私の守護霊さん

Masa&G

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第3話 迷子の守護霊さん

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早朝、アパートにて――

薄いカーテン越しに朝の白い光が差し込み、 彩音のワンルームに、静かな空気が漂っていた。 布団の上でごろりと転がりながら、彩音はスマホを両手で抱え込むように見つめている。

(ん…グルメフェス?)

(ご当地バーガー…新宿……)

画面をスクロールした瞬間、 
「今日まで!?」
 と声が跳ねた。

「!?」

びくっと守護霊さんが飛び上がる。

「あ、ごめん…新宿でグルメフェスだって…行かねば…」

「ほら、これ…」

彩音が画面をぐいっと近づけると、守護霊さんは反射的にのぞき込み、ごくり…… と喉を鳴らした。

「じゃあ…行きますか…」

こくり。

決意のうなづきはいつもより深い。

(でも新宿かぁ…前に迷って大変だったんだよね……)
(まぁ…なんとかなるか…)

「守護霊さん、新宿はラビリンスだから私から離れないでね…」

「?」

きょとん、と丸い目で首をかしげる。

「迷子になったら……」

わざと間を置いてからの――

ごくり……

「もう二度と…会えない……」

「!!?」

守護霊さんの瞳が点になり、次の瞬間、 
ふるふるふるふる!!
と高速で首を横に振る。

「ははっ。うそうそ、冗談。」

「でも迷子になるのはほんとだからね。」

こくり。 さっきの震えが嘘みたいに、真剣な顔つきに。

「じゃあ支度しよっと。」

彩音は立ち上がり、髪をまとめながら ワンルームの空気が少し騒がしくなる。

――そして、新宿。

駅前に降り立った瞬間、むわっと押し寄せる人の熱。ビル風に混じる排気とコーヒーの匂い。慣れない都会の音が、鼓膜を容赦なく叩く。

「やっぱり人多いね…」

こくり。

守護霊さんは完全に“背後霊”と化し、彩音の背中にぴったりと張り付いていた。

(ふふ…守護霊さんじゃなくて背後霊さんだね。これは…)

新宿駅からバスに揺られて――代々木公園前。

「あそこだ…」

公園内に広がるテント群、そして空気を乱すほどの肉の香り。

「なんか着く前に疲れちゃったよ…」

こく…り… 
守護霊さんの肩が、しょぼん、と落ちる。

「田舎育ちの私にはなかなかハード…」

「はぁ…人の波に酔わない方法教えて欲しい…」

――グルメフェス会場。

人の熱気がひとつの塊みたいに渦巻いている。 レジャーシート、テント、立ち食いの列。そして焼けた肉の匂いが空気を支配する。

「ここもか……」

(ふぅ……)

腹を括るように両手を軽く叩いて――

「よし!行くよ!」

目の前には各県のご当地バーガーがずらり。屋台ごとに香りの種類が違い、甘い匂い、スパイスの匂い、肉汁の匂いが次々と鼻をくすぐる。

「うーん…迷うね…守護霊さんならどれ食べたい?」

振り返る。

「あれ?守護霊さん…?」

――いない。

視線を上げる。人の波にひゅるるっと吸い込まれ、か細い霊体の守護霊さんが、流木みたいに右へ左へ押し流されていた。

「え…ちょっ、なんで!?霊体だよね!? なんで流されてるの!」

守護霊さんは必死に手を伸ばし、“たすけて!”の顔。人の影にまぎれていき――

見失う。

(見失った……)

人の影が厚い。彩音は立ち止まり、きょろきょろと必死に周囲を探す。

「もう…どこ行っちゃったのよ…」

――「あと3名様となりましたー!常陸牛のハンバーガー!限定でーす!」――

(限定……)

「しかし…守護霊さんを…」

――「あと1名様でーす!」――

「ごめん!」

その瞬間、
 「ありがとうございます、本日分終了でーす!」

(ごめん、守護霊さん…食べ終わったらすぐ探すから…)

――10分後。

「あーおいしかったぁ…うーん…満足…」

気持ちよく息をついた直後―― 

「……!!探さなきゃ!」

彩音はバッグを揺らしながら早足で会場を巡る。

――しばらくして。

「あ、いた!」

公園の一角、屋台の陰で――

守護霊さんがきょろきょろ…うろうろ……完全に涙目で立ち尽くしていた。

彩音が大きく手を振る。

 「こっち!」

守護霊さんははっと振り向き、ぱたぱた飛び跳ねるように駆け寄ってくる。

「だ、大丈夫?」

こくっこくっ…でも涙が目の縁ににじむ。

「よかった…見つかって…」

「?」

守護霊さんがふと、彩音の口元に視線を向ける。 そこには常陸牛バーガーのソースが一筋。

すぅっと…彩音の顔に近づき、指差す。

「え…」

ぷくっ。

守護霊さんの頬がふくらむ。

「…いや…常陸牛が…」

次の瞬間、ぱっ、と顔を手で覆って泣いてる?

「な、泣かないでよぉ…ごめん…」

守護霊さんの体が小さく震えて――

からの……

あっかんべー

――その仕草のあと、守護霊さんはほっとしたように目元をゆるめ、彩音の顔をちらりと見上げた。さっきまで涙で潤んでいた瞳が、少しだけ安心した色に変わる。

会場のほうを指差す指先は、さっき流されたことが嘘みたいに元気を取り戻していた。

「うん…いこ!あと46個食べなきゃだからね。」

「?」

「47都道府県だから…」

二人の足取りは、さっきまでの焦りがすっかり抜けて、軽く弾むようになった。屋台から漂う香りと人のざわめきが、ふたりの間の空気をやわらかく揺らす。

笑い合いながら、二人は再びにぎやかな会場へと戻っていった。

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