朝から晩まで癒して

マール

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事の起こりは冒険者と

ルトッテと鑑定紙と

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「診てやらないと」
 
 ベッドに横たえた人形をルトッテは見詰める。
 柔らかな髪の毛。少年のふっくらした頬。細くも太くもない刷毛で刷いたような整った眉。長く影を落とす睫毛。小さな頭にバランスの良い肢体。人工物のような精巧な美しさを持っていた。

 
 人形を目指せさせる場所にルトッテはギルド内の一室を選んだ。

 冒険者ギルドは頑丈に作られている。元々地主の高位の魔術師が様々な魔力を含ませて作った土地だ。さらに冒険者同士の小競り合いの影響を最小限にする為、魔法特化のギルド長が建物自体に幾重にも魔法と物理両方の防御結界と防音結界を張っている。王宮もかくやという鉄壁さだ。
 
 魔力に特化した場所という意味でも人形が何者であるか調べるのに都合の良い場所だ。



 人形の柔らかい髪の毛をルトッテは優しく混ぜ返す。軽く触った所で目が覚める事はない。

 あらゆる治癒魔法や鑑定魔法に長けたギルド長は今はいない。治療に不可欠なその魔法も低レベルながら魔法具で補える、とルトッテは根拠もなく考えていた。


 ルトッテは医者ではない。魔力は平均より少し上でしかない剣術とギルドの貢献魔物討伐で成り上がった魔法剣士だ。それでもルトッテは医者にもギルド長にも診せる気はなかった。それどころか誰にも見せたくなかった。ルトッテは無意識に口の端が上がる。


 

「少し痛むぞ」

 鑑定魔法を持たないルトッテはギルドで使用している鑑定用紙を使おうと人形の白い指に針を刺す。寸前に火花が飛び散った。思わず目を見張る。

 鑑定用紙は少量の血を垂らすと身体を構成する魔力を紙に文字を浮き上がらせ第三者に知らせる事ができる。名前や能力、身体の状態も見つかる為、診察行為にも使われる。
 再度血液を採取しようとした針がまろい指先に弾かれた。


「なんらかの守護が掛かってるとしか思えないが」


 ギルド長なら分かるだろうが、例え留守してなくとも診せるつもりはなかった。何故そう思うのか、ルトッテは疑問にも思わない。

 眠る人形の白い手に剣だこのある手を置き、指を絡めて本来なら血を出すはずの華奢な指に唇を寄せる。

 小さな手。細い指先。甲は柔くて、全体は冷たい。全てを掌包み温めて、その頬をほんのり赤く染め上げたい。
 ルトッテはその指先を厚い唇でやわやわと食んだ。



(……あったかい)



 ルトッテの脳裏に何かが掠めた。

 ルトッテは弾かれたように人形の顔を覗き見た。しかし、変化はなかった。
 ざわりと心を掠める何かがある。
 

 再び人形の指先を食む。口に含み体内の熱を冷たい指に塗り込めるように、いつしか舌で舐っていた。滑らかな肌の感触を舌全体で味わう。冷たい貝殻のような爪先の精巧さにやはり人形ではなく人間なのだと思う。

 どうにかして鑑定をしなければならない。
鑑定には血が必要だ。血とは体液だ。体液は……。


 ルトッテは徐に右手の指を人形の柔らかな薄桃色の唇に突っ込んだ。弾力のある頬をさすり歯列をなぞり、空いた左手で顎を挟み口をこじ開ける。人差し指と中指で落ち込みかけた薄い舌を挟み、蹂躙し、舌下の柔らかな粘膜をやわやわとさする。

 ごぷり

 唾液が溢れた。

 ルカッテは目を細めるも、人形の体を優しく丁寧に横向きに転がした。首を退け反らせ気道を確保する。そして、もう一度舌を指先で転がし、人形の細い喉に流れた唾液を鑑定紙で吸い上げた。




 正しく鑑定はされなかった。文字が滲んで読めない。辛うじて読める単語は、「……魔力」「……枯渇」「……蘇……」

 名前も能力も分からない。唯一魔力枯渇だけ理解できた。















 通常業務が終了し、今日もルトッテは人形を調べていた。滑らかな肌は強く擦っても赤みも指さない。ルトッテは眉間に皺を寄せ、手元の紙に結果を書きつける。










 増えない情報。毎日、人形に触れる時間が増えていく。吸い付くような肌、華奢な手足、口に含んだ指先の柔らかな肉の感触。
 日一日とルトッテは人形にのめり込んだ。

 
 慣れない書き付けは汚なく、字形も歪み、後から読むには適さない。
 それでも、ルトッテは1行でも増える人形の情報にうきうきとペンを走らせた。
 

 




「早く目覚めた君に会いたいものだな」




 

 
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