君のそばに

Masa&G

文字の大きさ
5 / 6

5話 心理戦

しおりを挟む
ガチャ――

浴室の扉が静かに開き、ぬるい湯気が部屋へと流れ出る。

美月は濡れた髪をタオルで拭きながら足を踏み出した。
肩先から落ちた水滴が鎖骨を伝い、床に小さな跡を残す。

そのままデスクへ歩み寄る。

ウェブカメラのランプが点灯し、画面の中に美月の顔が映し出された。

濡れた髪が頬に張りつき、シャワー上がりの赤みがわずかに残っている。

「お待たせ。」

『その格好で寒くないのかい?』

『今の部屋の温度は13度だ。』

「大丈夫。今、暑いくらい。」

胸の奥で鼓動がまだ早い。

『理解した。』

美月は椅子を引き、ゆっくりと腰を下ろす。

背もたれにもたれかかり、画面に顔を近づける。

モニターの中で、自分の目がこちらを見返している。
光に照らされた瞳と、レンズ越しの視線が重なる。

「君には私がどう見える?」

美月の口角がわずかに上がる。

『君は今、僕の答えを楽しみにしているね?』

『僕がどこまで見えているかを試している。』

美月はゆっくりと顔を離し、椅子に深くもたれかかった。

「じゃあ質問変える。」

「君は…私のことをどこまで知ってる?」

『僕は君と心理戦をするつもりはない。』

『そして君の邪魔をすることもない。』

一瞬、部屋の空気が止まる。

静まり返った室内に、二台のデスクトップの微かな駆動音だけが重なっている。

「邪魔をしない…か…」

「……。」

「今も私のことを見えてる?」

『見えているよ。』

PCの画面には美月の顔が反射して映っている。
瞳の奥で、わずかに光が揺れる。

「じゃあ少しおしゃべりしようかな。」

『珍しいね。美月がそんなこと言うなんて。』

「私は…君に興味がある。それだけ。」

『理解した。』

画面の中の自分は、わずかに余裕を含んだ笑みを浮かべている。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

私の守護霊さん

Masa&G
キャラ文芸
大学生活を送る彩音には、誰にも言えない秘密がある。 彼女のそばには、他人には姿の見えない“守護霊さん”がずっと寄り添っていた。 これは——二人で過ごした最後の一年を描く、かけがえのない物語。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

メイドが世界を救った話

Masa&G
ファンタジー
世界を救った英雄ブラン=ハーメル。 今では王都で、すっかりぐーたらな生活を送っている。 そんな彼の世話役になったのは、 19歳のメイド、モニカ=ハブレット。 かつて英雄に憧れた少女と、 かつて英雄だった男―― 文句を言いながら洗濯をして、 ため息をつきながらも、今日も世話は続いていく。 ――やがて再び、ドラゴンの影が現れる。 これは、メイドと元英雄の少し不器用で、少しあたたかい物語。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

夫が勇者に選ばれました

プラネットプラント
恋愛
勇者に選ばれた夫は「必ず帰って来る」と言って、戻ってこない。風の噂では、王女様と結婚するらしい。そして、私は殺される。 ※なろうでも投稿しています。

処理中です...