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7章
72【合同暴露会議】
しおりを挟む復帰初日は、ちょうどアグリ班の合同報告会議だった。
珍しく全チームメンバーと研修官が揃っており、おあつらえ向きの舞台となったため、挨拶がてら丹生が議長を務める事となった。
「まず会議の前にひと言。この度は本当にご迷惑、ご心配おかけしました。捜索に尽力してくれた皆に心からの感謝、ならびにお詫び申し上げます」
深々と頭を下げ、ひと呼吸置いてから「ただいま!」と満面の笑みで言った。室内から軽い拍手と「おかえり」と答える声が上がり、空気が一気にやわらいだ。
「さて、じゃあ会議始めまーす。何か報告ある人、居る?」
「はーい」
郡司がひらひらと手を挙げた。
「例の出茂会の枝は、公安部とマトリが一斉検挙のアミかけて取り合いしてまーす。武器と薬ダブルでいってたから、縄張り争いで死人が出そうな勢いだそうでーす」
「まったく、あそこもホント仲悪いよなぁ……俺らもだけど。公安部って職務内容被るところ多すぎだろ。ま、俺のせいで迷惑かけたし、マトリに有利な情報流して礼って事にしとこ」
「了解。俺の情報も後で渡すよ」
「サンキュー、郡司。俺も近いうちに逢坂へ接触して、今回の詳細調査と後始末やっとくわ」
「まだ早くないか? お前がただのフリーターじゃない事は、今回の件でバレただろう。万が一、向こうが逆上したらタダじゃ済まないぞ」
眉間に皺を寄せて言うのは神前だ。丹生は首の後ろに手をやって答える。
「身バレは確実だろうけど、別に本部はターゲットじゃないし、あのパイプ切るには惜しすぎるからな。逢坂は頭良いし、なにげに情に脆い男だから、協力のメリットとリターン押さえて説明すれば、聞くには聞くはず。その後も繋げてられるかは未定。次の会議までには報告できるようにしとくよ」
「俺は反対だ、危険すぎる。班長として許可できない」
重く言い放った阿久里は、声音に反して丹生から目を逸らせている。面倒だな、と思いながら丹生は苦笑した。
「逢坂は俺の協力者だ。局にとってもかなり有益な人物だから、これに関しては俺に決定権がある。どうしても反対するなら、部長と局長を通してくれ」
「……ならそうするまでだ。あの男のせいで窮地に陥った事実は変わらない。単身で接触するなんて、言語道断だ」
頑なに言い張る阿久里に、にわかに場の空気が険悪になり、研修官らはひりつく雰囲気に冷や汗を滲ませている。
「辞めとけよ、時間の無駄だから。逢坂は俺と王に面識があった事すら知らなかった。あの件に逢坂が関与していない事は明白。更に言えば、彼の動向で捜索がはかどった部分もあるはずだ。実際、本部に捜査の手が及んでいないのが良い証拠だろ。切る理由は無い。分かってくれるよな、阿久里班長」
語尾を和らげて言い含められ、阿久里は一瞬、苦しげに丹生を見たが、すぐに目を伏せて押し黙った。
丹生は「よし!」と明るく両手を打ち、室内を見回した。
「他に報告あるー?」
すっ、と椎奈が手を挙げる。
「報告ではないが……もし構わなければ、概要だけでも聞かせて貰いたい。君の拉致から奪還までに関して、我々には一切の情報が来ていない。今後の対策に関わる問題だし、君の精神衛生面も知っておきたいのだが、どうだろうか」
「了解。とは言え、ひたすら俺の恥さらし話になるから、みんな笑わないでね」
そう前置きして、丹生は料亭で王睿と出くわした所から始め、救出されるまでをざっくりと説明した。
「……と、まぁこんな感じ。念の為、休暇中に病院も行ってきたけど、心身ともに問題無し。研修官たちは俺みたいにゆるゆるな任務しちゃ駄目だぞー。絶対に見習わないようにー」
最後のひと言で、室内に密やかな笑い声が満ちる。
「しかし、璃津が昏倒するレベルの睡眠薬となると、相当ヤバい代物だな。俺らの中でも薬品耐性1番高いし、特に麻酔系はほぼ効かないのに。成分が気になる」
腕を組んで考え込む神前に、丹生も記憶をたぐりながら答えた。
「たしか特別調合とか言ってたけど、あの時は寝不足とアルコールで万全じゃなかったからなぁ。強めのヤツ幾つか混ぜてたのかも。ま、そもそも飲まされた時点で迂闊でしたわ、反省極まれりだわ」
「つーか、特殊任務課ってマジであったんだなー。ただの噂だと思ってたわ。実際、会ってみてどうだった? やっぱゴリゴリの武闘派?」
興味津々な羽咲の問いに、ひらひらと手を振りながら苦笑する。
「いや、全然。むしろ、めちゃくちゃ親切で良い人たちだったよ。美男美女でびっくりしたもん」
「そういや、〝赤い鳥〟が出張ってたらしいな。そんなに美人なのかよ、いっぺん見てみてぇんだよなぁ」
「へー、棗でも会った事ないんだ。てか、赤い鳥ってなに?」
「四之宮2佐の通り名。最前線に飛び込んでいく戦闘狂で、ぶち殺した敵の返り血で真っ赤になって帰ってくるんだとか。嘘くせぇ話だけどな」
まるでアニメかゲームのキャラクターのような言われように、丹生は思わず吹き出した。他の調査官らも失笑している。
「確かに〝籠の鳥〟と言えば冷酷無情な殺人集団って噂だよね。信じてたワケじゃないけど、やっぱりデマだったんだ」
「そりゃ見境なく殺して回るなんて事は有り得ないが、実際、武力制圧や暗殺は彼らの仕事だからな。冷酷ってのは合ってるんじゃないか」
「何にせよ、俺たち以上に機密性が高い組織だから。その一角でも見られたなら、璃津はかなりラッキーだよね」
郡司と阿久里がそんな事を話していると、棗がふと声を上げた。
「一角ってんなら、辻のほうがもっと見てるだろ。なんせ、嫁が特務課なんだからな」
とんでもない情報を暴露された辻は「まじ最悪」と頭を抱え、室内はしんと静まりかえった後に皆の絶叫が響き渡った。
「はぁ!? お前、結婚してたのか!?」
「しかも特殊任務課と!?」
「どこでどうなったらそうなんの?」
「米呂てめー、なんでそんな面白いネタ言わねぇんだよ!」
阿久里、椎奈、郡司、羽咲に詰め寄られ、辻は面倒そうに髪をガシガシやりながら答えた。
「あーもう、ぜってー許さねぇからな、棗!」
「良い機会じゃねぇか。ちょうど話題に出た事だし。嫁自慢したくて仕方ねぇくせに、意地張ってんなよ」
「素性バラしちゃ駄目なんだよ! 分かるだろそれくらい! もし俺が死んだらてめーのせいだぞ!」
辻と棗がやいのやいのと小競り合う中、丹生はパンパンと手を打ちながら声を張った。
「はーい、静かにー。聞いちゃったもんはしゃーない。幸い会議中だし、ここで見聞きした事は部外秘だからさ、教えてよ米呂。めちゃくちゃ気になる」
「えー……マジでヤバいんだけどなぁ……。まぁ、ここだけなら良いか。お前ら、ぜっっったい外部に漏らすなよ!」
「了解ー」
辻は深く嘆息した後、名前は伏せた上でしぶしぶ説明してくれた。
「昔、防衛省のシステム本部からペネトレーションテストの協力要請があって、出逢ったのはそこだな。俺がひと目惚れして即プロポーズして、今に至るって感じ」
「即プロポーズって、想像以上に劇的でびっくりしたぞ。お前がひと目惚れするって事は、相当、可愛かったか美人だったのか?」
阿久里の問いに、辻はそれまでの渋面から一転して、締まりの無いにやけ顔になった。
「そりゃもう美しいのなんのって! 彼女、珍しい全頭皮発症型の尋常性白斑でさぁ。生粋の日本人なのに髪が真っ白で、肌も白くて、もう存在が神々しい。しかもホワイトハッカーの腕も超一流でね、彼女こそ名実ともにホワイトクイーン。俺の女神様」
「お、おう……。やっぱり自慢したくて堪らなかったんだな……」
「へえー、そりゃ珍しいもの好きな米呂がひと目惚れするのも納得だわ」
「内気であんま喋んない所もまた神秘的でさぁ、ホント愛してる。あー、話してたら会いたくなってきたー」
堰を切ったように嫁自慢の止まらない辻に、皆は驚きつつ熱量差に引き気味だ。
「結婚してどれくらいなの?」
「5年目。あと100年見てても飽きない自信ある」
「5年!? お前、最年少のくせにちゃっかり妻帯者一番乗りかよぉ。ずりぃー!」
「ま、俺はお前らと違って、めんどーなバディのいざこざが無いもんでね。充実した夫婦生活送らせてもらってるワケ。とは言え、彼女くそ多忙だから、あんま帰ってこないんだけどさー」
「充実してるのか、それ……」
辻は元フリーのブラックハッカーだったが、当時の調査部長が腕を見込んでスカウトし、ホワイトハッカーへ転身を果たした。入庁当時は19歳で、丹生よりひとつ歳下だ。
「なー、特務課が嫁ってどんな気分? やっぱ心配?」
丹生の問いに、辻は首をかしげて「うーん」と思案げな声を上げる。
「特務課つっても兼任だし、ほとんどサイバー隊に居るからなぁ。任務内容とかお互いまったく知らないし、そう心配って事もねぇよ。特に俺らってシステム担当だから、現場出る事も少ないしな。しかも自衛官だし、俺より強いと思うしさ」
「なるほどね。ハイスペック理系夫婦か、かっこいいなぁ」
「辻も璃津に負けず劣らず、ぶっ飛んでるよな。まぁ、幸せそうで何よりだよ」
と、話がひと段落した所で、おもむろに朝夷が丹生の隣へ立ち並んだ。
「最後に、俺たちから報告がありまーす」
「なに、なに」
「怖い」
「今度は一体、どんな厄介事を……」
室内が嫌な予感にざわつく中、朝夷はぐいと丹生を引き寄せ、肩を抱いて高らかに宣言した。
「俺たち、結婚を前提にお付き合いさせて頂く事になりましたー!」
部屋は再び静まり返り、全員がぽかんと朝夷を見たあと、丹生を見る。どうせまた朝夷の悪ふざけだろうと、誰もが思っていたからだ。
丹生は、結婚前提とか初耳だし、膨らんでるぞ話が、と顔を引きつらせながらも、ひとつ息を吐いて口を開いた。
「……まぁ、そういう事です……」
その後、たっぷり1分ほどの間の後、会議室の外まで響くチームメンバーの絶叫があがったのだった。
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