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あなたが望むなら

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ライランド邸に着くと
ウルドは紙袋を渡され中庭で少し待たされた

邸宅の中から戻ってきたミュリエルは
大きめのバスケットを持ってきた

「うちのシェフが張り切って作ってくれた」

バスケットの中には料理や果物がたくさん詰まっている

ウルドの近くにミュリエルが立つと

「よし、テレージアのところに転移するから掴まって」

とミュリエルは手をウルドへ差し出した

ウルドは躊躇いがちに
差し出された手を掴む

小さい手は剣だこで指が硬い

その手をギュッと握る

次の瞬間

辺り一面には森が広がっていた

すぐそばにはひっそりと家が建っている

「あれ?建物に結界がはってあるみたい」

そのせいか近くにテレージアはいなかったし、建物の外の森の中にでた

ミュリエルはウルドの手を引いて
その結界を無効化し通り抜けると

家の扉を叩いた

「こんにちは、テレージア」

少しして、扉が開かれた

「いらっしゃい、ミュリエル」

白い少女はにっこり笑うと2人を家に招き入れた

「これお土産」
ウルドが紙袋をミュリエルがバスケットのカゴをテーブルに下ろす

「ああ、ありがとう」

「フリードは?」

「裏庭にいるよ、竜がもうすぐ寿命みたいで、つきっきりで見てる」

「そう、、、」

「竜って?」
ウルドがよくわからないという表情で聞く

「フリードが子供の時、谷で心をゆるした一匹だよ、あの高さから落ちて生きていたのはその竜が背で受け止めてくれたらしい」

テレージアの言葉にウルドは頷く
「そうだったのか、、、」

「見に行ってみる?」
ミュリエルが優しく聞いてきた

「行く」

3人は家を出て家の裏庭に向かった

フリードは以前の暗く邪悪な雰囲気が抜けて、ただ心配そうに黒い小さな竜を撫でていた

「小さくなってる、、、」
ミュリエルが竜を見てつぶやいた

「大きいままだと魔力消費が激しいから、私が魔法で小さくした」
テレージアが言うと

なるほどとミュリエルが頷く

たしかに、小さな黒い竜からは魔力が抜けて生気も少ない

か弱く、もう長くはないだろう

ミュリエルはウルドを見つめる

何を考えているか、ウルドのその表情を見て
わかった

ミュリエルは口を開く

「魔力を放出してみる?」

ウルドはハッとミュリエルを見た

「いいのか?」

「ウルドがそうしたいなら私が手伝う」

ウルドはゴクリと息をのむと

フリードに話しかけた

「あんたの竜に魔力を渡していいか?」

フリードは信じられないような目でウルドを見た

「お前を殺して奪うつもりだった」

ウルドはフリードの言葉を黙って聞いていた

「なのに、助けるっていうのか?」

フリードの顔が苦しそうにゆがむ

「いいか?」
ウルドが再度聞くと

フリードはゆっくりと頷いた

ウルドはペンダントを取ると
それを地面に置いて
ミュリエルと2人、竜のそばに膝をつく

ミュリエルがウルドの手を握って
黒い竜の体に触れた

黒い魔力が竜に流れ込んでいくのが

テレージアにもフリードにもわかる

息も絶え絶えだった竜は
静かにゆっくりと呼吸をとりもどしていった

ミュリエルが竜から手を離す

ウルドの中の魔力は半分以上放出されたようだった

「大丈夫?」

「ああ、これくらいなら、むしろスッキリした」

ウルドは外して地面に置いていたペンダントを拾うと

今度はフリードにそれを手渡した

「魔法使わなかったら、これで十分足りるだろ?」

ペンダントには黒い魔力が溜まっている

震える手でフリードはそれを受け取った





ミュリエルは前を歩くウルドに話しかけた

もうテレージアの家を出て
森を歩いていた

「よかったの?ペンダント」

「ああ、またロージーに作ってもらうよ」

あれだけの魔力があれば、魔法さえ使わなければ普通に生きていけるだろう

フリードの魔法制限は解いていないから心配ない

「テレージアに話、聞きたかったんでしょう?」

「うん、また今度でいい、また連れてきてくれるか?」

ミュリエルは頷く

「いつでもいいよ」

(もちろん、あなたが望むなら)

「さ、帰ろ、明日昇進試験だし」

ミュリエルはウルドの手を握ると
孤児院まで転移した


「びっくりした!急に転移するから」
ウルドがふらりと壁に手をつく

「ん?壁?」

そこは見慣れた孤児院の中庭だった

手をついた壁には、黄金に光る魔法陣の光が消えていくところだった

「孤児院にも転移陣つけてたのか」

「うん何かあったらすぐ駆けつけれるかなって」

「ここならウルドの家にも近いでしょ?」

幸い、中庭には誰もいなかった

2人は教会に続く扉を開く

「あれ?いらっしゃい」

フレデリクが不思議そうに挨拶をした

「まさか、言ってなかったのか?」

「そういえば、転移陣のことは言ってなかったかも」

結界を張ることは了承を得たけど

事情をフレデリクに話し、教会を出た2人はロージーの診療所に向かって歩き出す

「ペンダントをまた作ってもらわないとね」

診療所は昼下がりで客はいなかった

「師匠は元気だったかい?」

「うん、あ、ウルドのペンダントって
すぐできるのかな?」

「まあ、ペンダントがないけど、間に合わせでブレスレットがあるからそれで作ってみるよ」

「魔力は程よく抜けてるから何日かは大丈夫だろう」

「そっか良かった、じゃあ私は帰るね、ウルドもまた、明日ね」

ウルドは手を振りミュリエルを見送った


「ウルド、師匠に話してみたかい?」

「いや、まだ」

「君が大量の魔力があるのに、魔法が使えないのは多分君の奥にある力のせいだと思うと前に話したよね」

「うん」

「その力は強力だから、私にも触れることはできない」

「結界や封印は、より強い力で壊すか、術者が死なない限り解けないって話しだよな」

「そう、ミュリエルは多分、私より強いけど、この力を解くのは無理だろう」

「だけど、師匠ならあるいは」

「俺が魔法を使えるようになれるかもしれない」

確かテレージアは言った


『その罪を忘れさせ、魔力を封じたのは私だ。君の母の頼みでもあった』

あれは前世で施されたって話だった
生まれ変わってもその強力な封印が
今も残っているとしたら

きっとテレージアなら解くことができるかもしれない


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