奴隷だった少女は公爵令嬢に転生して幸せになります

和若

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第六話 姉は盾となる

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アルノルトの体調が落ち着いたある日、私は彼を街の高級菓子店へ連れて行った。
 ガラスの器に並ぶ色鮮やかなマカロンやパイに、アルノルトの瞳は子どものように輝いた。

「わあ……すごい。姉上、あれ全部食べられるの?」
「ふふ、欲張りすぎよ。でも少しくらいなら大丈夫」

 そんな穏やかな時間の中で――耳に入ってきた声があった。



 隣のテーブルに座るのは、豪奢な衣を纏った中流貴族の一団。
 彼らはグランデール公爵家の名を口にしていた。

「……しかし公爵家の跡取りといえば、病弱で人前に出られぬ坊やだろう?」
「ええ、噂では舞踏会にも姿を見せぬとか。公爵家も落ちぶれたものだ」
「このままでは公爵位も危ういかもしれんな」

 その言葉に、アルノルトの表情が一瞬で曇る。
 小さな拳が震え、俯いた瞳には影が落ちていた。



 私は静かに立ち上がり、彼らの方へ歩み寄った。
 気配に気づいた貴族たちは振り返り、私の顔を見て青ざめる。

「――お言葉、聞き捨てなりませんわ」

 私は背筋を伸ばし、澄んだ声で告げた。
 周囲の空気がぴんと張りつめる。

「グランデール公爵家の者を、軽々しく噂するなど……あなた方は、我が家の名がどれほどの重みを持つかお忘れで?」

 視線を正面から受けた貴族たちは、慌てて姿勢を正した。

「も、申し訳ございません……」



 私はさらに続ける。
「弟アルノルトは、確かに病を抱えやすい身です。ですが、それは“弱さ”ではなく、“努力する強さ”を知るということ。
 そして何より、彼は我が誇り高き家族。――その存在を貶める言葉は、たとえ同じ貴族であっても許されません」

 毅然とした声は、店内に響き渡った。
 店の客たちも息を呑み、場は静まり返る。

 私は最後に言葉を落とす。
「貴族の務めは、己の家を守ること。そして他家を敬うこと。……どうか、二度とお忘れなきよう」



 沈黙の後、貴族たちは慌てて立ち上がり、深々と頭を下げた。
「……面目ございません、公爵令嬢殿」
「以後、言葉には気をつけます」

 その姿を見届け、私は静かに席へ戻った。



 隣で縮こまっていたアルノルトは、私を見上げて小さく呟いた。
「……姉上、かっこよかった」

 頬が少し赤らんでいる。
 私は微笑み、彼の手をそっと握った。

「アル。あなたは私の大切な弟。誰が何を言おうと、その誇りは揺らがないわ」

 アルノルトの瞳が潤み、やがて小さな笑顔が浮かんだ。
 それはこれまでで一番、素直で無邪気な笑顔だった。



 ――私は誓う。
 この子を二度と孤独にしない。
 そして、公爵令嬢としての誇りと力をもって、必ず守ってみせる。

 窓の外では、陽光が街並みにきらめきを与えていた。




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