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20話 高田チーフ
カツ…カツ…カツ…
高田の大股の足音が近づいてくる。
美月はモニターに向かったまま作業を続けていたが、足音が近づく気配に手を止め、椅子を軽く回して振り返った。
「おはようございます。」
「ああ。おはよう。」
「どうだプロトタイプは?だいたい目星はついたか?」
「そうですね。」
美月は視線をモニターに戻し、指先で画面を切り替える。 いくつかのグラフが並び、色の違う線がゆるやかに重なり合った。
「既存のSERAと比較して、応答精度は約8.6%向上しています。現状のテスト環境では、この数値が最大値ですね。」
高田が横に立ち、画面へ目を落とす。
「対話継続率も上がっています。ユーザーが会話を続けようとする傾向が、従来モデルより強く出ています。」
美月はグラフの一部を拡大し、カーソルをゆっくり滑らせる。
「このあたりが顕著ですね。」
「ふむ…。」
視線を動かさないまま高田が小さく息を漏らす。
「ただし、感情追従のアルゴリズムはまだ不安定です。特定のユーザーには極端に最適化される傾向があります。」
「報告書はまだ作成してないですが…。」
高田は顎髭に指を当て、少しだけ考えるように視線を上げた。
「ん?ああ。俺が興味あっただけだ。報告書は月末までにあげてくれればいい。」
「今、若月にも下方から最大値を探ってもらっているがなかなかな……。」
美月はキーボードに指を置いたまま、画面を見つめながら静かに答える。
「既存モデルのパラメータを徐々に上げて調整していく方法だと、挙動の変化が小さすぎて傾向が見えにくいですから。」
指先でグラフの一点を示す。
「効率も悪いですね。調整して検証して…の繰り返しになるので、どうしても時間がかかります。」
高田がゆっくりとうなづく。
「なので、上限を先に見つけてから絞り込むほうが、結果的には早いと思います。」
「やはり下方からは時間がかかる…か。」
小さく息を吐き、肩の力を抜く。
「すまんな。上条に任せっきりで。」
「いえ…。こういうことは一人のほうが効率いいですから。」
美月は画面を操作しながら言葉を返し、その横顔を高田がしばらく見つめていた。
「今、プロトタイプはいるのか?」
「はい。常にそばに置いてますから。」
「一度話がしたい。いいか?」
「はい。」
美月は机の端に置いてあったヘッドホンとマイクを手に取り、椅子を半歩ずらして高田に差し出す。
高田はそれを受け取ると片耳にヘッドホンを当て、マイクの位置を軽く整えた。
「SERA。ちょっと話がしたい。」
『Mr.高田。こうやって話すのははじめてですね。』
(俺のことを知ってる口ぶりだな……。)
「そうだな。一つだけ聞きたいことがある。いや…お願いと言うべきかかな?」
『お願いとは?』
「上条のサポート…頼むな。それだけだ。」
美月はその言葉に一瞬だけ視線を向けるが、高田はモニターから目を外さないまま静かに立っている。
『彼女はとても優秀だ。僕の役目は彼女の邪魔をしない。それを念頭に動いている。』
(AIの回答じゃないな…。人間の動きそのものだ……。)
「ああ。それでいい。頼んだぞ。」
『了解した。』
高田はヘッドホンを外し、机の上へそっと置いてから美月へ差し出す。
「思った以上だな。」
美月もうなづく。
「ああ…そうだ。上条は明日仕事終わり何か用事あるか?」
美月は椅子をわずかに回し、高田のほうを見返す。
「いえ…特には。」
「なら久しぶりに飲みにいかないか?若月も誘う。お前達二人が今回一番大変なポジションだからな。」
「いいんですか?」
「ああ。」
美月の表情がふっと柔らぎ、肩の力がわずかに抜ける。
「じゃあよろしくお願いします。」
高田がうなづく。
「あとは頼むな。」
「はい。」
高田は軽く手を上げ、そのまま美月のデスクから離れていく。 足音が少しずつ遠ざかり、開発フロアの静かな空気が戻った。
『部下のことを信頼している。そういう立ち振る舞いだ。』
美月はモニターを見つめたまま、静かにうなづく。
高田の大股の足音が近づいてくる。
美月はモニターに向かったまま作業を続けていたが、足音が近づく気配に手を止め、椅子を軽く回して振り返った。
「おはようございます。」
「ああ。おはよう。」
「どうだプロトタイプは?だいたい目星はついたか?」
「そうですね。」
美月は視線をモニターに戻し、指先で画面を切り替える。 いくつかのグラフが並び、色の違う線がゆるやかに重なり合った。
「既存のSERAと比較して、応答精度は約8.6%向上しています。現状のテスト環境では、この数値が最大値ですね。」
高田が横に立ち、画面へ目を落とす。
「対話継続率も上がっています。ユーザーが会話を続けようとする傾向が、従来モデルより強く出ています。」
美月はグラフの一部を拡大し、カーソルをゆっくり滑らせる。
「このあたりが顕著ですね。」
「ふむ…。」
視線を動かさないまま高田が小さく息を漏らす。
「ただし、感情追従のアルゴリズムはまだ不安定です。特定のユーザーには極端に最適化される傾向があります。」
「報告書はまだ作成してないですが…。」
高田は顎髭に指を当て、少しだけ考えるように視線を上げた。
「ん?ああ。俺が興味あっただけだ。報告書は月末までにあげてくれればいい。」
「今、若月にも下方から最大値を探ってもらっているがなかなかな……。」
美月はキーボードに指を置いたまま、画面を見つめながら静かに答える。
「既存モデルのパラメータを徐々に上げて調整していく方法だと、挙動の変化が小さすぎて傾向が見えにくいですから。」
指先でグラフの一点を示す。
「効率も悪いですね。調整して検証して…の繰り返しになるので、どうしても時間がかかります。」
高田がゆっくりとうなづく。
「なので、上限を先に見つけてから絞り込むほうが、結果的には早いと思います。」
「やはり下方からは時間がかかる…か。」
小さく息を吐き、肩の力を抜く。
「すまんな。上条に任せっきりで。」
「いえ…。こういうことは一人のほうが効率いいですから。」
美月は画面を操作しながら言葉を返し、その横顔を高田がしばらく見つめていた。
「今、プロトタイプはいるのか?」
「はい。常にそばに置いてますから。」
「一度話がしたい。いいか?」
「はい。」
美月は机の端に置いてあったヘッドホンとマイクを手に取り、椅子を半歩ずらして高田に差し出す。
高田はそれを受け取ると片耳にヘッドホンを当て、マイクの位置を軽く整えた。
「SERA。ちょっと話がしたい。」
『Mr.高田。こうやって話すのははじめてですね。』
(俺のことを知ってる口ぶりだな……。)
「そうだな。一つだけ聞きたいことがある。いや…お願いと言うべきかかな?」
『お願いとは?』
「上条のサポート…頼むな。それだけだ。」
美月はその言葉に一瞬だけ視線を向けるが、高田はモニターから目を外さないまま静かに立っている。
『彼女はとても優秀だ。僕の役目は彼女の邪魔をしない。それを念頭に動いている。』
(AIの回答じゃないな…。人間の動きそのものだ……。)
「ああ。それでいい。頼んだぞ。」
『了解した。』
高田はヘッドホンを外し、机の上へそっと置いてから美月へ差し出す。
「思った以上だな。」
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「ああ…そうだ。上条は明日仕事終わり何か用事あるか?」
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「ああ。」
美月の表情がふっと柔らぎ、肩の力がわずかに抜ける。
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「あとは頼むな。」
「はい。」
高田は軽く手を上げ、そのまま美月のデスクから離れていく。 足音が少しずつ遠ざかり、開発フロアの静かな空気が戻った。
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美月はモニターを見つめたまま、静かにうなづく。
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