戦国澄心伝

RyuChoukan

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第二百一十話 金ヶ崎の殿・雷霆の修羅場

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 撤退初日、金ヶ崎城下の山口。

 夜が明けた。

 朝倉・浅井の連合軍は織田の動きを掴み、堤防の切れた濁流のように押し寄せた。

 池田勝正の三千は正門で噛みつくように耐えるが、防線は少しずつ削られていく。

 側面の山道では、羽柴秀吉が数百の雑兵を率い、山を埋めて迫る敵影を見て、ついに膝が折れた。

「終わった……終わった……」

 秀吉は地に尻餅をつき、唇は青白い. 手が震え、刀も握れない。

「こんなの……守れるか……ただの死に場所だ……!」

 兵もざわめき、今にも崩れそうになる。

 その時、巨きな手が秀吉の襟首を掴み、吊り上げた。

 パァン!

 乾いた音. 容赦のない平手打ち。

 血だらけの顔の雷霆峨保が、銅鑼のような目で睨みつけ、吼えた。

「先生が“お前を死なせるな”と言った! 閻魔でも連れていけねえ!」

 雷霆峨保は秀吉を副将へ突き飛ばし、振り返って分厚い大刀を掲げ、澄心軍団の百へ怒号した。

「野郎ども! 先生は背中を俺たちに預けた!」
「澄心陣! 路を封じろ!」

 この戦で澄心軍団は、闇の刺客ではなくなった。

 肉挽き機の中に打ち込まれた釘として、歯車そのものを止めにいく。

 数万へ正面から突っ込まない。

 柳澈涵が残した特製の絆馬索と雷石で、狭い山道に幾重もの死の仕掛けを編む。

 岩陰から鉄砲が、冷たく鳴る。

 一発ごとに、敵の旗持ちが倒れる。

 雷霆峨保は最前線に立った。

 地形を使い、曲がり角で突出した敵を刈る。

 その太刀筋は、純粋な殺戮の技へ変わっていた. 華は要らない. 一刀両断だけを求める。

 一刻. 二刻.

 敵の屍は山道に積み上がり、壁になった。

 だが代価も来る。

 澄心の若い衛士. いつも澄心楼の裏庭で猫に餌をやっていた、あの少年が、秀吉の退きを守るため、三本の槍で同時に胸を貫かれた。

 倒れる瞬間、口から血泡を噴きながらも、なお身体で敵の馬蹄を止めようとしていた。

 雷霆峨保の目が赤くなる。

 駆け寄り、三本の槍柄を一刀で断ち、冷え始めた亡骸を背に負う. 十歩退き、再び前へ立つ。

「退け!」雷霆が秀吉へ吼えた。「お前が先に行け! 俺たちが殿だ!」

 秀吉は、その鬼神の背を見た. 涙を拭い、歯を噛みしめて叫ぶ。

「行くぞ! 生きて戻る!」

 追撃を一度遅らせるたび、一隊が山口を滑り出る。

 澄心の勇士が一人倒れるたび、信長の生を一刻引き延ばす。
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