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第六話 泥水を飲まされる「エース」と権力の酒杯
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三日後。深夜。
32階・特命準備室の灯りは、まだひとつも消えていなかった。
ここに漂う空気は、残業というより、最先端の秘密指令室に近い。
吉岡正全は、四枚並んだモニターから目を離さない。
彼が今やっているのは日常保守ではない。チームのための「侵入不能の砦システム」の設計だ。
生まれて初めて、最高のハードウェアを好きなだけ使って、自分の技術を極限まで叩きつけていい――そんな環境を与えられていた。
佐久間は、別の端末で、社内ネットの「特命準備室」に関する最新の動きを追っている。
定時はとうに過ぎている。だが、地下二階で流刑囚のように時間を潰していた日々に比べれば、32階で龍立のために働く今の方が、はるかに「生きている」実感があった。だから彼は自発的に残っている。
そのとき、扉が開いた。
龍立が、二つの封筒を手に入ってくる。
「お疲れさま。今日は『特殊任務手当』の支給日だ。」
彼は封筒を二つ取り出し、佐久間と吉岡の前に置いた。
「今やっているのは、『砦級ディフェンス構築』。最高リスクのストラテジー案件だ。海外の水準に合わせるなら、日当の特別手当は一人十万円だ。」
二人は言葉を失う。
震える指で封を切ると、中にはぴんと張った一万円札が十枚、きっちりと収まっていた。
「少、少爷……」
佐久間の喉が詰まる。「ぼ、僕たちは自分から残ってるだけで……それに、これ、何日ぶんもの給料に……」
龍立はドア枠に片肩を預け、静かな声で、しかし一分の揺るぎもなく告げる。
「君たちは『残業』しているんじゃない。」
「『戦っている』んだ。」
「俺のチームでは、リスクは必ず数値化する。
休息時間を捨て、専務からの報復リスクを背負っている。ならば君たちの価値は、基本給のレートで計算できる次元じゃない。」
「受け取れ。そして、ちゃんとやれ。
もし防御システムを一滴の漏れもなく仕上げたら、手当は十五万まで上げる。」
吉岡は、札をぎゅっと握りしめた。
金額の大小ではない。
これは、彼らの技術に対する評価であり、「リスクを負って創造する」ことに対する絶対的な敬意だ。
自分の専門が、初めて金という尺度でここまでまっすぐに認められた――その事実に、胸が震えた。
そのときだった。
エレベーターが、唐突に開いた。
ドン、と音がする。
一人の男がよろめくように飛び出してきて、そのまま方向も見ずに会議テーブルの角に激突した。立ち上がる間もなく、「おえっ」と喉の奥から吐き出す。
高級絨毯の上に広がったのは、真っ赤な液体だった。
「た、助け……て……」
男は床に倒れ込み、血と胃液にまみれた契約書を、まだ握り締めていた。
佐久間と吉岡が同時に駆け寄り、彼を抱き起こす。
「工藤!? 営業部のエース工藤じゃないか!」
佐久間は青ざめる。
工藤孝太、三十八歳。
澄原グループ、三年連続・全社売上ナンバーワン。
だが今の彼の顔色は紙のように白く、唇は紫色に乾いていた。全身から、鼻を刺すような酒精の匂いが立ち上る。
救急搬送ののち、医師からは即座に「危篤」の告知が出た。
「重度のアルコール中毒による急性胃出血です。」
医師は首を振る。
「今月に入って、もう三回目ですよ。これ以上飲ませたら、本当に命が危ない。」
佐久間は、その夜の行動予定を洗い直した。
工藤には、その日、絶対に落とせない接待が入っていた。相手はグループ最大の広告クライアント――大和田社長。
そして「死ぬ気で行け」と命じたのは、営業本部長・鬼瓦剛健。
過労死を勲章扱いし、接待を「戦術」と呼んで疑わない昭和の亡霊。
専務・龍雅が最も信頼する側近であり、澄原グループの腐りきった「業績至上主義」を体現する男だった。
その鬼瓦からの電話が、佐久間のスマホにかかってくる。
「おい? 工藤、死んだか?」
酒と狂気の混じった大声が、スピーカー越しに叩きつけられる。
「まだ死んでねぇなら、点滴抜いて這ってでも戻らせろ! 大和田社長、まだ飲み足りねえんだよ! 今夜契約取れなきゃ、あいつの家族ごと切腹だな!」
電話の向こうから、鬼瓦の下品な笑い声と、無責任な囃し立てる声、そして女のすすり泣きが入り混じって聞こえてくる。
龍立は、佐久間の手からスマホを取り上げた。
その瞳は、氷の色をしていた。
「どこだ。」
落ち着き払った声なのに、音がひとつひとつ氷塊のように叩き込まれる。
「は? お前、誰だよ? 俺はいま銀座の『黒川』だよ、黒川! 工藤のクズに這ってでも来いって伝え――」
プツン、と通話が切れる。
龍立は無造作にスマホを卓上へ投げ出した。
「吉岡、鬼瓦のこの三年間の『接待交際費』のデータを全部出せ。ゴルフ場の利用履歴から、個人的な会食まで、一円単位で。」
「佐久間、車を回してくれ。」
龍立はネクタイの結び目を整え、ジャケットを軽く引き下ろす。
「俺が代わりに、その酒を飲みに行く。」
銀座・高級料亭「黒川」。午前零時三十分。
個室は煙と酒と脂と、安い繁殖臭でむせ返っていた。
営業本部長・鬼瓦剛健。
ずんぐりした体型に、頭頂部はすっかり薄くなった中年男。その男が、今や悪魔じみた笑みで、工藤の若い部下の一人を指差している。
「ほら! 大和田社長のために、この一杯、飲み干せや!」
テーブルの上には、巨大なジョッキが載っていた。
中身はビールではない。ウイスキーと焼酎をごちゃ混ぜにし、大和田社長がさっき灰を落としたばかりの煙草の吸い殻まで沈んでいる。
女の子は震えながら、そのジョッキを見つめていた。涙が目の縁に溜まる。
「どうした? 社長の顔に泥塗る気か?」
鬼瓦の声色が急に冷たくなる。
「飲めねぇなら、さっさと営業部から消えろ。」
絶望を飲み込んだように、その子は手を伸ばそうとした。
ドン、と音。
障子が、凄まじい勢いで蹴り開けられた。
澄原龍立が、そこに立っていた。
その背後には、ハンディカメラと書類ケースを抱えた吉岡の姿。
「なんだてめぇは。」
鬼瓦がふらりと立ち上がる。「どこのガキだよ、礼儀知らずが。」
龍立は彼を一切見ない。
まっすぐに少女の前へ歩み寄り、ジョッキを取り上げ、卓の上に重く置いた。
「鬼瓦本部長。」
龍立は、一冊の分厚いファイルを取り出し、テーブルに叩きつけるように置く。
「内部監査の結果、過去三年間、あなたは『接待交際費』名目で四千万を計上している。
その中には、あなた個人のゴルフ会員権、マカオでのギャンブル資金、そして――大和田社長に贈った三百万の高級腕時計が含まれている。」
空気が、一瞬で凍り付いた。
大和田社長の酔いは、一気に吹き飛んだようだ。
ファイルと、自分の手首の時計とを交互に見て、顔色を変える。
「で、でたらめを言うな! これはビジネス上の必要経費で……」
鬼瓦が慌てふためく。「その情報は営業機密だ! お前に見る権利は――」
「これは、立派な商業賄賂であり、横領です。」
龍立は冷ややかに見下ろす。
「この明細をそのまま、大和田社長のコンプライアンス部門と、東京地検特捜部に送ったらどうなると思いますか。」
大和田社長は椅子を蹴るように立ち上がり、鬼瓦を指差した。
「わ、私とは関係ない! 全部、鬼瓦が勝手に……私は知らなかった!」
「では、黙って座っていてください。」
龍立はそのまま鬼瓦に向き直る。
そして、テーブルの上の、煙草の灰が沈んだジョッキを指先で軽く叩いた。
「工藤は、あなたの『業績』のために三度も吐血した。今も病院で必死に生きようとしている。」
「あなたは『根性論』が好きでしたね。」
「なら、飲んでください。」
龍立の声は、地獄の裁決のように冷たかった。
「これを一滴残らず飲み干すなら――この明細は、なかったことにする。」
「拒むなら、明日の朝には、あなたは警察署にいる。」
鬼瓦は、ジョッキとファイルを見比べる。
この一杯の汚れた液体と、紙束に並んだ勘定科目。それが、半生かけて築いた地位と名誉とを、すべて裁断する刃に変わることを、彼は本能で理解していた。
目の前の男は、鬼瓦がこれまで戦ってきたどの敵よりも冷酷で、そして規則の牙を使いこなしている。
やがて鬼瓦は、震える手でジョッキを掴む。
情けないほどの覚悟しか残っていない犬のように、目をつぶり、一気に喉へ流し込んだ。
「お、えぇええええ……!」
次の瞬間、彼は床に這いつくばり、胆汁が出るまで吐き続ける。
龍立は、泣きじゃくる若い部下を立たせる。
そして、その場にいる全員――狼狽する大和田社長も含めて――に向かって宣言した。
「今この瞬間から、澄原の受注はプロダクトで勝負する。」
「肝臓で勝負することはない。」
「社員に命を削らせて業績を稼ごうとする者は――全員、この末路だ。」
翌朝。
工藤は、特命準備室のソファの上で目を覚ました。
視界に入ってきたのは、テーブルに置かれた一通の封筒と、一冊のファイル。
封筒の中身は、大和田社長との、完全にクリーンな条件で締結された新契約書。
そこには贈答も、違法接待も、一切ない。純粋な交渉で勝ち取った成果だけが載っていた。
もう一通。
人事からの辞令。
特命準備室 メンバー:四名。
新たな仲間――
【チーフ・ネゴシエーション・オフィサー(CMO)】工藤孝太。
32階・特命準備室の灯りは、まだひとつも消えていなかった。
ここに漂う空気は、残業というより、最先端の秘密指令室に近い。
吉岡正全は、四枚並んだモニターから目を離さない。
彼が今やっているのは日常保守ではない。チームのための「侵入不能の砦システム」の設計だ。
生まれて初めて、最高のハードウェアを好きなだけ使って、自分の技術を極限まで叩きつけていい――そんな環境を与えられていた。
佐久間は、別の端末で、社内ネットの「特命準備室」に関する最新の動きを追っている。
定時はとうに過ぎている。だが、地下二階で流刑囚のように時間を潰していた日々に比べれば、32階で龍立のために働く今の方が、はるかに「生きている」実感があった。だから彼は自発的に残っている。
そのとき、扉が開いた。
龍立が、二つの封筒を手に入ってくる。
「お疲れさま。今日は『特殊任務手当』の支給日だ。」
彼は封筒を二つ取り出し、佐久間と吉岡の前に置いた。
「今やっているのは、『砦級ディフェンス構築』。最高リスクのストラテジー案件だ。海外の水準に合わせるなら、日当の特別手当は一人十万円だ。」
二人は言葉を失う。
震える指で封を切ると、中にはぴんと張った一万円札が十枚、きっちりと収まっていた。
「少、少爷……」
佐久間の喉が詰まる。「ぼ、僕たちは自分から残ってるだけで……それに、これ、何日ぶんもの給料に……」
龍立はドア枠に片肩を預け、静かな声で、しかし一分の揺るぎもなく告げる。
「君たちは『残業』しているんじゃない。」
「『戦っている』んだ。」
「俺のチームでは、リスクは必ず数値化する。
休息時間を捨て、専務からの報復リスクを背負っている。ならば君たちの価値は、基本給のレートで計算できる次元じゃない。」
「受け取れ。そして、ちゃんとやれ。
もし防御システムを一滴の漏れもなく仕上げたら、手当は十五万まで上げる。」
吉岡は、札をぎゅっと握りしめた。
金額の大小ではない。
これは、彼らの技術に対する評価であり、「リスクを負って創造する」ことに対する絶対的な敬意だ。
自分の専門が、初めて金という尺度でここまでまっすぐに認められた――その事実に、胸が震えた。
そのときだった。
エレベーターが、唐突に開いた。
ドン、と音がする。
一人の男がよろめくように飛び出してきて、そのまま方向も見ずに会議テーブルの角に激突した。立ち上がる間もなく、「おえっ」と喉の奥から吐き出す。
高級絨毯の上に広がったのは、真っ赤な液体だった。
「た、助け……て……」
男は床に倒れ込み、血と胃液にまみれた契約書を、まだ握り締めていた。
佐久間と吉岡が同時に駆け寄り、彼を抱き起こす。
「工藤!? 営業部のエース工藤じゃないか!」
佐久間は青ざめる。
工藤孝太、三十八歳。
澄原グループ、三年連続・全社売上ナンバーワン。
だが今の彼の顔色は紙のように白く、唇は紫色に乾いていた。全身から、鼻を刺すような酒精の匂いが立ち上る。
救急搬送ののち、医師からは即座に「危篤」の告知が出た。
「重度のアルコール中毒による急性胃出血です。」
医師は首を振る。
「今月に入って、もう三回目ですよ。これ以上飲ませたら、本当に命が危ない。」
佐久間は、その夜の行動予定を洗い直した。
工藤には、その日、絶対に落とせない接待が入っていた。相手はグループ最大の広告クライアント――大和田社長。
そして「死ぬ気で行け」と命じたのは、営業本部長・鬼瓦剛健。
過労死を勲章扱いし、接待を「戦術」と呼んで疑わない昭和の亡霊。
専務・龍雅が最も信頼する側近であり、澄原グループの腐りきった「業績至上主義」を体現する男だった。
その鬼瓦からの電話が、佐久間のスマホにかかってくる。
「おい? 工藤、死んだか?」
酒と狂気の混じった大声が、スピーカー越しに叩きつけられる。
「まだ死んでねぇなら、点滴抜いて這ってでも戻らせろ! 大和田社長、まだ飲み足りねえんだよ! 今夜契約取れなきゃ、あいつの家族ごと切腹だな!」
電話の向こうから、鬼瓦の下品な笑い声と、無責任な囃し立てる声、そして女のすすり泣きが入り混じって聞こえてくる。
龍立は、佐久間の手からスマホを取り上げた。
その瞳は、氷の色をしていた。
「どこだ。」
落ち着き払った声なのに、音がひとつひとつ氷塊のように叩き込まれる。
「は? お前、誰だよ? 俺はいま銀座の『黒川』だよ、黒川! 工藤のクズに這ってでも来いって伝え――」
プツン、と通話が切れる。
龍立は無造作にスマホを卓上へ投げ出した。
「吉岡、鬼瓦のこの三年間の『接待交際費』のデータを全部出せ。ゴルフ場の利用履歴から、個人的な会食まで、一円単位で。」
「佐久間、車を回してくれ。」
龍立はネクタイの結び目を整え、ジャケットを軽く引き下ろす。
「俺が代わりに、その酒を飲みに行く。」
銀座・高級料亭「黒川」。午前零時三十分。
個室は煙と酒と脂と、安い繁殖臭でむせ返っていた。
営業本部長・鬼瓦剛健。
ずんぐりした体型に、頭頂部はすっかり薄くなった中年男。その男が、今や悪魔じみた笑みで、工藤の若い部下の一人を指差している。
「ほら! 大和田社長のために、この一杯、飲み干せや!」
テーブルの上には、巨大なジョッキが載っていた。
中身はビールではない。ウイスキーと焼酎をごちゃ混ぜにし、大和田社長がさっき灰を落としたばかりの煙草の吸い殻まで沈んでいる。
女の子は震えながら、そのジョッキを見つめていた。涙が目の縁に溜まる。
「どうした? 社長の顔に泥塗る気か?」
鬼瓦の声色が急に冷たくなる。
「飲めねぇなら、さっさと営業部から消えろ。」
絶望を飲み込んだように、その子は手を伸ばそうとした。
ドン、と音。
障子が、凄まじい勢いで蹴り開けられた。
澄原龍立が、そこに立っていた。
その背後には、ハンディカメラと書類ケースを抱えた吉岡の姿。
「なんだてめぇは。」
鬼瓦がふらりと立ち上がる。「どこのガキだよ、礼儀知らずが。」
龍立は彼を一切見ない。
まっすぐに少女の前へ歩み寄り、ジョッキを取り上げ、卓の上に重く置いた。
「鬼瓦本部長。」
龍立は、一冊の分厚いファイルを取り出し、テーブルに叩きつけるように置く。
「内部監査の結果、過去三年間、あなたは『接待交際費』名目で四千万を計上している。
その中には、あなた個人のゴルフ会員権、マカオでのギャンブル資金、そして――大和田社長に贈った三百万の高級腕時計が含まれている。」
空気が、一瞬で凍り付いた。
大和田社長の酔いは、一気に吹き飛んだようだ。
ファイルと、自分の手首の時計とを交互に見て、顔色を変える。
「で、でたらめを言うな! これはビジネス上の必要経費で……」
鬼瓦が慌てふためく。「その情報は営業機密だ! お前に見る権利は――」
「これは、立派な商業賄賂であり、横領です。」
龍立は冷ややかに見下ろす。
「この明細をそのまま、大和田社長のコンプライアンス部門と、東京地検特捜部に送ったらどうなると思いますか。」
大和田社長は椅子を蹴るように立ち上がり、鬼瓦を指差した。
「わ、私とは関係ない! 全部、鬼瓦が勝手に……私は知らなかった!」
「では、黙って座っていてください。」
龍立はそのまま鬼瓦に向き直る。
そして、テーブルの上の、煙草の灰が沈んだジョッキを指先で軽く叩いた。
「工藤は、あなたの『業績』のために三度も吐血した。今も病院で必死に生きようとしている。」
「あなたは『根性論』が好きでしたね。」
「なら、飲んでください。」
龍立の声は、地獄の裁決のように冷たかった。
「これを一滴残らず飲み干すなら――この明細は、なかったことにする。」
「拒むなら、明日の朝には、あなたは警察署にいる。」
鬼瓦は、ジョッキとファイルを見比べる。
この一杯の汚れた液体と、紙束に並んだ勘定科目。それが、半生かけて築いた地位と名誉とを、すべて裁断する刃に変わることを、彼は本能で理解していた。
目の前の男は、鬼瓦がこれまで戦ってきたどの敵よりも冷酷で、そして規則の牙を使いこなしている。
やがて鬼瓦は、震える手でジョッキを掴む。
情けないほどの覚悟しか残っていない犬のように、目をつぶり、一気に喉へ流し込んだ。
「お、えぇええええ……!」
次の瞬間、彼は床に這いつくばり、胆汁が出るまで吐き続ける。
龍立は、泣きじゃくる若い部下を立たせる。
そして、その場にいる全員――狼狽する大和田社長も含めて――に向かって宣言した。
「今この瞬間から、澄原の受注はプロダクトで勝負する。」
「肝臓で勝負することはない。」
「社員に命を削らせて業績を稼ごうとする者は――全員、この末路だ。」
翌朝。
工藤は、特命準備室のソファの上で目を覚ました。
視界に入ってきたのは、テーブルに置かれた一通の封筒と、一冊のファイル。
封筒の中身は、大和田社長との、完全にクリーンな条件で締結された新契約書。
そこには贈答も、違法接待も、一切ない。純粋な交渉で勝ち取った成果だけが載っていた。
もう一通。
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特命準備室 メンバー:四名。
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