奴隷だった少女は公爵令嬢に転生して幸せになります

和若

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第四話 鎖の記憶

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弟の熱が下がり、安堵したその夜。
 私は窓辺に座り、揺れる月の光を見つめていた。

 温かな屋敷。清らかな寝具。優しい弟の寝顔。
 けれど心の奥に残るのは――鎖の冷たい感触だった。



 あれは、まだ幼かった頃。
 私は「商品」として買われ、鉄の首輪を嵌められた。

「泣くな。笑え。客の前では笑っていればいい」

 そう言われ、頬を叩かれた。
 笑えば褒められ、できなければ叩かれる。
 だから私は、笑顔を「仮面」に変えた。



 ある夜、宴の場で舞を踊らされた。
 煌びやかな衣装をまとい、楽に合わせて足を動かす。
 失敗すれば鞭が飛ぶ。
 私は必死に、血がにじむまで練習し、完璧に舞った。

 けれど終わった後、与えられた食事は冷めた粥ひと匙。
 満たされぬ胃に、ただ虚しさだけが広がった。



 病に倒れた時のことも忘れられない。
 体が熱に焼かれて動かなくても、休むことは許されなかった。

「使えぬ奴隷など要らぬ」

 吐き捨てられた声が耳に残る。
 その夜、私は冷たい床に横たわり――
 「せめて、自由に生きたかった」
 そう願いながら目を閉じたのだ。



 ……気づけば、私は公爵令嬢として目を覚ましていた。

 柔らかなベッドも、温かな食事も、信じられないほど幸せだ。
 だが同時に、胸が苦しくなる。
 ――どうして私は助かって、あの仲間たちはまだ鎖の中なのか。

 罪悪感にも似た痛みが胸を刺す。
 けれど同時に、強い思いも湧き上がった。

 二度とあんな地獄に戻らない。
 そして、今の私にできる限りの力で、誰かを救う。



 私は窓を閉じ、深呼吸をした。
 過去の痛みは消えない。だが、それがあるから今の私がいる。

 ――奴隷として生き抜いた技と知恵を、この身のすべてを、今度は人のために使おう。

 夜空の月は、そんな私を見守るように静かに輝いていた。




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