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第9話 本音と建前
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「モニカー!」
廊下の奥から名前を呼ばれ、モニカは足を止めて振り返った。
石造りの回廊には、朝の光が高窓から差し込み、白い床に細長い影を落としている。
「イザベラさん。」
同じメイドとして城に仕えるイザベラが、スカートの裾を揺らしながら小走りで近づいてきた。
少し息を弾ませ、いつもの人懐っこい笑顔を向ける。
「どう? ブラン様は?」
突然の問いに、モニカは小さく首をかしげた。
「どう……とは?」
「ほら、けっこう難しい人って聞くからさ。」
イザベラは声を落とし、周囲をちらりと気にしながら心配そうにモニカを見る。
(まぁ、逆の意味で難しい人だけど……)
胸の内でそう呟きつつ、モニカは曖昧に笑った。
「うーん……ま、まぁ……」
「やっぱりそうなんだ……」
イザベラは納得したようにうなずき、少し眉を下げる。
「でもブラン様は優しい方でしょ?」
(優しい?)
思わず心の中で反芻してしまう。英雄として語られる姿と、実際に目にした姿が、まだ頭の中で噛み合っていない。
「私、まだお世話係になって二日なので……」
「あ、そうだったね。」
イザベラはぱっと表情を明るくし、軽い調子で続けた。
「でもこれからうまくやっていけば、ブラン様のお気に入りになれるかもしれないよ?」
ゾクッ。
背筋を冷たいものが走り、モニカは思わず肩をすくめた。
手を横にぶんぶんと振りながら、慌てて首を横に振る。
「私なんてダメですよ。お気に入りなんて。」
(私がダメですよ。)
言葉と同時に、胸の奥でもう一度念を押す。
「じゃあ……私が代わってあげる?」
(本気で言ってるのかな? なら代わってください!)
喉まで出かかった本音を飲み込み、モニカは曖昧に笑うしかなかった。
「ははは……」
「ふふふ、冗談よ。頑張ってね。」
「はい……。」
軽く手を振るイザベラと別れ、モニカは再び歩き出す。廊下に響く自分の足音だけが、やけに大きく感じられた。
(裏はわからないんだ……)
(あの人は、あんまり表に出てないから……理想が先に立ってる感じ……か……。)
ふと、少し前までの自分を思い出す。
英雄の噂だけを信じ、勝手な憧れを膨らませていた頃の自分を。
(そういう私も、そうだったんだけどね……)
小さく息を吐き、肩の力を抜く。
(代われるんなら、代わって欲しいよ。)
遠くで鐘の音が鳴り、城の中にゆるやかな時間の区切りを告げる。
(そろそろ部屋掃除に行かなきゃ……)
モニカは軽く背伸びをし、気持ちを切り替えるように前を向いた。
そして、静まり返った廊下の先――ブランの部屋へと足を運んでいった。
廊下の奥から名前を呼ばれ、モニカは足を止めて振り返った。
石造りの回廊には、朝の光が高窓から差し込み、白い床に細長い影を落としている。
「イザベラさん。」
同じメイドとして城に仕えるイザベラが、スカートの裾を揺らしながら小走りで近づいてきた。
少し息を弾ませ、いつもの人懐っこい笑顔を向ける。
「どう? ブラン様は?」
突然の問いに、モニカは小さく首をかしげた。
「どう……とは?」
「ほら、けっこう難しい人って聞くからさ。」
イザベラは声を落とし、周囲をちらりと気にしながら心配そうにモニカを見る。
(まぁ、逆の意味で難しい人だけど……)
胸の内でそう呟きつつ、モニカは曖昧に笑った。
「うーん……ま、まぁ……」
「やっぱりそうなんだ……」
イザベラは納得したようにうなずき、少し眉を下げる。
「でもブラン様は優しい方でしょ?」
(優しい?)
思わず心の中で反芻してしまう。英雄として語られる姿と、実際に目にした姿が、まだ頭の中で噛み合っていない。
「私、まだお世話係になって二日なので……」
「あ、そうだったね。」
イザベラはぱっと表情を明るくし、軽い調子で続けた。
「でもこれからうまくやっていけば、ブラン様のお気に入りになれるかもしれないよ?」
ゾクッ。
背筋を冷たいものが走り、モニカは思わず肩をすくめた。
手を横にぶんぶんと振りながら、慌てて首を横に振る。
「私なんてダメですよ。お気に入りなんて。」
(私がダメですよ。)
言葉と同時に、胸の奥でもう一度念を押す。
「じゃあ……私が代わってあげる?」
(本気で言ってるのかな? なら代わってください!)
喉まで出かかった本音を飲み込み、モニカは曖昧に笑うしかなかった。
「ははは……」
「ふふふ、冗談よ。頑張ってね。」
「はい……。」
軽く手を振るイザベラと別れ、モニカは再び歩き出す。廊下に響く自分の足音だけが、やけに大きく感じられた。
(裏はわからないんだ……)
(あの人は、あんまり表に出てないから……理想が先に立ってる感じ……か……。)
ふと、少し前までの自分を思い出す。
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小さく息を吐き、肩の力を抜く。
(代われるんなら、代わって欲しいよ。)
遠くで鐘の音が鳴り、城の中にゆるやかな時間の区切りを告げる。
(そろそろ部屋掃除に行かなきゃ……)
モニカは軽く背伸びをし、気持ちを切り替えるように前を向いた。
そして、静まり返った廊下の先――ブランの部屋へと足を運んでいった。
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