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4章【先ずはハッキリさせてくれ】

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 先輩に『優しい奴でいてやる』宣言をして、また数日後。


「牛丸、ちょっといいか?」
「はい」


 先輩は上司に呼ばれて、自分のデスクを離れた。その様子を、俺はチラッと盗み見る。
 距離があるので、話している内容はあまり聞こえない。だが断片的に聞こえる会話から、先輩は上司から『会議で使う資料を作成するように』と頼まれているようだ。

 先輩は笑顔で、上司の頼みを受けている。……随分と余裕そうな表情じゃないか。
 俺はチラリと、先輩のデスクを見る。

 デスクの上には、先ほど別の上司から頼まれた書類が置いてあった。それでも先輩は苦労や迷惑といった顔をせず、笑顔で上司に応対している。その顔を見ていると、イライラとモヤモヤがハイブリットされたような感情が湧いてきた。

 忘れてはいけないが、先輩は俺をレイプしようとしてきたのだ。パッと事実だけを見てみると、かなりの節操なしだった。
 しかし残念なことに、先輩は俺より仕事がこなせる。……まったくもって、面白くないことこの上ない存在だ。


「あれ? 今、僕のこと目で追ってた?」


 俺の隣のデスクに、上司から渡された資料を持つ先輩が戻ってきた。目を逸らすのが遅れたせいで、上司とのやり取りを見ていたのがバレてしまったようだ。

 俺はなにも言わずに、視線を自分のパソコンに戻す。


「あははっ。子日君に見つめられていると、なんだか照れるねっ」


 そんな軽口を言って、先輩は笑った。

 ……本当に、心から。先輩のことは苦手で嫌いで消えてほしい存在だ。
 だが最近、またしても先輩について気付いてしまったことがある。


「先輩、こっちを見てください」
「えっ? うん、いいよ?」


 先輩はそう言い、体ごと俺を振り返った。……ふむ、なるほど。
 俺はその後、たまたま後ろを通りかかった女性職員に声をかけた。


「──すみません。この人の顔、どう思いますか」
「「──えっ」」


 俺の質問に対し、女性職員だけならず先輩までもが驚く。なんだよ、そんなに驚くような話か?
 女性職員は戸惑いつつも、先輩の顔を見る。


「え、っと。……カッコいい、ですよね」
「分かりました、ありがとうございます。引き留めてしまってすみませんでした」
「いえ、お気になさらず……?」


 女性職員はヤッパリ戸惑ったまま、俺たちに頭を下げて離れていく。
 俺は上げていた視線を先輩に戻し、そのまま眉を寄せた。


「──良かったですね、先輩」
「──なにがっ?」


 先輩は右手首を押さえて、驚いた様子で俺を見る。


「今の質問はなにっ? あの子も僕もビックリだよっ?」
「はぁ、そうですか」
「なんでそんな不服そうな顔をっ?」


 先輩はガンとショックを受けていた。

 突然話を振られた女性職員と、好意じみた反応を嫌がる先輩か。……確かに、今のは俺が悪かったかもしれない。
 だが、これは仕方のないことなのだ。これこそが、最近気付いたことなのだから。


「……先輩。こっち向いてください」
「別にいいけど、今度はなに?」
「あっ、もういいです」
「本当になんなのっ?」


 疑惑程度だったことが、確信へと変わる。

 ──あぁ、やはりそうか。

 ──見れば見るほど、先輩の顔はカッコいいのかもしれない、と。

 俺は先輩と出会って二ヶ月越しに、気付いてしまったらしい。




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