カナダに追放された財閥の三男が帰国しました:父が「搾取は伝統だ」と言うので、「あらゆる手段」を使ってこの1兆円規模のブラック巨艦を完全ホワイ

RyuChoukan

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第七話 名前を奪われた「影」

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     一週間後。

     澄原グループ本社ビル一階のロビー。

巨大なスクリーンには、最新の企業イメージCM「光の翼」が、繰り返し流されている。

映像は美しく、コンセプトも斬新で、デザイン業界からは絶賛の声が上がっていた。

発表会場のステージ上では、クリエイティブ・ディレクター、西園寺雅人が、フラッシュの光を浴びながら陶然としている。

イタリア製のハンドメイドスーツに、エルメスのシルクスカーフ。

彼はマイクの前で得意げに語る。

「ええ、このコンセプトは、ある深夜、私の夢の中に降りてきたものです。私のインスピレーションの結晶と言っていいでしょう。」

そのステージの陰。

分厚い眼鏡をかけ、スケッチブックを胸に抱えた細身の女性が、こっそりと涙をこぼしていた。

里中静香、三十歳。宣伝部所属のデザイナー。

あの映像の一枚一枚、一秒ごとの光の線を、三ヶ月間、睡眠時間を削って描き続けたのは、ほかならぬ彼女だった。

それなのに、今スポットライトを浴びているのは、スライドのめくり方さえろくに知らない男だ。

「泣いているのは、なぜ。」

淡いインクの匂いがする白いハンカチが、ふいっと差し出される。

龍立が、彼女の横に立っていた。視線はステージ上の西園寺に向けられている。

「――あれは、君の線だ。一本一本に、里中さんの鼓動が乗っている。」

里中はびくっとして、慌てて涙を拭う。

「い、いえ……西園寺総監督のご指導があってこそで……私は、補佐を……」

「補佐か。」

龍立は、彼女のスケッチブックの角を指でなぞる。触れた部分は、擦り切れて白くなっていた。

「Photoshopも開けない男に、この光と陰が描けるか? 君が描き、西園寺がサインする。これは澄原の“公然の秘密”だ。」

「でも……」

里中はうつむく。

「総監督は言いました。『こんな陰気で、社交性もないお前には名前なんて必要ない。俺の影になれたことを光栄と思え』って。

もし逆らえば、業界から消されるって……」

「名前を奪われた人間に、未来はない。」

龍立は、スケッチブックを彼女に返す。

「取り返す気は、あるか。」

里中は言葉を失う。

ほんの一瞬だけ、瞳の奥に強い光が宿る。だが長年にわたる「職場洗脳」が、すぐにその火を押し殺す。声にならない。

「正面からスキャンダルをぶつけるのは無理です。」

横にいた佐久間が、小声で言う。

「西園寺の広告はあまりにも成功しすぎました。今このタイミングで盗作疑惑を出せば、株価は確実に乱高下します。社長との『九十日不介入』の約束に、抵触しかねません。」

「誰が『正面から暴露する』と言った?」

龍立の口元に、獲物を追い込む狩人のような笑みが浮かぶ。

「もっと大きくて、逃げようのない“栄誉”を与える。」

三日後。

特命準備室名義で、新たな超大型プロジェクトが発表された。

「グローバル・ブランド・リブート計画」。

予算、上限なし。

貪欲なクリエイティブ・ディレクター、西園寺が、これに飛びつかないはずがない。

彼は自ら総監督を買って出て、「三日で初稿を出してみせますよ」と豪語した。

そして踵を返すや否や、すべての作業を里中に丸投げし、耳元で囁く。

「今度しくじったら、本当にクビだからな。」

里中は、龍立の段取りのもと、昼夜ぶっ通しで作業にかかった。

だが、今度の彼女は一人ではない。

吉岡が隣に座り、モニターを覗き込みながら言う。

「里中さん。少爷の指示どおり、あなたのオリジナルデータのすべてに、ちょっとした“隠し味”を入れておきます。」

吉岡はキーボードを叩きながら、ニヤリと笑った。

――金曜日。グループ全体をつないだグローバルオンライン発表会。

西園寺は巨大なLEDスクリーンの前に立ち、上機嫌だった。

今回の成功で、自分の椅子は盤石になる――そう確信して。

「それではご覧ください。私の最新作。時代を一歩先行くコンセプトです。」

映像がクライマックスに差し掛かり、西園寺が解説にますます熱を帯びたそのとき。

画面が、ざらりとノイズを走らせた。

吉岡が埋め込んだ「時限式デジタルウォーターマーク」が、作動したのだ。

滑らかに流れていた光の線が、一つひとつばらけ、再配置されていく。

光の粒子が寄り集まり、再び像を結ぶ。

そこに浮かび上がったのは、誰が見てもはっきり読める文字列だった。

【Designed by Satonaka(里中デザイン)】

スクリーンいっぱいに、その文字が、はっきりと浮かび上がる。

続けて、画面に次々とメールのスクリーンショットが映し出される。

【西園寺:お前みたいな陰気な女は、俺の影やってりゃいいんだよ。さっさと描け。──メール抜粋 2025/11/02】

【西園寺:このボーナスは俺の取り分だ。お前は黙ってろ。嫌ならこの業界から消してやる。──メール抜粋 2025/11/10】

会場全体が、完全な静寂に包まれた。

巨大スクリーンには、西園寺の罵倒メールと、里中の名前が交互に映し出される。それは一通ごとに、彼の頬を打つ平手打ちのようでもあった。

「こ、これは……! システム障害だ! 不具合だ!」

西園寺はうろたえ、画面を体で隠そうとする。

だが足をカーペットに躓き、そのまま派手に転倒した。

龍立は、呆然としている里中の肩を、そっと押す。

「行ってこい。」

「君の名前に向けられた拍手を、受け取りに。」

里中は震えながら、一歩を踏み出す。

人生で初めて、スポットライトの中へ。

西園寺は最終的に、監査部とセキュリティ部門によって会場から連れ出された。

彼のキャリアと虚飾は、たった一度のライブ配信で粉々に砕け散る。

特命準備室 メンバー:五名。

新たな仲間――

【チーフ・ブランド・オフィサー(CBO)】里中静香。
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