奴隷だった少女は公爵令嬢に転生して幸せになります

和若

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第七話 母親の形見

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その夜、アルノルトは私の部屋を訪ねてきた。
 小さな両腕で抱えているのは、古びた木箱。
 彼の顔はどこか決意を宿しながらも、震えていた。

「姉上……話したいことがあるんだ」

 机に置かれた箱の蓋が開くと、中には銀の鎖に青い宝石をあしらったペンダントが眠っていた。
 月明かりを受けて、淡い光を返す。

「母様の……形見だよ」

 アルノルトの声はかすれていた。



 彼はそっと宝石に触れながら言葉を紡いだ。

「母様が亡くなった日のこと……僕、今でも覚えてる。
 あの日、僕は友達に誘われて外に遊びに行ったんだ。母様は別の場所に出かけて……その先で事故に遭って……」

 言葉が途切れる。
 小さな拳が震え、涙が滲む。

「もし僕があの日、母様と一緒にいたら……何か違ってたのかもしれない。僕が、母様を守れたんじゃないかって……そう思うと、苦しくて」

 押し殺した嗚咽が部屋に広がった。



 私はそっと弟の肩に手を置いた。
 奴隷だった頃、誰も私の涙を受け止めてくれることはなかった。
 だから今は、この子にとって「涙を許される場所」になろうと思った。

「アル……あなたはまだ幼かった。母様はきっと、あなたが元気で笑っていてくれることを一番に望んでいたわ」

 彼は顔を上げる。涙で濡れた瞳に映るのは、私の姿。

「母様が事故に遭ったのは……誰のせいでもない。ましてや、あなたのせいじゃない」

 私はペンダントを両手で包み、言葉を続けた。
「もし母様がここにいたら、こう言うと思うの。――『アルノルトが無事でよかった』って」



 アルノルトの瞳から、堰を切ったように涙が溢れた。
「……本当に、そう思ってくれるかな」

「ええ。母様は優しい人だったもの。だから、その思い出を二人で守ろう。
 一人で苦しまなくても、これからは私が隣にいるから」

 私は弟を抱き寄せ、彼の頭を撫でた。
 その肩は小さく震えていたが、やがて力が抜けていく。



 しばらくして、彼は震える手でペンダントを私の首にかけてくれた。
「……これからは、姉上が持っていてほしい」

 冷たい鎖が胸に触れ、宝石が心臓の上で静かに光った。
 その温もりは、まるで母が二人を見守っているかのようだった。



「母様がいなくても……姉上がいてくれるなら、僕はもう大丈夫」

 アルノルトの言葉に、私の胸も熱くなる。
「私もよ。二人で母様の思い出を分かち合って、前を向いていこう」

 窓から差し込む月明かりが、青い宝石を照らし、まるで母の微笑みのように姉弟を包み込んでいた。




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