朝から晩まで癒して

マール

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事の起こりは冒険者と

日常と人形と

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 ルトッテは重厚な扉を開けてギルドマスターの執務机に近寄った。ベルベット張りの椅子を引き、足元を丹念に調べる。


「ここら辺なんだが」

 定期連絡の度にマジェンタは「帰りたい」と言うが、正直帰ってきて欲しくはない。
 ルトッテは聞き出したメモを睨みつけ、めつすがめつ床に目線を落とす。
 微かに見える白い線を指でなぞれば、すぐさま装飾のゴテゴテしい箱が魔法陣と共に浮かび上がった。

「オープン: セサミ」
 メモのキーワードを唱えるとあっさり箱が開けられた。そこには沢山の魔石が保存されていた。
 高純度高濃度の魔石は閉じ込められた属性に合わせた赤青黄色緑、紫の光を反射して透き通り、普段使いの石炭のような魔石ではなく。最早宝石だった。
「目がくらむってこのことだな」

 ルトッテは昔を思い出し深くため息を吐き出した。だからと言って、本当に眩む訳ではない。昔はどうあれ今は冒険者ギルドを任される補佐なのだ。
 ルトッテは魔宝石の箱を掴んで部屋を出る。ようやく少年に満足な魔力を与える事ができるのだ。
 足取り軽く、口笛でも吹きたくなるが人目を気にして咳払いを一つした。


 



 簡易ベッドに横たわる少年は相変わらず動かない。床擦れも起きないのは守護魔法のおかげのようだった。

 見つけ出した魔石を濡らした清潔な布で拭きルトッテは少年に向き合った。

「口を開けてくれるかな。少し大きいかも知れないが」


 ルトッテは左手で少年の柔らかな頬を押し潰し顎を開かせ、少年の真珠のような歯を押し上げながら右手の魔石を頬張らせる。
 
 数分経って変化はない。
 ルトッテはメモを凝視する。

『含ませた魔石を施術者が溶かすこと。その際、溢れた唾液は飲まぬこと』

 聞いたままに書き取って、その場は解った気になっていたルトッテだったが、その方法までは理解出来なかったのだ。

「魔石は溶けるのか? 唾液が溢れる行為をするってことは……」

 ルトッテは少年を見た。柔らかな唇は薄く開かれ、微かに覗く宝石の輝きがなんとも扇情的だ。
 んん、と咳払いする。
 ルトッテはこれは医療行為だと自ら言い聞かせ、魔石を頬擦る少年の唇に自らの口を付けた。柔らかい。舌を差し入れ大きな魔石を舐めると、ジュンと魔石が溶け始めた。石と少年の舌に舌を絡め撫で摩り突つく。少年とルトッテの唾液が交じり合い、少年の白い喉元を伝っていく。
 いつしか夢中になった。顎も舌も筋肉痛にならんばかりなのに止められない。



 徐々に魔石が小さくなり比例して水音が大きくなる。溶けて無くなっても溢れた水は吸うことはできず、ルトッテの眉が寄る。垂れ流される唾液を不快に感じ始め、我に返るその時。脳裏に何かが掠めた。





(あたたかい……)




 口いっぱいに溜まった物を布に吐き出して、ルトッテは少年を強く抱きしめた。

「今のはお前か?」


 頬擦りをする。少年は動かない。しかし、確かに声にならない意思が伝わる。



(……あたたかい)

 

 初めての返事にルトッテは少年が生きているとようやく実感できたのだった。



 
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