休みの日に、一緒にどこかへ出掛けたことも何回かある。

 そんな幸三のことを、俺は営業部に異動しても大丈夫だとは思う。コミュ力お化けだからな、うんうん。

 だが、当の本人は暗い表情をしている。俺に軽口で返答するものの、浮かない表情のままだ。
 俺は手を止めずに、隣でブーブーと鳴いている幸三に言葉を返した。


「まさか幸三が、そんなにぼやくほど外回りが嫌だったなんてな」


 幸三なら企画課でさえなければ、どんな異動でも気にしなさそうに見える。そもそも、今いる商品係の仕事だって好きじゃないはずだ。何回か事務作業についての愚痴をこぼしていたからな。確証と証拠がある。
 それならいっそ、事務作業ばかりの事務部じゃなくて接客業の営業部向きな気がするぞ。

 幸三は自分のデスクに突っ伏して、子供のようにぼやく。


「外回りはイヤじゃないっつーか、むしろそっちの方がオレには向いてると思うけどさぁ……」
「はぁ?」


 だったら、落ち込む理由なんてないだろう。俺は入力途中のデータを一度保存してから、右隣に座る幸三へ体を向ける。


「……なぁ、幸三。異動する直前、構ってほしさにぼやいているだけなら【コレ】だぞ」


 左の肘をデスクに載せて、その手で頬杖をつく。俺は【コレ】と言いながら、自分の右手でグッと拳を握った。
 それを見て、幸三がギョッとした様子で、けれど突っ伏したまま俺を見る。


「イヤイヤイヤ! オレがいくらウザカッコいい男でも、ブン相手にそんなウザいことはしない!」


 ウザい自覚はあったのか。……と言うか『カッコいい』は今、言う必要がなかっただろ。そもそも、俺相手じゃなかったらしてたのかよ。

 ツッコミどころは満載だが、幸三がそう言うのなら、ぼやいている理由はそこではないのだろう。俺は仕方なく、他の理由を考えてみる。


「……あっ。この課に好きな子でもいるとか?」


 それなら、恋多き幸三にはあり得そうだ。
 しかし、幸三は左手をヒラヒラと振る。


「あっはは~! むしろ、先週振られました~っ!」


 なにを笑っているんだコイツは。そもそも、付き合っている子が同じ課にいたのか。もしも係まで同じ子だったら、たぶんこの会話はバッチリ聞かれているであろう声量だぞ。

 だが、それでも違うと言うのなら……。……じゃあ、その逆、か?


「営業部に嫌いな奴でもいるのか?」
「いや~……むしろ、逆? ってゆーか……?」


 逆なら、営業部に好きな子がいるってことになるな? そういう理由なら落ち込むのではなく、もっと喜べばいいと思うのだが。

 幸三は体を起こすと、自分が座っているキャスター付きの回転椅子を『シャーッ』と音を鳴らしながら滑らせて、俺に近寄る。
 そして幸三は、真剣な顔で俺を見てきた。


「なんだよ、気持ち悪いなぁ……っ」


 思わず少し後ろに引いてしまう。……なん、だと。その分、幸三は距離を詰めてきたではないか。
 俺がもう一度そっと体を引こうがお構いなく、幸三は話し始めた。


「オレの次にこの席に座る奴、知ってるか?」
「知らん」


 あぁ、そうか。幸三が異動するってことは、俺の隣に座る人が代わるってことだ。そんな当たり前のことに気付かないほど、俺は今回の人事異動に興味が無かったらしい。

 ……自分自身のことではあるが、なんだかこの無関心っぷりが情けなく思えるな。




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