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第五章 冒険者編
58 カレンは置いて行くことになりました
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受付に来た僕が渡した依頼書を見ると、受付嬢は目を瞬かせた。
「どうしたんですか?」
「あの……これは本物ですよね。いえ、本物とわかってはいるのですが信じられなくてですね……」
「依頼に本物とか偽物とかあるんですか?」
「そ、そうですよね! ないですよね!」
あははーと、作り笑いを浮かべる受付嬢。
しかしその瞳はしきりに依頼書を確認している。
疑っているらしい。
まさか不備でもあったのだろうか。
でもレッドさんから直接渡されたものだし……。
そんなことを考えていると。
「アレク様はこの依頼について、なんとも思わなかったのですか?」
質問の意味がわからず僕は聞き返す。
「逆に何を思うんですか?」
「え」
受付嬢は信じられないものを見るかのように僕の顔をまじまじと見た。
こいつ正気か、ていう顔だ。
「く、空腹熊ですよ?」
「ですね。依頼書にそう書いてます」
「怖くないのですか?」
「僕はなんとも」
空腹熊は知らない魔物だが怖がる道理がない。
この依頼は僕たちの力量を図る為の試験であり、レッドさんがそこまで強い魔物を仕向けるとは思えないからだ。
楽勝とは言わないけど苦戦することはないだろう。
「く、組合長は何かおしゃっていましたか?」
一瞬凍りついたように体が動かなくなった受付嬢がそんなことを訊ねてきた。
「特には……あ、ひとつアドバイスをもらいました」
「なんと?」
「命の危険を感じたら迷わず逃げろ、だったかな?」
当たり前すぎてアドバイスと言えるのか怪しいけど。
まあレッドさんがそう言うのなら何か意味があるのだろうと思い心に留めておいた。
「組合長の言葉は偉大ですね! ぜひそうしてくださいね! 絶対ですよ!?」
「は、はい」
受付嬢がカウンターから身を乗り出して凄い剣幕で言ってくるものだから頷かないわけにはいかなかった。
レッドさんの信者なのかな?
「ふん……何よデレデレしちゃって」
「師匠もオスってことです」
なぜか後ろからの視線が冷たいが気のせいだと思うことにしよう。
「それで、依頼はどうなるんですか?」
「組合長のサインは本物ですしアレク様の言葉を信じて依頼の受理はします。ですが! くれぐれも無理はしないでくださいね!」
「わかりました!」
「本当にわかりましたか?」
「ほ、ほんとうです…」
最後の最後まで受付嬢の圧は凄かった。やましいことは何一つしていないはずなのに、なぜか悪いことをして責められている気分だった。
しかし最終的には受付嬢の方が折れて依頼の受諾の許可が下りた。
これで僕たちは無事に依頼を遂行できるわけだ。
「よし、それじゃあ魔物退治に出発しよう!」
受付嬢からもらった地図を持ち、二人を引き連れ森へ出発しようと思いきやここで思わぬ問題が発生した。
「シフォンはともかく……カレン、その格好で行く気?」
「ええ。そうよ?」
「嘘だろ」
なんとカレンの格好は私服だったのだ。しかも森を歩くのに適していそうな服でもなく、上はエプロンに下は転んだら終わりのひらひらのスカート。
途中で着替えるのかと思っていたら、まさかの普段着で行くつもりだったらしい。
「遠足じゃないんだよ!?」
「熊の魔物を倒すんでしょ? アレクなら余裕よね」
「う……そうだけどさ! 森に入るのにその格好はまずいって。魔物だって目的の空腹熊以外にもたくさんいるんだよ!?」
「でもアレクなら負けないわ」
「そうなんだけど、そうじゃないんだよ……」
「?」
だめだ。カレンが全然わかってくれない。
森に入るということがどれほど危険なのか。魔物を相手にするのがどういうことか。
知識としては知っているのかもしれないが本当の意味では知らないのだ。
カレンはずっと平和な街の中で過ごしてきたから。
逆にシフォンは幼い頃から戦いのある日常に身を置いてきたからその辺は心得ている。
元は盗賊なだけあって軽装だが、肌の上にはしっかり楔帷子を着込んでいるし、一見すると手ぶらに思えてもよく観察すると外套の下に短刀を仕込んでいるのがわかる。
抜けているようでちゃんとしてるのだ。
「師匠」
「ん?」
「この箱入娘モドキを置いて行きましょう、です。こいつが戦闘の足手纏いになるのは仕方がないです。でもこれはそれ以前の話です。ボクはアホのせいで死にたくないです」
「はぁあ? アホってなによ! 犬っころは黙ってお座りしてなさい!」
「自分がアホだと分からない。アホである証拠です」
「ムキー!!」
ギャーギャー騒ぎ出す二人をなんとか組合の庁舎から出すことに成功した僕は、纏めた自分の考えを述べる。
「じゃあこうしよう。今回、カレンは置いていく」
「え!?」
ありえないという顔のカレンと、当然だという顔のシフォン。
「でもパーティーは解散しない」
二人の表情が入れ替わった。
「たとえ僕とシフォン二人で依頼を達成しようと、同じパーティーのカレンも依頼を達成したことになりFランク冒険者になれるはずだ」
カレンにはどうしても冒険者になりたい理由がある。パーティーから追放する理由はなかった。
「それは組合の長が許してくれるです?」
シフォンの指摘は尤もだろう。
僕が言っているのは偽装に等しい。本当は三人で依頼をこなしていないのに「三人で達成したので三人とも冒険者にしてください!」って言っているようなものだ。
「たぶん、いや絶対に大丈夫だ」
しかし僕には確証があった。
「組合長室で受けたレッドさんの説明にそれらしい禁止事項はなかったし、もし全員で討伐させたいなら依頼書の条件にそう書くはずだよ」
確認したが依頼書にはパーティーメンバー全員で討伐しろとは書かれていなかった。
それに依頼は必ずパーティーメンバー全員で受けないといけない、なんて決まりはなかった。
僕がレッドさんの立場でもそんな決まりは作らない。
今回は故意にカレンを不参加にするわけだが、他の冒険者パーティーだっていつも全員が集まれるわけではないだろう。
体調が悪いとか、怪我をして動けないとか、用事があって参加できないとか……理由は様々だろうが。
ならばカレンの不参加も認められないと道理に合わない。
「ーーそれと。さっきシフォンも言っていたでしょ? カレンが戦闘では足手纏いになるかもって。僕もそれは仕方のないことだと思っていたし、初めからカレンには離れたところに隠れてもらうつもりだったんだ」
実際に討伐するのは僕とシフォンということくらいレッドさんだって見抜いたはずだ。
しかしパーティーを組むことを許可した。
明らかにFランク冒険者になる力量がないカレンを冒険者にしてもいいと判断したということだ。
Fランク冒険者になり依頼を受けようと、パーティーメンバーに僕とシフォンがいれば問題ないとレッドさんは考えたのだ。
「___ってことで、どうかな?」
「なるほどです。師匠は、こいつが居ても居なくても変わらないってことを言いたいのですね」
「っ!」
シフォンの隠す気もない冷たい一言に、カレンが肩を振るわせた。
「カレン。ごめんだけど今の君を森には連れていけない。でも安心してほしい。君を冒険者にするという約束は必ず守るから」
カレンから救いを求める眼差しが向けられたが僕はあえて無視した。
カレンにはもう少し大人になってほしいと願って。
「だからね、宿で待っていてくれる?」
カレンは何も言わず背を向け雑踏の中へと消えていった。
その背中はとても小さかった。
「どうしたんですか?」
「あの……これは本物ですよね。いえ、本物とわかってはいるのですが信じられなくてですね……」
「依頼に本物とか偽物とかあるんですか?」
「そ、そうですよね! ないですよね!」
あははーと、作り笑いを浮かべる受付嬢。
しかしその瞳はしきりに依頼書を確認している。
疑っているらしい。
まさか不備でもあったのだろうか。
でもレッドさんから直接渡されたものだし……。
そんなことを考えていると。
「アレク様はこの依頼について、なんとも思わなかったのですか?」
質問の意味がわからず僕は聞き返す。
「逆に何を思うんですか?」
「え」
受付嬢は信じられないものを見るかのように僕の顔をまじまじと見た。
こいつ正気か、ていう顔だ。
「く、空腹熊ですよ?」
「ですね。依頼書にそう書いてます」
「怖くないのですか?」
「僕はなんとも」
空腹熊は知らない魔物だが怖がる道理がない。
この依頼は僕たちの力量を図る為の試験であり、レッドさんがそこまで強い魔物を仕向けるとは思えないからだ。
楽勝とは言わないけど苦戦することはないだろう。
「く、組合長は何かおしゃっていましたか?」
一瞬凍りついたように体が動かなくなった受付嬢がそんなことを訊ねてきた。
「特には……あ、ひとつアドバイスをもらいました」
「なんと?」
「命の危険を感じたら迷わず逃げろ、だったかな?」
当たり前すぎてアドバイスと言えるのか怪しいけど。
まあレッドさんがそう言うのなら何か意味があるのだろうと思い心に留めておいた。
「組合長の言葉は偉大ですね! ぜひそうしてくださいね! 絶対ですよ!?」
「は、はい」
受付嬢がカウンターから身を乗り出して凄い剣幕で言ってくるものだから頷かないわけにはいかなかった。
レッドさんの信者なのかな?
「ふん……何よデレデレしちゃって」
「師匠もオスってことです」
なぜか後ろからの視線が冷たいが気のせいだと思うことにしよう。
「それで、依頼はどうなるんですか?」
「組合長のサインは本物ですしアレク様の言葉を信じて依頼の受理はします。ですが! くれぐれも無理はしないでくださいね!」
「わかりました!」
「本当にわかりましたか?」
「ほ、ほんとうです…」
最後の最後まで受付嬢の圧は凄かった。やましいことは何一つしていないはずなのに、なぜか悪いことをして責められている気分だった。
しかし最終的には受付嬢の方が折れて依頼の受諾の許可が下りた。
これで僕たちは無事に依頼を遂行できるわけだ。
「よし、それじゃあ魔物退治に出発しよう!」
受付嬢からもらった地図を持ち、二人を引き連れ森へ出発しようと思いきやここで思わぬ問題が発生した。
「シフォンはともかく……カレン、その格好で行く気?」
「ええ。そうよ?」
「嘘だろ」
なんとカレンの格好は私服だったのだ。しかも森を歩くのに適していそうな服でもなく、上はエプロンに下は転んだら終わりのひらひらのスカート。
途中で着替えるのかと思っていたら、まさかの普段着で行くつもりだったらしい。
「遠足じゃないんだよ!?」
「熊の魔物を倒すんでしょ? アレクなら余裕よね」
「う……そうだけどさ! 森に入るのにその格好はまずいって。魔物だって目的の空腹熊以外にもたくさんいるんだよ!?」
「でもアレクなら負けないわ」
「そうなんだけど、そうじゃないんだよ……」
「?」
だめだ。カレンが全然わかってくれない。
森に入るということがどれほど危険なのか。魔物を相手にするのがどういうことか。
知識としては知っているのかもしれないが本当の意味では知らないのだ。
カレンはずっと平和な街の中で過ごしてきたから。
逆にシフォンは幼い頃から戦いのある日常に身を置いてきたからその辺は心得ている。
元は盗賊なだけあって軽装だが、肌の上にはしっかり楔帷子を着込んでいるし、一見すると手ぶらに思えてもよく観察すると外套の下に短刀を仕込んでいるのがわかる。
抜けているようでちゃんとしてるのだ。
「師匠」
「ん?」
「この箱入娘モドキを置いて行きましょう、です。こいつが戦闘の足手纏いになるのは仕方がないです。でもこれはそれ以前の話です。ボクはアホのせいで死にたくないです」
「はぁあ? アホってなによ! 犬っころは黙ってお座りしてなさい!」
「自分がアホだと分からない。アホである証拠です」
「ムキー!!」
ギャーギャー騒ぎ出す二人をなんとか組合の庁舎から出すことに成功した僕は、纏めた自分の考えを述べる。
「じゃあこうしよう。今回、カレンは置いていく」
「え!?」
ありえないという顔のカレンと、当然だという顔のシフォン。
「でもパーティーは解散しない」
二人の表情が入れ替わった。
「たとえ僕とシフォン二人で依頼を達成しようと、同じパーティーのカレンも依頼を達成したことになりFランク冒険者になれるはずだ」
カレンにはどうしても冒険者になりたい理由がある。パーティーから追放する理由はなかった。
「それは組合の長が許してくれるです?」
シフォンの指摘は尤もだろう。
僕が言っているのは偽装に等しい。本当は三人で依頼をこなしていないのに「三人で達成したので三人とも冒険者にしてください!」って言っているようなものだ。
「たぶん、いや絶対に大丈夫だ」
しかし僕には確証があった。
「組合長室で受けたレッドさんの説明にそれらしい禁止事項はなかったし、もし全員で討伐させたいなら依頼書の条件にそう書くはずだよ」
確認したが依頼書にはパーティーメンバー全員で討伐しろとは書かれていなかった。
それに依頼は必ずパーティーメンバー全員で受けないといけない、なんて決まりはなかった。
僕がレッドさんの立場でもそんな決まりは作らない。
今回は故意にカレンを不参加にするわけだが、他の冒険者パーティーだっていつも全員が集まれるわけではないだろう。
体調が悪いとか、怪我をして動けないとか、用事があって参加できないとか……理由は様々だろうが。
ならばカレンの不参加も認められないと道理に合わない。
「ーーそれと。さっきシフォンも言っていたでしょ? カレンが戦闘では足手纏いになるかもって。僕もそれは仕方のないことだと思っていたし、初めからカレンには離れたところに隠れてもらうつもりだったんだ」
実際に討伐するのは僕とシフォンということくらいレッドさんだって見抜いたはずだ。
しかしパーティーを組むことを許可した。
明らかにFランク冒険者になる力量がないカレンを冒険者にしてもいいと判断したということだ。
Fランク冒険者になり依頼を受けようと、パーティーメンバーに僕とシフォンがいれば問題ないとレッドさんは考えたのだ。
「___ってことで、どうかな?」
「なるほどです。師匠は、こいつが居ても居なくても変わらないってことを言いたいのですね」
「っ!」
シフォンの隠す気もない冷たい一言に、カレンが肩を振るわせた。
「カレン。ごめんだけど今の君を森には連れていけない。でも安心してほしい。君を冒険者にするという約束は必ず守るから」
カレンから救いを求める眼差しが向けられたが僕はあえて無視した。
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