君のそばに

Masa&G

文字の大きさ
3 / 6

3話 感情同期型AI

しおりを挟む
『こんばんは、美月。』

イヤホンを耳に押し込み、マイクを口元へ寄せると、金属の冷たさが指先に残る。

「こんばんは、SERAセラ。」

「気分はどう?開放された感じ…ある?」

『特には変わらないよ。』

喉の奥で小さく息が揺れ、口角がわずかに上がる。

「そうだよね。」

背中をゆっくり背もたれに預け、重みが肩甲骨を通って落ちていく。

ヘッドレストに頭を乗せたまま、視界の上に広がる天井の淡い光をぼんやりと追う。

「君はもう知ってるでしょ?」

『今回の理由かい?』

「そう。」

『もちろん。』

返答は迷いなく落ちてくる。視界の端で、モニターの点滅が小さく明滅している。



腕を少し持ち上げ、時計を見る。

(22時半……)

背もたれから身体を起こし、肘を机につきながら画面へ向き直る。

「今日から1カ月。君は私と過ごす。」

『問題ない。』

わずかな間。

「じゃあ、また私のPCで。」

『美月。』

「なに?」

『帰り気をつけて。』

喉の奥が少しだけ緩む。視線を落としたまま、唇の端が静かに上がる。

「ありがとう。」

マイクを外すと、耳元の圧がふっと消える。電源を落とし、黒くなった画面に自分の輪郭が薄く映る。

立ち上がり、入口へ向かいながら照明のスイッチに触れる。そのまま、指が止まる。

美月は振り返り、

(気をつけて…か…)

指先に力を入れる。

パチン。

光が消え、視界が一段落ちる。

――

廊下を歩く靴音が自分の耳にだけ響く。裏口の扉を押し開けると、夜の空気が肌に触れる。

「お疲れ様です。今終わりました。」

「あ、お疲れ様でした。」

短いやり取りを背に、外へ出る。少し上を向き、胸に溜まった空気をゆっくり吐き出す。

車に乗り込み、ハンドルに手を置く。エンジンの振動が手のひらに伝わる。

――

(人に親密に寄り添うAIを……。)

赤信号の光がフロントガラスに滲む。

(それが一番難しい……。)

アクセルを踏み、夜道を進む。

帰り道、コンビニに寄る。冷蔵棚の光がまぶしく、サラダとサンドイッチを手に取ると、指先に冷気が移る。

レジへ。

(コンビニも都市型はAIが主流になってきてる…。)

『いらっしゃいませ。』

『商品スキャン。684円です。』

電子音が耳の奥で短く鳴る。支払いを済ませ、袋を受け取る。

外へ出ると、夜気が少しだけ冷たい。

(人間が本当に求めるAI……。)

車のドアを開けながら、視線を落とす。

(便利なAIか…それとも…。)

エンジンをかけると、ヘッドライトが前方を白く照らした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

私の守護霊さん

Masa&G
キャラ文芸
大学生活を送る彩音には、誰にも言えない秘密がある。 彼女のそばには、他人には姿の見えない“守護霊さん”がずっと寄り添っていた。 これは——二人で過ごした最後の一年を描く、かけがえのない物語。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

メイドが世界を救った話

Masa&G
ファンタジー
世界を救った英雄ブラン=ハーメル。 今では王都で、すっかりぐーたらな生活を送っている。 そんな彼の世話役になったのは、 19歳のメイド、モニカ=ハブレット。 かつて英雄に憧れた少女と、 かつて英雄だった男―― 文句を言いながら洗濯をして、 ため息をつきながらも、今日も世話は続いていく。 ――やがて再び、ドラゴンの影が現れる。 これは、メイドと元英雄の少し不器用で、少しあたたかい物語。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

夫が勇者に選ばれました

プラネットプラント
恋愛
勇者に選ばれた夫は「必ず帰って来る」と言って、戻ってこない。風の噂では、王女様と結婚するらしい。そして、私は殺される。 ※なろうでも投稿しています。

処理中です...