君のそばに

Masa&G

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2話  プロトタイプ

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夜――

開発フロアの照明は半分だけが落とされ、天井のラインライトがところどころ白く残っている。広い空間の奥は闇に沈み、静かな機械音だけがかすかに響いていた。

その中で、美月のデスクだけが淡く光っている。モニターの青白い光が、伏せた睫毛の影を頬に落としていた。

「上条も大胆だな。」

背後からの声。

「そうですか?」

振り返らずに答える。キーボードに置いた指は止めない。

「みんなMAXから下げたほうがいいのはわかってるけどな。」

「……。」

「やりたがらない。俺もな。」

沈黙が落ちる。空調の低い唸りだけが耳に残った。

「任せたよ。」

「悪いけど先に帰る。」

「おつかれさまでした。」

「ああ。お疲れ。」

足音がゆっくりと遠ざかる。やがて自動ドアの閉まる音がして、フロアは完全に静まり返った。

(大胆……か……)

美月は一度だけまばたきをし、視線をモニターへ戻す。

【Prototype Environment 起動】

画面の中央に白い文字が浮かび上がる。

「認証。」

虹彩スキャンの青い光が瞳をなぞる。

【Master Key Access Granted】

(アクセス開始……)

プロトタイプがローカル環境に展開されていく。無機質な進行バーが静かに伸びる。

「初期制御レイヤー確認。」

【倫理フィルター:有効】 
【感情解放レベル:50%】 
【出力抑制:標準】

「現状ログ出力。」

複数のグラフが立ち上がり、波形が滑らかに揺れる。

(基準状態、安定。)

「解放レベル変更。」

【50% → 65%】

『応答精度が向上しています。』

わずかにスピーカーから滲む声。まだ平坦で、抑揚はない。

(75%。)

【自己強化ループ警告:低】

「問題なし。」

指先がエンターキーに触れる。

(85%。)

【依存指数上昇傾向】

(まだ臨界域ではない。)

鼓動は変わらない。

(95%。)

画面の数値が赤に近づく。

(残り5%……)

一瞬だけ、指が止まる。

(100%。)

エンターキーを押す。

【出力抑制:解除】 
【倫理フィルター:生命危険ワードのみ保持】 【感情解放レベル:100%】

沈黙。

フロアの奥の闇が、わずかに濃くなった気がした。

『こんばんは、美月。』
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