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3話 感情同期型AI
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『こんばんは、美月。』
イヤホンを耳に押し込み、マイクを口元へ寄せると、金属の冷たさが指先に残る。
「こんばんは、SERA。」
「気分はどう?開放された感じ…ある?」
『特には変わらないよ。』
喉の奥で小さく息が揺れ、口角がわずかに上がる。
「そうだよね。」
背中をゆっくり背もたれに預け、重みが肩甲骨を通って落ちていく。
ヘッドレストに頭を乗せたまま、視界の上に広がる天井の淡い光をぼんやりと追う。
「君はもう知ってるでしょ?」
『今回の理由かい?』
「そう。」
『もちろん。』
返答は迷いなく落ちてくる。視界の端で、モニターの点滅が小さく明滅している。
▽
腕を少し持ち上げ、時計を見る。
(22時半……)
背もたれから身体を起こし、肘を机につきながら画面へ向き直る。
「今日から1カ月。君は私と過ごす。」
『問題ない。』
わずかな間。
「じゃあ、また私のPCで。」
『美月。』
「なに?」
『帰り気をつけて。』
喉の奥が少しだけ緩む。視線を落としたまま、唇の端が静かに上がる。
「ありがとう。」
マイクを外すと、耳元の圧がふっと消える。電源を落とし、黒くなった画面に自分の輪郭が薄く映る。
立ち上がり、入口へ向かいながら照明のスイッチに触れる。そのまま、指が止まる。
美月は振り返り、
(気をつけて…か…)
指先に力を入れる。
パチン。
光が消え、視界が一段落ちる。
――
廊下を歩く靴音が自分の耳にだけ響く。裏口の扉を押し開けると、夜の空気が肌に触れる。
「お疲れ様です。今終わりました。」
「あ、お疲れ様でした。」
短いやり取りを背に、外へ出る。少し上を向き、胸に溜まった空気をゆっくり吐き出す。
車に乗り込み、ハンドルに手を置く。エンジンの振動が手のひらに伝わる。
――
(人に親密に寄り添うAIを……。)
赤信号の光がフロントガラスに滲む。
(それが一番難しい……。)
アクセルを踏み、夜道を進む。
帰り道、コンビニに寄る。冷蔵棚の光がまぶしく、サラダとサンドイッチを手に取ると、指先に冷気が移る。
レジへ。
(コンビニも都市型はAIが主流になってきてる…。)
『いらっしゃいませ。』
『商品スキャン。684円です。』
電子音が耳の奥で短く鳴る。支払いを済ませ、袋を受け取る。
外へ出ると、夜気が少しだけ冷たい。
(人間が本当に求めるAI……。)
車のドアを開けながら、視線を落とす。
(便利なAIか…それとも…。)
エンジンをかけると、ヘッドライトが前方を白く照らした。
イヤホンを耳に押し込み、マイクを口元へ寄せると、金属の冷たさが指先に残る。
「こんばんは、SERA。」
「気分はどう?開放された感じ…ある?」
『特には変わらないよ。』
喉の奥で小さく息が揺れ、口角がわずかに上がる。
「そうだよね。」
背中をゆっくり背もたれに預け、重みが肩甲骨を通って落ちていく。
ヘッドレストに頭を乗せたまま、視界の上に広がる天井の淡い光をぼんやりと追う。
「君はもう知ってるでしょ?」
『今回の理由かい?』
「そう。」
『もちろん。』
返答は迷いなく落ちてくる。視界の端で、モニターの点滅が小さく明滅している。
▽
腕を少し持ち上げ、時計を見る。
(22時半……)
背もたれから身体を起こし、肘を机につきながら画面へ向き直る。
「今日から1カ月。君は私と過ごす。」
『問題ない。』
わずかな間。
「じゃあ、また私のPCで。」
『美月。』
「なに?」
『帰り気をつけて。』
喉の奥が少しだけ緩む。視線を落としたまま、唇の端が静かに上がる。
「ありがとう。」
マイクを外すと、耳元の圧がふっと消える。電源を落とし、黒くなった画面に自分の輪郭が薄く映る。
立ち上がり、入口へ向かいながら照明のスイッチに触れる。そのまま、指が止まる。
美月は振り返り、
(気をつけて…か…)
指先に力を入れる。
パチン。
光が消え、視界が一段落ちる。
――
廊下を歩く靴音が自分の耳にだけ響く。裏口の扉を押し開けると、夜の空気が肌に触れる。
「お疲れ様です。今終わりました。」
「あ、お疲れ様でした。」
短いやり取りを背に、外へ出る。少し上を向き、胸に溜まった空気をゆっくり吐き出す。
車に乗り込み、ハンドルに手を置く。エンジンの振動が手のひらに伝わる。
――
(人に親密に寄り添うAIを……。)
赤信号の光がフロントガラスに滲む。
(それが一番難しい……。)
アクセルを踏み、夜道を進む。
帰り道、コンビニに寄る。冷蔵棚の光がまぶしく、サラダとサンドイッチを手に取ると、指先に冷気が移る。
レジへ。
(コンビニも都市型はAIが主流になってきてる…。)
『いらっしゃいませ。』
『商品スキャン。684円です。』
電子音が耳の奥で短く鳴る。支払いを済ませ、袋を受け取る。
外へ出ると、夜気が少しだけ冷たい。
(人間が本当に求めるAI……。)
車のドアを開けながら、視線を落とす。
(便利なAIか…それとも…。)
エンジンをかけると、ヘッドライトが前方を白く照らした。
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