戦国澄心伝

RyuChoukan

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第一百九十一話 松永の献宝・旧友、相まみえる

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 入洛五日目、本国寺。松永久秀が来た。戦国一の悪人。軍は連れない。従者一人、および錦の包みに収めた木箱一つ。

 足取りは軽い。まるで挨拶に来たかのように。探りはしない。“澄原先生”の前で探ることが、命を俎板へ置く行為だと知っている。

 柳澈涵は廊下で待っていた。視線が合う。東山の夜茶以来、初めて。松永は少し老けた。目尻の皺に狡猾さが溜まる。だが火薬の匂いはまだ残り、触れれば爆ぜる。

 松永は笑う。

「澄原……いや、今は柳殿か。分かっていたよ。あの一服の茶――頼む相手を間違えなかったとな。」

 目を細める。

「京の風水は、結局お前の方へ回った。」

 柳澈涵は手を合わせる。

「松永殿、首が繋がっている。賭ける方向を誤らなかった証です。」

「首は預けものさ。」

 松永は木箱を叩く。

「守るために、血を吐く出費をした。」

 座敷へ入り、木箱を信長へ差し出す。蓋が開く。茶入が一つ、静かに眠る。釉は古朴、形は丸く艶やか。天下三名物の一つ――九十九髪茄子。

 信長が茶入を取る。眼に一瞬の狂熱が走り、火が刃を舐めてすぐ鞘へ戻るように、すぐ抑え込まれた。

「これ一つで一国の値だ。」信長。

 松永はさらに直に答える。

「一国では足りぬ。これは私の命の値だ。」

 密談が始まる。松永は献宝の者の顔ではない。毒蛇のように舌を出し、三好の残線、公卿の私語、寺社の裏勘定、義昭の傍の“名”を一つずつ吐き出す。吐くたび、火に油が注がれる。

「将軍?」松永は冷笑する。

「神棚に置かれた泥人形だ。信長公があれを仏として拝めば、いずれ押し潰される。」

 信長は答えない。茶入を弄ぶだけ。その眼と松永の眼が、空で一度、軽くぶつかる。刀の背が触れ合うように――抜かぬまま、互いの脈を測る。

 松永を見送るとき、柳澈涵が並ぶ。

「松永殿。」

 柳澈涵が低く言う。

「火を点けるのが、少し早い。」

 松永は足を止め、横目で笑う。老狐が血の匂いを嗅いだ笑み。

「早い方がいい。火が上がれば、誰の手に水があるか見える。」

 声を落とす。

「柳殿. お前も俺も、この世の腐った根を見抜いている。将軍の“漏れる船”に賭けすぎるな。」

 柳澈涵は見つめ返す。

「私は賭けない。」

 一拍。

「道を見るだけだ。」

 松永は大笑する。

「いいねえ、“道を見る”か。」

 背を向ける。

「なら大和で待とう. お前がその道をどう通すか、見物さ。」

 夕陽が背を引き延ばす。影は地を這い、京の巷の隙間へ静かに潜り込んでいった。
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