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第四十話 皇帝の退位
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時間:バーチャルライブ終盤
場所:仮想世界 & 現実世界・録音ブース
ライブは最後の一曲に入っていた。同時接続は、すでに一億人を突破している。
画面の中で、バーチャル歌姫「Zero」は、ゆっくりと仮面に手をかけた。仮面が外れ、彼女の身体は光の粒となって空へと溶けていく。
映像が切り替わる。現実世界――録音スタジオ。汗で髪の張りついた素顔の凛が、マイクを握ったままカメラの前に立っている。もう、視線をそらさない。三年間閉じ込められていた怯えは消え、代わりに、これまで一度も持てなかった「覚悟」が宿っていた。
「はじめまして。Zeroの仮面の下にいた人間です」
「小鳥遊 凛です」
ネットは、文字通り爆発した。真実は一瞬で明るみに出る。星光エンターテインメントの嘘八百は、世界中の視線の前で音を立てて崩れ去った。
その頃――東京地検特捜部の捜査員たちが、星光エンターテインメント本社ビルに突入していた。ブルーホエール・キャピタルの情報網が、九条による大規模な脱税と、未成年タレントへの接待強要の証拠をすでにすべて押さえていたのだ。
ニュース番組の速報に、「芸能界の皇帝」と呼ばれた九条 霸が、手錠をかけられ、警察車両へ押し込まれていく映像が流れる。彼の築き上げた帝国は、たった一晩で瓦解した。
……半年後。
場所:東京ドーム
これは、凛の復帰後、初のリアルコンサートだった。五万枚のチケットは、三秒で完売した。
ステージのライトが一斉に灯る。凛は、自分のために仕立てられた天色のステージ衣装を身にまとい、ゆっくりとリフトでせり上がってくる。
眼下には、海のような光景が広がっていた。それは“五万本の天色のペンライト”による光の海。五万人が、彼女のためだけに灯した色。
凛はステージ中央に立ち、客席をゆっくりと見渡した。最前列の、特別VIPエリア。その中央に、まるで王族席のように二つの席がぽっかりと空けられている。周囲の席と一列分の距離を置いているせいで、逆に異様なほど目立っていた。
左側の席には、澄原龍立が座っている。穏やかな微笑をたたえ、静かに手を叩いていた。
右側の席には――あの作業着姿の男が座っていた。いつものボロボロの作業服のまま、その手には、三年前から使い続けている古びたペンライトが握られている。
光量は、他の最新型ペンライトに比べれば、心許ないほど弱い。だが、彼はその小さな光を、これまで一度も手放したことがない。
東京ドームの、最も良い席で。自分が守り続けてきた女の子が、再び光の中に帰ってきた姿を、この目で見ている。それだけで、男の目からはとめどなく涙があふれ続けていた。厚いタコだらけの手の甲で、何度も何度も拭っても、追いつかない。
――夢にも思わなかった。自分がいつか、この場所の、この席から、彼女のステージを見る日が来るなんて。
凛はマイクを手に取り、しかしすぐに歌い出さなかった。代わりに、正面の二つの席に向かって、ゆっくりと、深く、そして長いお辞儀をした。
顔を上げたとき、彼女の頬には涙が浮かんでいたが、口元には、三年前とはまったく違う笑みがあった。心の底からあふれ出た、本物の笑顔。
「みんな――ただいま」
音楽が鳴り始める。今度は、替え玉も、影武者もいない。暗闇の中、ただ一本のスポットライトが、本当に愛されるべき人間だけを照らし出していた。
場所:仮想世界 & 現実世界・録音ブース
ライブは最後の一曲に入っていた。同時接続は、すでに一億人を突破している。
画面の中で、バーチャル歌姫「Zero」は、ゆっくりと仮面に手をかけた。仮面が外れ、彼女の身体は光の粒となって空へと溶けていく。
映像が切り替わる。現実世界――録音スタジオ。汗で髪の張りついた素顔の凛が、マイクを握ったままカメラの前に立っている。もう、視線をそらさない。三年間閉じ込められていた怯えは消え、代わりに、これまで一度も持てなかった「覚悟」が宿っていた。
「はじめまして。Zeroの仮面の下にいた人間です」
「小鳥遊 凛です」
ネットは、文字通り爆発した。真実は一瞬で明るみに出る。星光エンターテインメントの嘘八百は、世界中の視線の前で音を立てて崩れ去った。
その頃――東京地検特捜部の捜査員たちが、星光エンターテインメント本社ビルに突入していた。ブルーホエール・キャピタルの情報網が、九条による大規模な脱税と、未成年タレントへの接待強要の証拠をすでにすべて押さえていたのだ。
ニュース番組の速報に、「芸能界の皇帝」と呼ばれた九条 霸が、手錠をかけられ、警察車両へ押し込まれていく映像が流れる。彼の築き上げた帝国は、たった一晩で瓦解した。
……半年後。
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これは、凛の復帰後、初のリアルコンサートだった。五万枚のチケットは、三秒で完売した。
ステージのライトが一斉に灯る。凛は、自分のために仕立てられた天色のステージ衣装を身にまとい、ゆっくりとリフトでせり上がってくる。
眼下には、海のような光景が広がっていた。それは“五万本の天色のペンライト”による光の海。五万人が、彼女のためだけに灯した色。
凛はステージ中央に立ち、客席をゆっくりと見渡した。最前列の、特別VIPエリア。その中央に、まるで王族席のように二つの席がぽっかりと空けられている。周囲の席と一列分の距離を置いているせいで、逆に異様なほど目立っていた。
左側の席には、澄原龍立が座っている。穏やかな微笑をたたえ、静かに手を叩いていた。
右側の席には――あの作業着姿の男が座っていた。いつものボロボロの作業服のまま、その手には、三年前から使い続けている古びたペンライトが握られている。
光量は、他の最新型ペンライトに比べれば、心許ないほど弱い。だが、彼はその小さな光を、これまで一度も手放したことがない。
東京ドームの、最も良い席で。自分が守り続けてきた女の子が、再び光の中に帰ってきた姿を、この目で見ている。それだけで、男の目からはとめどなく涙があふれ続けていた。厚いタコだらけの手の甲で、何度も何度も拭っても、追いつかない。
――夢にも思わなかった。自分がいつか、この場所の、この席から、彼女のステージを見る日が来るなんて。
凛はマイクを手に取り、しかしすぐに歌い出さなかった。代わりに、正面の二つの席に向かって、ゆっくりと、深く、そして長いお辞儀をした。
顔を上げたとき、彼女の頬には涙が浮かんでいたが、口元には、三年前とはまったく違う笑みがあった。心の底からあふれ出た、本物の笑顔。
「みんな――ただいま」
音楽が鳴り始める。今度は、替え玉も、影武者もいない。暗闇の中、ただ一本のスポットライトが、本当に愛されるべき人間だけを照らし出していた。
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