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第三章 フリーユの街編
24 許してください
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シフォンに夕飯までのつなぎとして賄いを届け、一階の厨房に戻ってきた僕の耳に何やら騒がしい声が聞こえてきた。
「どうすんのよ!」
「あたし知らなーい」
「うちも違うし」
「あんた達以外に誰がこんなことすんのよ!」
「そう言われても知らないもんは知らないし」
「ねー」
カレンがエルフさん達をこっぴどく叱っている。
けれど、エルフさん達はどこ吹く風だ。
何があったんだろう。
「どうかした?」
「あ、アレク! どこ行ってたのよ!」
カレンは随分とお怒りのようだった。
「妹と仲間の様子を見にね」
「そんな暇あったら仕事しなさいよ!」
「皿洗いは終わったよ」
「仕事は山ほどあるの! 下っ端が逆らうな!」
ビシッと指を向けられる。
カレンはすこぶる機嫌が悪いようだ。
勝負に負けたことを根に持っているのかな。
決着後そんな風には見えなかったけど。
「カレン、どうかしたんですか?」
ぼそっとエルフさん達に聞いてみる。
「アレきゅん聞いてよー。うちら知らないって言ってるのに、カレンっちが、うちらがやったってうるさいんだよー」
「マジありえなくない?」
「……はあ」
何が何だか。
要領を得ない。
「あ、アレきゅんもウチらのせいだって顔してるー。つまみ食いなんてするはずないのにねー」
「虹色魚なんて高級魚、さすがにママが怖くて手を出せないつーの」
つまみ食い?
虹色魚?
詳しく話を聞いてみると、どうやら冷蔵庫にあったはずの食材がないらしい。
解凍しておいた高級魚が無くなったことに、カレンは腹を立てているようだ。
犯人として上がっているのがエルフさん達2人なのだとか。
カレンが厨房を抜ける二十分前までは確認されていたので、その間で消えたことになる。
つまり厨房にいたエルフさん達にしか犯行できない、というのがカレンの主張だ。
けれどエルフさん達は知らないと言う。
互いの主張が一致せず押し問答が続いているのが、現在の状況らしい。
エルフさん達とのやり取りに疲れてきたのか、カレンはため息をついた。
「ほんとどうしよう。このままだとママに怒られるじゃない……」
「そんなに高い食材なの?」
僕は冷や汗を流しながらカレンに恐る恐る質問する。
「それもあるけど、常連さんのために準備しておいたものなの。その人、忙しくて毎日は来れないけど月に一回来てくれるから、毎月特別に取り寄せてるのよね」
「そ、それは今すぐ買えないの?」
「特別にって言ったでしょ。滅多に市場に出回らないから高級魚なの。そう簡単に手に入らないわよ。あーあ、その人毎月楽しみにしてくれてるのにどうしよう……」
そう言いながら、カレンは知らんぷりをしているエルフさん達を睨みつける。
十中八九2人が犯人だと思っているようだ。
「どうしよう」
思わず口から漏れ出た言葉に、カレンから訝しげな目を向けられる。
「関係ないアレクまで落ち込む必要ないでしょ。あなたは別の仕事して」
「どうしよう……」
「だからあなたには関係ないでしょ。さっさと仕事して」
「ほんとどうしよう」
「さっきからなんなの!? あんたまで落ち込む必要ないでしょ!? 関係ないんだから」
「関係あるんだ」
「はあ? なによ、臨時で働いてウチの一員になったつもり? この件はあんたには関係ない」
「いや、関係あるんだよ。本当に」
というか、僕が起こした事態だと言っても過言じゃない。
犯人僕だし。
僕の気持ちが伝わったのか、カレンは口を閉ざし何やら考え込む仕草をする。
待ってとか、嘘でしょといった呟きが聞こえる。
「….…もしかしてアレクなの?」
何が、とは訊ねる必要もなく僕はただ頷いた。
「は……」
カレンがぷるぷる震え出す。
顔が真っ赤だ。
「はぁああああああああああ!? なら、さっさとそう言いなさいよバカ!!」
ごめなさい。
・・・
「やってしまったのは仕方がないね」
カレンの報告を聞いたママさんの第一声がそれだった。
怒っている様子はなく、文字通り仕方がないといった顔だ。
「許しちゃうのママ!? レッドさんのために準備してたのに!」
対してカレンは納得いかないと声を上げた。
どうやら常連というのは、レッドという人らしい。
レッド。
どこかで聞いたような名前だ。
あ、冒険者の会話にそんな人の名前が出てきたな。
「誰だって失敗はするものさ。カレンだって初めて料理した時は失敗ばかりしていたじゃないか」
「それはそうだけど! でもでも!」
「起こってしまったことはどうしようもない。あんただって理解してるはずだよ。何がそんなに不服なんだい」
「レッドさんに店を潰される……」
「え」
レッドという人は、魚を食べれないだけで暴れるような頭のおかしな人なのか。
どんな人なんだ。
いや、ルド達の会話からして冒険者関係の人っぽいし、あの人たちの仲間だと思えばあり得る話でもあるかな。
だってルドはいきなり唾を吐いてきたし。
それに忙しいけど月に一度足を運んでいるのは、虹色魚を楽しみにしているからという可能性が大いにある。
月に一度の楽しみが奪われたと思えば、むしゃくしゃして暴れてしまうのもあり得るか。
それにしても店が潰れるって大袈裟な話じゃないかとは思うけど。
すごい怪力自慢の人とか?
もし店が潰されたら、僕が責任取らないといけないんだろうな。
お金は足りる、はずないか。
一生ここで働けとか言われそうだ。
僕が内心びくびくしていると。
「ハハハ! レッドは、そんなことで店に損害を与えるほど肝の小さな男じゃないよ! あいつは誰よりも自由で心が広いやつさ! 事情を話せばわかってくれるさね!」
ママさんが豪快に笑った。
それを聞いて、僕はほっと胸を撫で下ろす。
よかった。
許してくれる人らしい。
会ったことないのに、レッドさんに対する好感度が上がっていく。
殺してやる、とか言われたらどうしようかと思っていた。
「でも…!」
しかしカレンは食い下がる。
「なんだい。そんなに不安なのかい」
僕も気になってはいた。
僕やエルフさん達には、あんなに強気で当たってきていたカレンが、今はしゅんとしおらしくなっているのだ。
魚如きで、と言っちゃアレだけど(やらかしたのは僕だし)、
そこまで思い詰めるほどなのかなと疑問が生じる。
ママさん曰く、レッドさんは優しい人っぽいしこの問題は解決したといっても良いのではないか。
カレンが不安になる要素はどこにあるのだろう。
ママさんの表情を見るに、何となく分かっている感じだけど。
「この件で店の信用を失ったらどうしよう……」
以前から宿屋に対して並々ならぬ思いは感じていたが、どうやらカレンは宿屋が無くなることがよっぽど怖いようだ。
頭では無くならないと分かっていても「もしかしら……」そんな不安が消えないのだろう。
考えすぎってやつだ。
大抵は杞憂に終わるんだけどね。
僕もアリスのことを考えると、不安は増える一方だし、思考が錯綜して結局解決案が思いつかないまま時間だけが過ぎていくというのがここ最近頻繁にある。
いくら考えたところで、未来を予知することは誰にもできないのだから、時が流れるままに身を任せるしかない。
そうと理解していても、常に頭の片隅には黒い靄が居座り続けている。
考えないようにしようと思っても気がつくと考えてしまう。
ループに陥ってしまう。
一度芽吹いた不安は中々消えてくれないのだ。
カレンも似たような心境なのだろう。
数秒の沈黙。
はぁ、とママさんはカレンの元に歩み寄る。
「仕方がない子だね」
そう言ってカレンの頭にポンと手を置いた。
「店は何があってもアタシが守ってやるさ。安心しな」
「……うん」
目元を擦って頷くカレン。
「それに」
くるっとこっちをみるママさん。
分かっているんだろね、みたいな目を向けてくる。
なに?
どういうこと?
「あんたを打ち負かしたアレクがいるんだ。この店は安泰どころか、今後はより一層人気店になるだろうね!」
この言い方。
もしかして。
「アレク、あんたは正式にウチの料理人にすることにしたよ! 明日からも働いてもらうからね! サボるんじゃないよ!」
「え?」
「虹色魚を勝手に食っちまったんだ! 文句は言わせないよ!」
食べたのはシフォンなんだけどな。
とはいえ、言い訳できる雰囲気でもないか。
僕は、はいとも嫌だとも言わず黙りこむ。
頭の中はフル回転だ。
ーーどうやって逃げようかな。
不安の種がまた一つ増えた。
「どうすんのよ!」
「あたし知らなーい」
「うちも違うし」
「あんた達以外に誰がこんなことすんのよ!」
「そう言われても知らないもんは知らないし」
「ねー」
カレンがエルフさん達をこっぴどく叱っている。
けれど、エルフさん達はどこ吹く風だ。
何があったんだろう。
「どうかした?」
「あ、アレク! どこ行ってたのよ!」
カレンは随分とお怒りのようだった。
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「そんな暇あったら仕事しなさいよ!」
「皿洗いは終わったよ」
「仕事は山ほどあるの! 下っ端が逆らうな!」
ビシッと指を向けられる。
カレンはすこぶる機嫌が悪いようだ。
勝負に負けたことを根に持っているのかな。
決着後そんな風には見えなかったけど。
「カレン、どうかしたんですか?」
ぼそっとエルフさん達に聞いてみる。
「アレきゅん聞いてよー。うちら知らないって言ってるのに、カレンっちが、うちらがやったってうるさいんだよー」
「マジありえなくない?」
「……はあ」
何が何だか。
要領を得ない。
「あ、アレきゅんもウチらのせいだって顔してるー。つまみ食いなんてするはずないのにねー」
「虹色魚なんて高級魚、さすがにママが怖くて手を出せないつーの」
つまみ食い?
虹色魚?
詳しく話を聞いてみると、どうやら冷蔵庫にあったはずの食材がないらしい。
解凍しておいた高級魚が無くなったことに、カレンは腹を立てているようだ。
犯人として上がっているのがエルフさん達2人なのだとか。
カレンが厨房を抜ける二十分前までは確認されていたので、その間で消えたことになる。
つまり厨房にいたエルフさん達にしか犯行できない、というのがカレンの主張だ。
けれどエルフさん達は知らないと言う。
互いの主張が一致せず押し問答が続いているのが、現在の状況らしい。
エルフさん達とのやり取りに疲れてきたのか、カレンはため息をついた。
「ほんとどうしよう。このままだとママに怒られるじゃない……」
「そんなに高い食材なの?」
僕は冷や汗を流しながらカレンに恐る恐る質問する。
「それもあるけど、常連さんのために準備しておいたものなの。その人、忙しくて毎日は来れないけど月に一回来てくれるから、毎月特別に取り寄せてるのよね」
「そ、それは今すぐ買えないの?」
「特別にって言ったでしょ。滅多に市場に出回らないから高級魚なの。そう簡単に手に入らないわよ。あーあ、その人毎月楽しみにしてくれてるのにどうしよう……」
そう言いながら、カレンは知らんぷりをしているエルフさん達を睨みつける。
十中八九2人が犯人だと思っているようだ。
「どうしよう」
思わず口から漏れ出た言葉に、カレンから訝しげな目を向けられる。
「関係ないアレクまで落ち込む必要ないでしょ。あなたは別の仕事して」
「どうしよう……」
「だからあなたには関係ないでしょ。さっさと仕事して」
「ほんとどうしよう」
「さっきからなんなの!? あんたまで落ち込む必要ないでしょ!? 関係ないんだから」
「関係あるんだ」
「はあ? なによ、臨時で働いてウチの一員になったつもり? この件はあんたには関係ない」
「いや、関係あるんだよ。本当に」
というか、僕が起こした事態だと言っても過言じゃない。
犯人僕だし。
僕の気持ちが伝わったのか、カレンは口を閉ざし何やら考え込む仕草をする。
待ってとか、嘘でしょといった呟きが聞こえる。
「….…もしかしてアレクなの?」
何が、とは訊ねる必要もなく僕はただ頷いた。
「は……」
カレンがぷるぷる震え出す。
顔が真っ赤だ。
「はぁああああああああああ!? なら、さっさとそう言いなさいよバカ!!」
ごめなさい。
・・・
「やってしまったのは仕方がないね」
カレンの報告を聞いたママさんの第一声がそれだった。
怒っている様子はなく、文字通り仕方がないといった顔だ。
「許しちゃうのママ!? レッドさんのために準備してたのに!」
対してカレンは納得いかないと声を上げた。
どうやら常連というのは、レッドという人らしい。
レッド。
どこかで聞いたような名前だ。
あ、冒険者の会話にそんな人の名前が出てきたな。
「誰だって失敗はするものさ。カレンだって初めて料理した時は失敗ばかりしていたじゃないか」
「それはそうだけど! でもでも!」
「起こってしまったことはどうしようもない。あんただって理解してるはずだよ。何がそんなに不服なんだい」
「レッドさんに店を潰される……」
「え」
レッドという人は、魚を食べれないだけで暴れるような頭のおかしな人なのか。
どんな人なんだ。
いや、ルド達の会話からして冒険者関係の人っぽいし、あの人たちの仲間だと思えばあり得る話でもあるかな。
だってルドはいきなり唾を吐いてきたし。
それに忙しいけど月に一度足を運んでいるのは、虹色魚を楽しみにしているからという可能性が大いにある。
月に一度の楽しみが奪われたと思えば、むしゃくしゃして暴れてしまうのもあり得るか。
それにしても店が潰れるって大袈裟な話じゃないかとは思うけど。
すごい怪力自慢の人とか?
もし店が潰されたら、僕が責任取らないといけないんだろうな。
お金は足りる、はずないか。
一生ここで働けとか言われそうだ。
僕が内心びくびくしていると。
「ハハハ! レッドは、そんなことで店に損害を与えるほど肝の小さな男じゃないよ! あいつは誰よりも自由で心が広いやつさ! 事情を話せばわかってくれるさね!」
ママさんが豪快に笑った。
それを聞いて、僕はほっと胸を撫で下ろす。
よかった。
許してくれる人らしい。
会ったことないのに、レッドさんに対する好感度が上がっていく。
殺してやる、とか言われたらどうしようかと思っていた。
「でも…!」
しかしカレンは食い下がる。
「なんだい。そんなに不安なのかい」
僕も気になってはいた。
僕やエルフさん達には、あんなに強気で当たってきていたカレンが、今はしゅんとしおらしくなっているのだ。
魚如きで、と言っちゃアレだけど(やらかしたのは僕だし)、
そこまで思い詰めるほどなのかなと疑問が生じる。
ママさん曰く、レッドさんは優しい人っぽいしこの問題は解決したといっても良いのではないか。
カレンが不安になる要素はどこにあるのだろう。
ママさんの表情を見るに、何となく分かっている感じだけど。
「この件で店の信用を失ったらどうしよう……」
以前から宿屋に対して並々ならぬ思いは感じていたが、どうやらカレンは宿屋が無くなることがよっぽど怖いようだ。
頭では無くならないと分かっていても「もしかしら……」そんな不安が消えないのだろう。
考えすぎってやつだ。
大抵は杞憂に終わるんだけどね。
僕もアリスのことを考えると、不安は増える一方だし、思考が錯綜して結局解決案が思いつかないまま時間だけが過ぎていくというのがここ最近頻繁にある。
いくら考えたところで、未来を予知することは誰にもできないのだから、時が流れるままに身を任せるしかない。
そうと理解していても、常に頭の片隅には黒い靄が居座り続けている。
考えないようにしようと思っても気がつくと考えてしまう。
ループに陥ってしまう。
一度芽吹いた不安は中々消えてくれないのだ。
カレンも似たような心境なのだろう。
数秒の沈黙。
はぁ、とママさんはカレンの元に歩み寄る。
「仕方がない子だね」
そう言ってカレンの頭にポンと手を置いた。
「店は何があってもアタシが守ってやるさ。安心しな」
「……うん」
目元を擦って頷くカレン。
「それに」
くるっとこっちをみるママさん。
分かっているんだろね、みたいな目を向けてくる。
なに?
どういうこと?
「あんたを打ち負かしたアレクがいるんだ。この店は安泰どころか、今後はより一層人気店になるだろうね!」
この言い方。
もしかして。
「アレク、あんたは正式にウチの料理人にすることにしたよ! 明日からも働いてもらうからね! サボるんじゃないよ!」
「え?」
「虹色魚を勝手に食っちまったんだ! 文句は言わせないよ!」
食べたのはシフォンなんだけどな。
とはいえ、言い訳できる雰囲気でもないか。
僕は、はいとも嫌だとも言わず黙りこむ。
頭の中はフル回転だ。
ーーどうやって逃げようかな。
不安の種がまた一つ増えた。
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