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第六話 姉は盾となる
しおりを挟むアルノルトの体調が落ち着いたある日、私は彼を街の高級菓子店へ連れて行った。
ガラスの器に並ぶ色鮮やかなマカロンやパイに、アルノルトの瞳は子どものように輝いた。
「わあ……すごい。姉上、あれ全部食べられるの?」
「ふふ、欲張りすぎよ。でも少しくらいなら大丈夫」
そんな穏やかな時間の中で――耳に入ってきた声があった。
◇
隣のテーブルに座るのは、豪奢な衣を纏った中流貴族の一団。
彼らはグランデール公爵家の名を口にしていた。
「……しかし公爵家の跡取りといえば、病弱で人前に出られぬ坊やだろう?」
「ええ、噂では舞踏会にも姿を見せぬとか。公爵家も落ちぶれたものだ」
「このままでは公爵位も危ういかもしれんな」
その言葉に、アルノルトの表情が一瞬で曇る。
小さな拳が震え、俯いた瞳には影が落ちていた。
◇
私は静かに立ち上がり、彼らの方へ歩み寄った。
気配に気づいた貴族たちは振り返り、私の顔を見て青ざめる。
「――お言葉、聞き捨てなりませんわ」
私は背筋を伸ばし、澄んだ声で告げた。
周囲の空気がぴんと張りつめる。
「グランデール公爵家の者を、軽々しく噂するなど……あなた方は、我が家の名がどれほどの重みを持つかお忘れで?」
視線を正面から受けた貴族たちは、慌てて姿勢を正した。
「も、申し訳ございません……」
◇
私はさらに続ける。
「弟アルノルトは、確かに病を抱えやすい身です。ですが、それは“弱さ”ではなく、“努力する強さ”を知るということ。
そして何より、彼は我が誇り高き家族。――その存在を貶める言葉は、たとえ同じ貴族であっても許されません」
毅然とした声は、店内に響き渡った。
店の客たちも息を呑み、場は静まり返る。
私は最後に言葉を落とす。
「貴族の務めは、己の家を守ること。そして他家を敬うこと。……どうか、二度とお忘れなきよう」
◇
沈黙の後、貴族たちは慌てて立ち上がり、深々と頭を下げた。
「……面目ございません、公爵令嬢殿」
「以後、言葉には気をつけます」
その姿を見届け、私は静かに席へ戻った。
◇
隣で縮こまっていたアルノルトは、私を見上げて小さく呟いた。
「……姉上、かっこよかった」
頬が少し赤らんでいる。
私は微笑み、彼の手をそっと握った。
「アル。あなたは私の大切な弟。誰が何を言おうと、その誇りは揺らがないわ」
アルノルトの瞳が潤み、やがて小さな笑顔が浮かんだ。
それはこれまでで一番、素直で無邪気な笑顔だった。
◇
――私は誓う。
この子を二度と孤独にしない。
そして、公爵令嬢としての誇りと力をもって、必ず守ってみせる。
窓の外では、陽光が街並みにきらめきを与えていた。
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