7 / 10
事の起こりは冒険者と
日常と人形と
しおりを挟むルトッテは重厚な扉を開けてギルド長の執務机に近寄った。ベルベット張りの椅子を引き、足元を丹念に調べる。
「ここら辺なんだが」
定期連絡の度にマジェンタは「帰りたい」と言うが、正直帰ってきて欲しくはない。
ルトッテは聞き出したメモを睨みつけ、矯めつ眇めつ床に目線を落とす。
微かに見える白い線を指でなぞれば、すぐさま装飾のゴテゴテしい箱が魔法陣と共に浮かび上がった。
「オープン: セサミ」
メモのキーワードを唱えるとあっさり箱が開けられた。そこには沢山の魔石が保存されていた。
高純度高濃度の魔石は閉じ込められた属性に合わせた赤青黄色緑、紫の光を反射して透き通り、普段使いの石炭のような魔石ではなく。最早宝石だった。
「目が眩むってこのことだな」
ルトッテは昔を思い出し深くため息を吐き出した。だからと言って、本当に眩む訳ではない。昔はどうあれ今は冒険者ギルドを任される補佐なのだ。
ルトッテは魔宝石の箱を掴んで部屋を出る。ようやく少年に満足な魔力を与える事ができるのだ。
足取り軽く、口笛でも吹きたくなるが人目を気にして咳払いを一つした。
簡易ベッドに横たわる少年は相変わらず動かない。床擦れも起きないのは守護魔法のおかげのようだった。
見つけ出した魔石を濡らした清潔な布で拭きルトッテは少年に向き合った。
「口を開けてくれるかな。少し大きいかも知れないが」
ルトッテは左手で少年の柔らかな頬を押し潰し顎を開かせ、少年の真珠のような歯を押し上げながら右手の魔石を頬張らせる。
数分経って変化はない。
ルトッテはメモを凝視する。
『含ませた魔石を施術者が溶かすこと。その際、溢れた唾液は飲まぬこと』
聞いたままに書き取って、その場は解った気になっていたルトッテだったが、その方法までは理解出来なかったのだ。
「魔石は溶けるのか? 唾液が溢れる行為をするってことは……」
ルトッテは少年を見た。柔らかな唇は薄く開かれ、微かに覗く宝石の輝きがなんとも扇情的だ。
んん、と咳払いする。
ルトッテはこれは医療行為だと自ら言い聞かせ、魔石を頬擦る少年の唇に自らの口を付けた。柔らかい。舌を差し入れ大きな魔石を舐めると、ジュンと魔石が溶け始めた。石と少年の舌に舌を絡め撫で摩り突つく。少年とルトッテの唾液が交じり合い、少年の白い喉元を伝っていく。
いつしか夢中になった。顎も舌も筋肉痛にならんばかりなのに止められない。
徐々に魔石が小さくなり比例して水音が大きくなる。溶けて無くなっても溢れた水は吸うことはできず、ルトッテの眉が寄る。垂れ流される唾液を不快に感じ始め、我に返るその時。脳裏に何かが掠めた。
(あたたかい……)
口いっぱいに溜まった物を布に吐き出して、ルトッテは少年を強く抱きしめた。
「今のはお前か?」
頬擦りをする。少年は動かない。しかし、確かに声にならない意思が伝わる。
(……あたたかい)
初めての返事にルトッテは少年が生きていると漸く実感できたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
愛させてよΩ様
ななな
BL
帝国の王子[α]×公爵家の長男[Ω]
この国の貴族は大体がαかΩ。
商人上がりの貴族はβもいるけど。
でも、αばかりじゃ優秀なαが産まれることはない。
だから、Ωだけの一族が一定数いる。
僕はαの両親の元に生まれ、αだと信じてやまなかったのにΩだった。
長男なのに家を継げないから婿入りしないといけないんだけど、公爵家にΩが生まれること自体滅多にない。
しかも、僕の一家はこの国の三大公爵家。
王族は現在αしかいないため、身分が一番高いΩは僕ということになる。
つまり、自動的に王族の王太子殿下の婚約者になってしまうのだ...。
君と秘密の部屋
325号室の住人
BL
☆全3話 完結致しました。
「いつから知っていたの?」
今、廊下の突き当りにある第3書庫準備室で僕を壁ドンしてる1歳年上の先輩は、乙女ゲームの攻略対象者の1人だ。
対して僕はただのモブ。
この世界があのゲームの舞台であると知ってしまった僕は、この第3書庫準備室の片隅でこっそりと2次創作のBLを書いていた。
それが、この目の前の人に、主人公のモデルが彼であるとバレてしまったのだ。
筆頭攻略対象者第2王子✕モブヲタ腐男子
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
6回殺された第二王子がさらにループして報われるための話
さんかく
BL
何度も殺されては人生のやり直しをする第二王子がボロボロの状態で今までと大きく変わった7回目の人生を過ごす話
基本シリアス多めで第二王子(受け)が可哀想
からの周りに愛されまくってのハッピーエンド予定
(pixivにて同じ設定のちょっと違う話を公開中です「不憫受けがとことん愛される話」)
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
エンシェントリリー
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
短期間で新しい古代魔術をいくつも発表しているオメガがいる。名はリリー。本名ではない。顔も第一性も年齢も本名も全て不明。分かっているのはオメガの保護施設に入っていることと、二年前に突然現れたことだけ。このリリーという名さえも今代のリリーが施設を出れば他のオメガに与えられる。そのため、リリーの中でも特に古代魔法を解き明かす天才である今代のリリーを『エンシェントリリー』と特別な名前で呼ぶようになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる