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第三十五話 カナダから来た新社長
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時間:翌日 午前9:00
場所:GIGA互娯・全社員集会
会社は買収され、ゲームは発売延期。
社員たちは不安に駆られながら、会議室の椅子に腰掛けていた。
搾取されることには慣れている。だが新しいオーナーが、その上を行く鬼かもしれない――そう考えると、背筋が冷えた。
壇上に、澄原龍立が立つ。
「みなさん、初めまして。澄心ホールディングスの澄原龍立です。
そして、今日からこの会社のオーナーでもあります」
「最初に、三つのことを宣言します」
「一つ。残業代の支払いだ。
過去三年間、御堂のクソ野郎が“義務だ”とか言って踏み倒してきた残業代――
現在、財務部で精算中だ。来週、三倍にして支給する」
ざわめきが広がる。
夢か現実か確かめるように、自分の腕をつねる者もいた。
「二つ。クレジット表記の権利。
これからのゲームでは、
誰がゲームシステムとステージを設計したのか、
誰がコードを書いたのか、
誰がグラフィックを描いたのか――
その人間の名前を、スタッフロールにきちんと載せる。
マネジメント層の“名義貸し”は禁止だ」
「三つ。
本当にゲームを分かっている、新しい社長を紹介しよう」
龍立が半歩下がると、会場の扉が開いた。
高級感のあるオーダーメイドスーツを着込みながらも、ノーネクタイで、エリートらしさと肩の力の抜けた雰囲気を同時にまとったアジア系の男が姿を現した。
三十代半ばほど。
眼光は鋭く、歩くたびに空気が押し分けられるような存在感がある。
「皆さん、こんにちは。劉立(リウ・リー)と申します」
男の日本語は、わずかに北米訛りが混じっていたが、流暢そのものだった。
「私はカナダ国籍の華僑で、ここのオーナーの友人です。
これまで、Gameloft、ユービーアイソフト・モントリオール、そしてNaughty Dogで、コアゲームデザイナー兼プロデューサーを務めてきました」
その場が一気にざわつく。
この三社の名前は、ゲーム業界では誰でも知っている。
世界の頂点クラスのゲームスタジオだ。
劉立は前置きを切り上げ、すぐにプロジェクターを起動した。
スクリーンには、『幻星神域』のコードリポジトリとアセット管理画面が映し出される。
劉立は、赤字ハイライトされたコードの一部を指し示す。
「昨夜、一晩かけて、皆さんのコードとアートアセットを見ました」
「このコアアーキテクチャを書いたのは誰ですか?」
ICUから一命を取り留め、病室からビデオ会議で繋がっている高橋拓海が、弱々しく手を上げた。
「わ、私です…… 設計が拙くて、ご迷惑を……」
「いいえ、素晴らしい出来です」
劉立の目が一気に輝いた。
「この無茶苦茶な仕様変更の嵐の中で、コアのロジックをここまで安定させているのは見事だ。残念なのは、マネジメントの無能さのせいで、あなたの才覚が“創ること”ではなく、“外野の思いつき”が生んだバグの尻拭いに費やされていることだ」
「それこそ、技術者に対する最大の冒涜ですよ」
次に、彼は一枚のボツ原画を映し出した。
佐藤健がこっそり描いた、オリジナルキャラクターとステージ案だ。
「これは、誰の絵ですか?」
佐藤は震える膝を叱咤しながら立ち上がる。
「……ぼ、僕です…… 御堂社長に、こんなダサいの捨てろって…… パクったほうがマシだと……」
「あのクソ野郎に、何が分かる」
劉立は即座に吐き捨てた。
「この、東洋の水墨画のような質感と、サイバーパンクの意匠を融合させたデザイン――
こういう“東洋の神秘”こそ、欧米プレイヤーが一番飢えているものだ!」
彼は勢いよくノートPCを閉じ、フロアを見渡す。
「聞いてください。私はゲームプランナー出身です。
良いアイデアが、分かっていないやつの口出しで潰されるのが、どれほど苦痛かを知っている」
「今日から、“パクリ指令”は全面廃止です」
「私が北米で叩き上げてきた、最先端の開発パイプラインを導入します。
同時に、澄原龍立氏の傘下である澄心アニメーション――天野愛チームが、カットシーンとアートディレクションを全面的に担当します。
これは、業界史上最も豪華なコラボレーションになるでしょう」
「佐藤、君のオリジナル企画を復活させる。
君がメインプランナーだ。
これまでの古参連中は、君の指示に従ってもらう」
「社員の給与水準は、国内トップクラスのゲーム会社の“二倍”に引き上げる。
ボーナスも倍増だ」
「我々が作るのは、金を騙し取るためのゴミではない。
日本, 中国, 韓国, そしてあのうるさい欧米のプレイヤーでさえ唸らせる――
世界級のAAAタイトルだ」
「これから全員、家に帰って寝てください。
二週間、フル有給の休暇です。
これからは残業禁止。効率第一。
自分の身体をちゃんと整えないで、どうやって世界を獲りに行くんですか?」
場所:GIGA互娯・全社員集会
会社は買収され、ゲームは発売延期。
社員たちは不安に駆られながら、会議室の椅子に腰掛けていた。
搾取されることには慣れている。だが新しいオーナーが、その上を行く鬼かもしれない――そう考えると、背筋が冷えた。
壇上に、澄原龍立が立つ。
「みなさん、初めまして。澄心ホールディングスの澄原龍立です。
そして、今日からこの会社のオーナーでもあります」
「最初に、三つのことを宣言します」
「一つ。残業代の支払いだ。
過去三年間、御堂のクソ野郎が“義務だ”とか言って踏み倒してきた残業代――
現在、財務部で精算中だ。来週、三倍にして支給する」
ざわめきが広がる。
夢か現実か確かめるように、自分の腕をつねる者もいた。
「二つ。クレジット表記の権利。
これからのゲームでは、
誰がゲームシステムとステージを設計したのか、
誰がコードを書いたのか、
誰がグラフィックを描いたのか――
その人間の名前を、スタッフロールにきちんと載せる。
マネジメント層の“名義貸し”は禁止だ」
「三つ。
本当にゲームを分かっている、新しい社長を紹介しよう」
龍立が半歩下がると、会場の扉が開いた。
高級感のあるオーダーメイドスーツを着込みながらも、ノーネクタイで、エリートらしさと肩の力の抜けた雰囲気を同時にまとったアジア系の男が姿を現した。
三十代半ばほど。
眼光は鋭く、歩くたびに空気が押し分けられるような存在感がある。
「皆さん、こんにちは。劉立(リウ・リー)と申します」
男の日本語は、わずかに北米訛りが混じっていたが、流暢そのものだった。
「私はカナダ国籍の華僑で、ここのオーナーの友人です。
これまで、Gameloft、ユービーアイソフト・モントリオール、そしてNaughty Dogで、コアゲームデザイナー兼プロデューサーを務めてきました」
その場が一気にざわつく。
この三社の名前は、ゲーム業界では誰でも知っている。
世界の頂点クラスのゲームスタジオだ。
劉立は前置きを切り上げ、すぐにプロジェクターを起動した。
スクリーンには、『幻星神域』のコードリポジトリとアセット管理画面が映し出される。
劉立は、赤字ハイライトされたコードの一部を指し示す。
「昨夜、一晩かけて、皆さんのコードとアートアセットを見ました」
「このコアアーキテクチャを書いたのは誰ですか?」
ICUから一命を取り留め、病室からビデオ会議で繋がっている高橋拓海が、弱々しく手を上げた。
「わ、私です…… 設計が拙くて、ご迷惑を……」
「いいえ、素晴らしい出来です」
劉立の目が一気に輝いた。
「この無茶苦茶な仕様変更の嵐の中で、コアのロジックをここまで安定させているのは見事だ。残念なのは、マネジメントの無能さのせいで、あなたの才覚が“創ること”ではなく、“外野の思いつき”が生んだバグの尻拭いに費やされていることだ」
「それこそ、技術者に対する最大の冒涜ですよ」
次に、彼は一枚のボツ原画を映し出した。
佐藤健がこっそり描いた、オリジナルキャラクターとステージ案だ。
「これは、誰の絵ですか?」
佐藤は震える膝を叱咤しながら立ち上がる。
「……ぼ、僕です…… 御堂社長に、こんなダサいの捨てろって…… パクったほうがマシだと……」
「あのクソ野郎に、何が分かる」
劉立は即座に吐き捨てた。
「この、東洋の水墨画のような質感と、サイバーパンクの意匠を融合させたデザイン――
こういう“東洋の神秘”こそ、欧米プレイヤーが一番飢えているものだ!」
彼は勢いよくノートPCを閉じ、フロアを見渡す。
「聞いてください。私はゲームプランナー出身です。
良いアイデアが、分かっていないやつの口出しで潰されるのが、どれほど苦痛かを知っている」
「今日から、“パクリ指令”は全面廃止です」
「私が北米で叩き上げてきた、最先端の開発パイプラインを導入します。
同時に、澄原龍立氏の傘下である澄心アニメーション――天野愛チームが、カットシーンとアートディレクションを全面的に担当します。
これは、業界史上最も豪華なコラボレーションになるでしょう」
「佐藤、君のオリジナル企画を復活させる。
君がメインプランナーだ。
これまでの古参連中は、君の指示に従ってもらう」
「社員の給与水準は、国内トップクラスのゲーム会社の“二倍”に引き上げる。
ボーナスも倍増だ」
「我々が作るのは、金を騙し取るためのゴミではない。
日本, 中国, 韓国, そしてあのうるさい欧米のプレイヤーでさえ唸らせる――
世界級のAAAタイトルだ」
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