朝から晩まで癒して

マール

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事の起こりは冒険者と

ギルド長の言うことには

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 通常業務終了後。
 
 今日もルトッテはギルドの一室で人形のような少年を撫でさすっていた。
 
 

 

「……癒される」




 ルトッテは安堵の息を吐く。
 腕の中の少年は未だ目覚める兆しもない。引き取って7日経っている。技術も知識もない中、自力で少年を起こすことに限界を感じていた。


 執務机には採決を待つばかりの書類が積まれている。ルトッテの采配では処理できないものばかりだ。

「……ギルド長に連絡しないと」

 未だ帰らないギルド長に定時連絡をする時間がきていた。ルトッテは少年を抱きしめて直して肩口に顔を押し付けた。ぐりぐりと顔を押し付ける。癒される。





 正直連絡はしたくない。したくないが、少年を起こすには、ギルド長の知識が必要なのも理解している。書類の山もある。



 メモ代わりの書き損じ書類とインクを用意して億劫に思いながらルトッテは引き出しの魔法陣紙を取り出し起動させた。

「オープン。コール: ジアドベントギルドオブマスター、コード: マジェンタ」








 紙上10cm程の高さに魔法陣が青い光となって浮かび上がった。

「ヤッホー。元気してた? ルトッテ君」

 舞台俳優のような無駄に爽やかな青年の声が魔法陣を通して届いた。

「もうッ。まったく連絡が遅いよ。俺すっかりギルドマスターしてるの忘れるとこだったよ」

「それは困ります。マジェンタ様」

 ルトッテはため息を吐きそうになって、グッと我慢する。マジェンタの声だけではなく周囲の声も魔法陣が拾って伝えてくる。複数人のくぐもった笑い声。

「一体、どこにいらっしゃるんですか? マジェンタ様」

「やたら丁寧な口調が怖いんだけど」

 戯けるような反応にルトッテは更に声を低めた。

「早く帰ってきてください。こちとら聞きたいことも……」
「…… くすぐったい。もうやめって」

 声に被さるマジェンタの小さな声にルトッテの胸が騒めく。米神を指でぐりぐり揉み込んだ。口調を改めドスを効かす。

「もう一度聞く。今、どこにいるんだ。ジェン」
「それがさぁ、ルトッテ君。指名依頼中でゴーストダンジョンに嵌っちゃっててさ。当分帰れなくて……」

 「本当にゴーストダンジョンなのか」とルトッテは突っ込みを入れたくなったが、ぐっと我慢する。

「……所で聞きたいことってなんだい?」

 明るいトーンから一変して本題に入る。話題を逸らさない所が流石ギルドマスターだとルトッテは感心する。
 抱きしめた少年の髪を撫でる。心が落ち着く。

「C級冒険者が人形、いや、仮死状態の人間を拾ってきた。私の魔力では目覚めさせられなかった。何かいい方法はないか」
「鑑定紙は使った?」
「殆ど意味不明だった。滲んで読めない。辛うじて魔力枯渇とだけ読めた」

「C級の名は?」
「アニィークだ」
「それなら、東のゴミ捨て場がテリトリーだよね。確か東は神殿が……」

 名前だけでその冒険者のテリトリーを覚えているなんて、とルトッテは感心した。

 まだ何か話しているがマジェンタの声が遠くなり、聞き取り難く。また周囲の騒音が激しくなった。
「ジェン! 聞こえてるか?」
「……ああ、ごめん。ルトッテ君。
 えと、魔力枯渇の人? 俺が行けたらいいんだけど。魔力の受け渡しは接触摂取が基本だよ。俺の執務机の真下に隠し戸があるからそこから魔石を……含んで………………は、ダメだからな」

 複数の笑い声と足音。絹擦れの音とマジェンタの吐息混じりの声にルトッテはますます米神をぐりぐり押しながら、説明を聞く。
「何がダメだって? ジェン?」

「……飲むのダメだぞ。相手の体液は……。……ちょっと。魔法陣返しなさーい!」

 ガサガサ紙の寄れる音に焦ったようなマジェンタの早口が重なる。

「……いい。ルトッ…… 最低で……30日。魔力補給して…………て。…………反応が…………はず…………」

 マジェンタの甲高い短い悲鳴と共に魔法陣が消えたのだ。



 ルトッテは少年の髪に頬擦りをして、メモったばかりの紙を見つめるのだった。
 やっぱり少年は癒される。




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