私の守護霊さん

Masa&G

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第26話 西川と桜木

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学園祭終了翌日――

キャンパスには、まだ片付けきれなかった屋台の名残と、どこか気の抜けた空気が漂っていた。

昨日までの喧騒が嘘みたいに、学生たちはそれぞれの“日常”に戻り始めている。

「桜木、合同出し物大丈夫だった?」 

「ん?うん。みんなでうまく回してたから。」

「西川こそお化け屋敷うまくいってよかったね。」

「まぁな。1年まるまる費やしたからな。」

西川は軽く笑いながらも、視線だけは桜木から外さなかった。

(やっぱり確認はしないとな…)

「桜木、今日飯食いいくべ。」 

「うん。いいよ。どこ行く?」 

「少し離れてるけどお好み焼屋。」 

「口コミ見たら旨いらしい。」 

「そうなんだ。」

「俺、車出すから。まぁ偵察みたいなもん。ほんとに旨かったら沙織と宮司ちゃん連れていきてぇからさ。」

一瞬、桜木の返事が遅れる。

「……うん。そうだね。」

「入口で待っててくれ。車回してくるから。」 

「うん。」

西川はそのまま踵を返し、駐車場へ向かう。歩きながら、さっきの間が頭に引っかかっていた。

(なんなんだよ。あの間は…)

大学正門前――

門の外で桜木が待っているところに、西川の車が滑り込む。

「前乗れや。」

桜木が助手席に乗り込む。

ガチャ。

「悪いね。」 

「んじゃ、行きますか。」

車はゆっくりとキャンパスを離れ、夕方の道へ溶けていった。

「エクストレイル。やっぱりいいな。僕もSUV乗りたいんだ。」 

「四駆はいいぞ。やっぱり。親父から受け継いだ車だけどなこれは。」 

「それでもいいよ。」

フロントガラス越しに、夕日が反射する。オレンジ色の光が車内を一瞬だけ満たし、すぐに流れていく。

数分後――

「だから親父達と俺との考え方が違うんだ。」

「大学ぐらい出ていいとこに就職する。」 

「それだけじゃねぇと思うんだ。」

「うん。そうだね。」

「大学行く理由はさ。目標持って来た奴もいる。逆によ、目標を大学行ってから決める奴もいる。俺はこっち。」

信号の赤が、二人の前で灯る。

「桜木はどっちなんだ?」 

「僕?僕は…正直わからない。」

「……」

西川は一瞬だけ横目で桜木を見る。

「そっか。でも自分で選んだんだろ?大学。」

「うん。ハンドボール。」 

「ハンドボール?」 

「僕は高校からずっとやってたから。強い大学に入りたかった。」 

「それが理由かもね…。」

信号が変わる。

カチ、カチ、カチ……

「だから、西川がうらやましい。」 

「俺が?」 

「うん。いろいろ西川はすごいよ。」

「……」

「さ、もう着くぞ。」 

「うん。」

(性格の問題だけじゃねぇな…)


店内――

ガラガラ。

「いらっしゃいませー」

鉄板の焼ける音と、活気のある声が店内に響く。

「お、いい雰囲気だな。」 

「そうだね。和風感がいいね。」

「予約した西川です。」 

「あ、はい。ありがとうございます。こちらにお席はご用意してあります。どうぞ。」 

「はい。」

案内されたのは、四畳半ほどの小さな個室だった。外の音が遠ざかり、空気が一段落ち着く。

「落ち着くね。」 

「そだな。四人で来るにはちょうどいい。」 

「……」

(ったく…反応しろよ…)

「じゃあ俺は…と…ねぎたまお好み焼きで。」 

「はい。」 

「僕はこのオリジナルお願いします。」 

「はい。」 

「ねぎたまとオリジナルですね。少々お待ちください。」

数分後――

「お待たせしました。ねぎたまとオリジナルです。」 

「こちらでお焼きすることもできますが?」

「あ、俺達でやります。」 

「あ、はい。かしこまりました。それではごゆっくり。」

鉄板の前に腰を下ろす。

ガチャガチャと西川が混ぜ、前の鉄板に落とす。

ジュー……

ふと、桜木の手元を見る。

カチャ…カチャ…

桜木は黙々と、丁寧に具材を混ぜている。

「……」

ゆっくりと、形を整えて鉄板に下ろす。

ジュー…

桜木が視線に気づく。

「ん?どうしたの?」 

「あ、いや…俺とはやり方違うなって。俺はガチャガチャ混ぜてドバッていうタイプ。」

「ふふ。そうだね。」

桜木は、崩れないように慎重に整えながら言う。

「西川らしいよ。」

湯気が立ち上り、部屋の空気を満たす。

「なぁ…桜木…」 

「ん?」 

「お前さ…宮司ちゃんのことどう思ってるの?」

西川は視線を鉄板に落としたまま、ヘラを動かし続ける。

桜木の手が止まる。

「どうって…」

「わからないは無しな。」

ジュー…

「好き…だよ…」 

「宮司さんのことは…」

「そっか。」

「ただ……」

桜木の視線が、鉄板と西川の手元の間を行き来する。

「どう…向き合えばいいのかわからない…」

部屋の中に、鉄板の焼ける音だけが残る。

「……」

「…違う…こわいんだ……」

「こわい?」

「うん…好きになればなるほど……」

桜木の目が落ち着かなく泳ぐ。

「高校の時か?」

桜木は、ほんの小さくうなづいた。

「高校のとき…一年半付き合った子がいて…」

「突然…別れてって言われて。」

西川は何も言わず、ただ聞いている。

「次の日には…その子は別の人と付き合ってた…」

(それが…原因か…)

「だから…好きになればなるほど…離れたときに」

西川が、ヘラを止めずに口を挟む。

「自分が痛む。好きだけどそのことが頭から離れないから積極的にいけない。」

桜木は西川の顔を見て、静かにうなづく。

「焦げるぞ。」

「あ、うん。」

慌ててヘラを動かす音が、少しだけ大きくなる。

ジュー…

カチャ…カチャ…

「宮司さんはすごく優しいし。すごく…気遣ってくれる。」

「どんどん…好きになる…」

「でも…好きになればなるほど…」

西川は一瞬だけ手を止め、短く息を吸う。

「桜木…先に言っとく。悪いな。」

桜木は顔を上げる。

「高校時代の彼女と、宮司ちゃん。一緒にしてんじゃねぇよ。」

西川の声は低いが、はっきりしていた。

「宮司ちゃんはそんな子じゃねぇ。お前もわかってんだろ?それは。」

少し間を置いて。

「うん。わかってる。」

「わかってんならそれでいい。」

西川は話を切るように立ち上がり、水の入ったピッチャーを手に取る。

「ほら。」

コップを出せ、と目で促す。

「あ、ありがとう」

トクトクトク…

カラン、カラン…

氷の音が、張り詰めていた空気をゆっくり溶かしていく。

「あー…こらうまいわ…やっぱり口コミどおりだな。」

「うん。しかも大きいし。」

「また四人で来るか。飲めない沙織が運転すれば俺ら飲めるし。」

「ふふっ。そうだね。山中さんには悪いけど。」

桜木の表情を見ながら

(少しはトゲが抜けた感じになったかな?)

湯気の向こうで、二人の表情が少し緩む。

「気取らない自分を受け入れてくれる人が一番いい。」

「あ、俺の話な、これ。」

「うん。」

「好きなら好きで全力で突っ走る。」

「そうすれば…ちゃんと見てくれんだわ。」

西川は、鉄板を見たまま続ける。

「西川らしいね。」

「俺だからできる。とかじゃない」

「気持ちは誰だって持ってんだろ?」

「伝え方が違うだけ。俺が目立つだけ。そんだけだよ。」

「うん。そうだね。」

しばらく、食べることに集中する時間が流れる。

「よし!食ったから帰るか。」

「あ、今日は俺がおごる。」

「え…そんな悪いよ。」

「今日は。な。」

「次なんかあったときはおごってもらう。」

「わかった。ありがとう」

二人は席を立ち、店を出た。


桜木のアパート前――


夜の空気が、ひんやりと肌に触れる。

「今日はありがとう。話せてよかった。」

「ん?いいってことよ。」

「じゃあ、また。」

「ああ。」

バタン。

ドアが閉まる音が、小さく響く。

桜木は手を上げる。西川もそれに応える。

帰り道のコンビニ駐車場。

車を停め、西川は缶コーヒーを買って戻る。シートに深く座り、缶を開ける音が静かな夜に溶けた。

そのまま、スマホを取り出して電話をかける。

トゥルルル…トゥルルル…

ガチャ

「はい」

「あ、俺。今桜木送った帰り。」

「おつかれさま。どうだった?」

「やっぱな…過去が原因だった。」

「うん。前向きにはなれそう?」

「話せてすっきりした顔してたから。」

「そっか。ならよかった。」

少し間。

「なぁ沙織…」

「ん?」

「……」

「なに?」

「いや…沙織と付き合えてよかった。」

「ふふっ。なにそれ。」

「なんでもねぇ。んじゃまた明日。」

「うん。」

ツー…ツー…ツー…

西川はシートにもたれ、天井を見上げる。

(ふぅー…今日はなかなか頑張ったぞ。俺!)
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