メイドが世界を救った話

Masa&G

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第8話 自己紹介

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「よし……これで全部だな!」

ブランが両手を腰に当て、満足そうに言った。

(これで全部だな!じゃないわよ!)

散乱した服。 空になった酒瓶。 部屋の空気には、まだ昨夜の名残のような匂いが漂っている。

「お……そういえば俺、自己紹介してなかったな。」

「あ……はい。」

モニカは反射的に背筋を伸ばす。

(でも、知ってるよ?)

「ブラン=ハーメル。よろしくな。」

(……名前だけ)

英雄の称号も。武勇伝も。誇るような言葉もなかった。

「はい。改めてよろしくお願いいたします。」

モニカは深くおじぎをする。

「あ、俺にそんなのはいらないぞ?たいして偉くもないしな。」

(……どういうこと?)

「モニカ……だよな?」

「はい。モニカ=ハブレットです。」

ブランはどかっとベッドに腰を下ろした。

「いくつだ?」

「十九です。」

「そっか。若いのに大変だな。」

(いやいやいや……あなたのお世話が大変なだけで……)

(も、もしかして “俺の世話は大変だぞ!”って前もって言ってる?)

モニカは口元に微笑みを浮かべたまま答える。

「皆様が毎日を不憫なく過ごせるようにするのが、私達メイドの役目ですから。」

「そっか。」

ブランはそう言って、ふっと目を伏せた。

(……どうして、目を伏せるの?)

理由はわからない。けれど、その仕草だけが妙に胸に残る。

「ブラン様、朝食のほうを……」

声をかけると、ブランは一瞬きょとんとした顔をし、我に返ったように立ち上がる。

「あ……そうだったな。ありがとう。」

それだけ言って、彼は部屋を出ていった。

扉が閉まり、部屋に静けさが戻る。

一人残されたモニカ。

(……なんだろ。これ……)

視線を伏せた、あの一瞬。

(それに……)

英雄とも言わなかった。俺はすごいとも言わなかった。

ただ、自分の名前を名乗っただけ。

(……それだけ、なのに)

胸の奥が、少しざわつく。

モニカは散らばった服と酒瓶を両手に抱え直し、部屋を見渡す。

そして、何も言わずに部屋を後にした。
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