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4章
40【不都合な果実】※
しおりを挟む「んッ……あ、ぐり……ゃ、ァっ」
「璃津ッ……」
特別局の中でも、普段はほとんど人の寄り付かない資料室や備品庫がまとめられた階。カビ臭く埃っぽい一室で、阿久里は丹生におおいかぶさっていた。
30分前。「資料整理を手伝ってくれないか?」と阿久里に呼び出され、指定された資料室へとのこのこ出向いていった所、目にも止まらぬ速さで引きずり込まれてしまったのだ。
(俺としたことが、ぬかったぜ……。こいつも長門気質だったとは予想してなかった。もっと王道に攻めてくる常識人だと思ってたのに。まぁ、冷静に考えたら班長やってるユーバだもんな。猫かぶってて当然か……)
そんな反省も虚しく、既に脱出は不可能な局面が今、というわけである。
室内は採光用の小さな丸窓があるのみで、昼でも薄暗い。真夏だというのに、打ちっ放しの壁はひんやりとしている。
阿久里は丹生の脚の間に片足を入れ、体全体を使って壁の間へ閉じ込めて、興奮を隠しきれない吐息を漏らしていた。激しく唇を貪られ、シャツの隙間から差し込まれた手で撫で回される。
「ァ、ぐり……っ、ちょっと、待って……ッ」
「ッハ……なに、どうしたの?」
「こんな所で……したくない……」
「ああ……分かってる、最後までは絶対しない。ただもう、お前に触れられないのが限界だから……少しだけ、な……?」
言い終わると同時に唇を塞がれた。何度も角度を変え、吸ったり吸われたり、噛んだり噛まれたりと口腔を暴き合う。
押し付けられた腰は阿久里の欲望がその形をはっきり示し、揺するように動かされて擦り付けられると、どれほど猛っているかよく判った。
丹生は敢えてしがみつくように抱きつき、さりげないフリで足を絡ませる。阿久里が更に興奮するのが、手に取るように分かった。しかし、絶対にそこへは触れてやらない。歯止めが効かなくなるからだ。
そうして、生殺しの状態を楽しんでいるのだ。恋人を裏切っている阿久里への嫌悪からくる、丹生の悪い癖だ。
唇から耳へ移った阿久里の舌がピアスを弄び、カチャカチャと金属の擦れ合う音が、やけに大きく響く。それを聴きながら、皆これをしたがるのは何故だろうかとぼんやり思った。朝夷もよくピアスを噛んで引っ張るし、棗も同様だった。
ピアスから離れ、耳の中へぬるりと舌が滑り込んで来る感覚に、ぞわりと鳥肌が立った。くちゃくちゃ、と生々しい水音が鼓膜を叩く。丹生はこの行為が苦手だ。あまりしつこくやられると耳に水が入ったようになり、後々、非常に不快なのだ。
基本的に無頓着なくせに、変な所で潔癖症が出るのだが、眉をひそめるにとどめて身を任せる。後で首から上を洗っておこう、と思った。
やがて欲情しきった熱い吐息がかかり、耳の上側を軽く食まれた。丹生の股間に、阿久里の大きな手がそっと当てられる。
「少しだけ触ってもいいか……?」
「ダメだよ……止まらなくなるでしょ……」
「大丈夫、舐めるだけ……。それ以上しないから……。頼むよ、璃津……」
「ええ……? そんなことして、なんの意味が……ッあ!」
丹生が言い終わらないうちに、阿久里はスラックスと腹の間へ手を滑り込ませた。勃ち上がりかけていた丹生のそれを、下着の上から緩々と擦られる。
「舐めさせて……。そしたら俺、自分でするから……」
丹生は荒く息をつき、潤んだ目で阿久里を見上げた。それを肯定と取った阿久里は、素早くベルトを外して下着ごと足元へ落とした。
「はぁ……当たり前だけど、初めて見たな。璃津のここ、色も形もすごく綺麗だ……。見てるだけで射精しそう……」
「バカか……。も、あんま見んなって……。恥ずかしいだろ……」
ぱくりと口内へ含まれ、熱い舌が器用に絡み付いてくる。ダイレクトな刺激に背筋を快感が駆け上り、腰が砕けそうになった。
冷たいコンクリートの壁で体を支えながら、脚の間にひざまずく阿久里を見下ろした。思わず嗤いが込み上げそうになるのを、必死でこらえる。
花形班の班長ともあろう者が、夢中で男の下半身にむしゃぶりついているのだ。あまつさえ、自分の右手で自らを慰めている姿は酷く滑稽で、たまらなく愉快だった。
快感に身を震わせながら、丹生は阿久里の柔らかい金髪を指に絡めて弄ぶ。さすがにその舌技は巧妙で、的確に良いところを刺激してくる。
「ッふ、さすが班長……やっぱり巧いね……」
丹生の呟きに、阿久里は一旦、含むのを辞め、竿に長い舌を這わせながら答える。
「ハァ……そりゃ、悦んでもらいたくて必死だからね……。気に入ってくれた?」
「……すごくイイ。最高だよ……」
上気した頬でこちらを見下ろし、妖しく嗤う丹生に、阿久里は鳥肌が立つほどの興奮を覚えた。なにせ、普段はそんな雰囲気など微塵も無く、無邪気に笑う顔しか知らなかったのだ。正に妖艶そのものである。
「ああ、璃津……。本当に綺麗だ……この世の誰より美しいよ……」
扇情された阿久里は再び丹生のそれを含み、一層、激しく刺激した。自身も右手の速度を上げている。丹生は与えられる快楽に目を閉じ、阿久里の後髪をわずかに握った。
「イきそう……? 良いよ、そのまま出して……」
「ン……ぅ……ぁ、あ……イく……出るッ……」
阿久里の頭と肩に手を付き、口腔に吐精した。鈴口を舌でくじられ、残渣を余さず吸い上げられて脚が痙攣する。直後、手を付いていた肩が強張り、阿久里も達したのだと判った。
ズルズルと背を擦りながら床に座り込むと、冷めやらぬ欲情に瞳を潤ませた阿久里が口元を拭っていた。
「美味しかったよ、璃津の精液」
「ははっ。なにそれ、変態っぽい。阿久里のはー……」
丹生は阿久里の白濁に塗れた手を掴み、その指に舌を這わせた。舐め取り、婀娜っぽく笑って言う。
「んー……意外と濃いね。もっと薄いんだと思ってた」
「……やめてよ、そういうことするの……。また興奮するだろ……」
目元を染める阿久里を見て、おかしそうに笑う顔はいつもの丹生である。
と、足首にまとわり付いていた丹生のスラックスから振動音が響いた。鳴っていたのは社用携帯で、液晶を見てギクリとする。
「……阿久里さ、今、社用の携帯持ってる?」
「ああ、うん。持ってるけど、どうかしたの?」
「まじかー。ちょっとヤバいかも、これ……」
「え、なに? 誰から?」
「部長……。とりあえず出るから、静かにしてて」
それを聞いた阿久里は、疑問符を浮かべながらも頷いて身支度を整え始めた。丹生は軽く溜め息をつき、自分もスラックスを履きつつ携帯を耳に当てる。
「はい」
【よう。お楽しみ中だったか?】
「そんなワケないでしょうが。また人のGPS監視してんですか? 暇なんですか?」
【これも仕事なんだよ。そんなカビくせぇとこに同僚タラシ込みやがって、お前こそ暇だろ】
「残念でしたー、資料整理の手伝いしてるだけでしたー」
【ふうん、どうだかなぁ】
「もー、やめてよホント。で、何か用があるんじゃないんですか?」
【ああ、椎奈が阿久里のこと探してたから、忠告してやろうと思ってな】
「げ、まじか。阿久里ー! 椎奈さんが探してるって! 早く行ってあげたほうが良くない? 後は俺がやっとくから」
「えっ!? あ、ああ、分かった! じゃ、悪いけどお願いするよ!」
「はーい」
ギョッと青ざめてバタバタと出て行く阿久里を見送り、丹生は電話口で大きく嘆息した。
「はぁ……」
【阿久里は行ったか?】
「うん、血相変えて出てったよ。それにしても椎奈さん、なんで電話しなかったんだろ。そのほうが探し回るより早いのに」
【ああ、それ嘘だから】
「はい?」
受話器の向こうで愉快そうな高笑いが聞こえ、イラッとする。
「アンタね……部下で遊ぶのやめてくれる?」
【遊んでんのはお前だろ。俺は助けてやってんだぞ】
「誰を」
【ここんとこ、阿久里と棗の様子がおかしいって、神前が心配してたからな。棗はともかく、阿久里はまずいだろ】
「ああ……なるほど」
【お前のことだから、上手く躱すとは思うけどな。一応、気にしてやってんだよ】
「お心遣い、痛み入ります。それにしても、ナナちゃんの目敏さは流石だね。貴方に心酔してるだけあるわ」
【そうだな。しかし神前の場合、お前のこととなると特別に鼻が利く。かくも尊き友情の賜物か、常に先んじるための監視か、どっちだろうな?】
「どっちでも良いさ、貴方が守ってくれるならね」
【相変わらず口が巧い。ま、イタズラも結構だが、程々にな。ちゃんと仕事もしろよ】
「はーい」
通話を終えると、丹生は首を傾げる。
(部長は一体、どこまで勘づいてるんだろう。阿久里は分かるとして、ナナちゃんのことまで……。まぁ、どうでも良いか。バレてもこの調子なら支障はない。むしろ助かってるくらいだしな。部長もナナちゃんも、良い仕事してくれてラッキーだぜ)
愉快そうに笑みをこぼしながら携帯をポケットに戻し、丹生は薄暗い資料室を後にした。
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