お願い乱歩さま

のーまじん

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モデル

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 夕暮れが近い空をバックに遥希は屋上フェンスにしがみついていた。
 それを秀実がスマホで撮っている。

 ひと昔前ならポーズをとり合言葉をかけてカシャカシャと静止画を撮るところだが、秀実はスマホの動画機能でゆるゆると撮影している。

 二人は、お互いの絵師の為に同盟を組んだのだ。
 そして、お互いの夢の挿し絵の為にこうして構図を撮影している。

 葵は二人の世界について行けずに離れて見ていた。
 そして、秀実は推しの絵師のホリタツについてどこまで知っているのか考えていた。

 ホリタツ…それは多分、叔母の奈穂子の事に違いない。
 奈穂子は昔、同人活動で絵をイラストを書いたりしていたらしいのだから。

 叔母さん…守備範囲広すぎだよ~

 葵はBLの挿し絵までこなしていた奈穂子を思う。そして、そんな過去が秀実と共に商店街にばらされる未来を考えた。

 薄い本とか…書いたりもしたのかな(*''*)

 過激な事を考えて、葵は赤面しながら首を振る。
 『ロンドン浪漫』は、そんなシーンは無かったけど、これを機会に色々出てきたらどうしよう…
 BLって、恋愛表現激しい印象だし、そんなのが、パパに知られたら…益々、仲が悪くなっちゃうわ。

 葵は暗い気持ちになる。都会でフラフラしてから実家に帰って来た奈穂子を、葵の父、健二は良く思っていなかった。

 そんな健二にDEEPなBL作品なんて知られたら、きっと、奈穂子に会うなと言われてしまう。

 『ロンドン浪漫』あの作家さんのラインナップが知りたいわ。

 それは葵にとって切実な願いになった。

 それにしても、あの小説家は奈穂子にとって、どんな人物なのだろう?
 ローマ風味のファンタジー作品しか描かない奈穂子に、あれだけ、細かい19世紀のイラストを書かせるのだから、特別な人物なのは違いないが。


 「はいっ、じゃあ、次は足を伸ばして座ってみて。」
秀実の元気な声が葵の耳に飛び込んできた。
「まだ、撮るのかよ。」
遥希は、文句を言いながらもとりあえず座ってポーズを作る。

 遥希くんて、足が長いんだ。

 葵は真っ直ぐに伸びた遥希の右足をボンヤリと見つめた。

 隣のクラスの男子の足なんて、よほどの事がなければ観察なんてしない。
 特に、遥希のような身長が高くて、大きな男の子の場合、背中とか肩をチラリと見て、よけるか、よけないか、くらいしか気にしたことは無かった。

 遥希は筋肉質で今風の…イケメンと言うわけではない。
 頭も大きくて、四角い感じの、ゴツいタイプである。
 基本、誰かとつるんだりするわけでもなく、静かに本を読んだりしている、陰キャと呼ばれる人間だが、そのキャラクターと裏腹な体格のため、誰も彼をからかったりはしなかった。

 運動部から勧誘されたりしてるみたいだけれど、郷土資料部で黙々と作業をする、良くわからない人物でしかなかった。

 「本当に、こんな場面、明智小五郎に必要なのか?」
そろそろ、撮影に飽きてきた遥希が不満を言った。
「あら、手っ取り早く人気小説になりたかったら、学園ものが一番じゃん。
 高校生、天才探偵明智小五郎。悪くないでしょ?」
と、秀実はサラリと言ったが、多分、そんなものを書くつもりは無いんじゃないかと葵は思った。

 秀実は、遥希の体が好きだとそう言った。
 はじめに聞いた時は、秀実の人格を疑ったが、伸びたり縮んだり、飛んだりする遥希の姿を見ながら、本当に、遥希の体を良く見て、美しさを引き出しているのだと感心する。

 「はい、はい、分かった、じゃあ、次は私を撮らせてあげるわよ。
 スパッツ履いてるし、足をあげて回し蹴りとかだって、やるわよ。」
と、秀実が優雅に両手をあげて軽く腰をふる。

 スカートが揺れて、スラリとしたふくらはぎが夕暮れの光に輝いている。

 えっ(°∇°;)

 葵は、秀実の大胆さにドキドキしながらも、彼女が幼稚園時代から、サンバを習っていたのを思い出した。

 が、遥希は、少しすまなそうに秀実に謝る。

 「ごめん、可愛いのが欲しいから、出来れば木曽さんにモデルをお願いしたい。」

 え、ええっ…(○_○)!!

 葵は、混乱する。
 同じ部室の仲間の女子の前で、可愛いから葵をモデルに…なんて、そんな事を言われたら、あっちこっちが困ってしまう。
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