カナダに追放された財閥の三男が帰国しました:父が「搾取は伝統だ」と言うので、「あらゆる手段」を使ってこの1兆円規模のブラック巨艦を完全ホワイ

RyuChoukan

文字の大きさ
41 / 161

第四十一話 離島からの警鐘

しおりを挟む
 時間:独立起業一年目(凛の復帰ライブから二ヶ月後)

 場所:伊豆諸島・八丈島(東京から287kmの離島)

狂ったような暴風が、海に浮かぶこの孤島を、鬼の泣き声みたいに引き裂いていた。台風「海神(トリトン)」の進路ど真ん中。

澄原龍立は、いつもの東京の暖かいCEOオフィスにはいない。全身ずぶ濡れになった黒いレインコートのフードを深くかぶり、ボロボロの漁港の岸壁に立っていた。彼が視察しているのは、澄心物流がようやく開通させたばかりの「離島生活物資ライン」だった。

「社長! 風速四十メートル超えてます!」

吉岡俊介は、風に声をさらわれないよう喉が裂けるほど叫ぶ。

「こんな天候、ヘリどころか、普通のフェリーも全部欠航ですって! 俺たち、完全に足止めですよ!」

龍立が顔の雨をぬぐい、何か言おうとしたその時――反対側の桟橋から、悲鳴混じりの騒ぎが飛んできた。

「誰か来てくれ! 大介のおっちゃんが倒れた!」

「うそだろ……血、吐いてる!!」

真っ黒に日焼けした漁師たちが、簡易担架に乗せた中年男を抱えて、豪雨の中を駆けてくる。担架の上の男は、顔面が紫色に変色し、両手で胸をつかみ、獣みたいなうめき声をあげていた。

「急げ! 村の診療所だ! あの“変人医者”を呼べ!」

龍立は、ほとんど反射で走り出していた。



村立簡易診療所。

それは、風が吹けばすきま風どころか雨も入ってくるような、小さな平屋にすぎなかった。台風のせいでとっくに停電しており、部屋の中は、非常用ライトの白い光だけが、頼りなく揺れている。

「仰向けにして! 動かすな!」

ボサボサの髪、伸び放題の無精ひげ。黄ばんだ白衣にビーチサンダルという、医者らしからぬ出で立ちの男が飛び出してきた。南方 仁(みなかた・じん)、四十歳。彼は聴診器もなしに、耳を男の胸にぴたりと当てる。三秒。顔を上げたとき、その目は刃物のように鋭くなっていた。

「急性大動脈解離。スタンフォードB型だ」



看護師が半泣きで叫ぶ。

「先生、降圧剤が……もう切れてます! 先週の補給船、台風で来なかったから……。それに、この島にはCTも、血管造影の設備も……手術なんて、とても……!」

「CTがないなら、手探りでやるしかない。薬がないなら、物理的に血圧を落とす」

南方仁の声は、あまりに冷静で、逆に怖かった。彼は引き出しの奥から、医療用ですらない、消毒しただけの工作用カッターブレードを取り出す。

「押さえろ。死なせたくなければ、絶対に動かすな」

龍立は思わずスマホを取り出し、懐中電灯のアプリを最大まで明るくして、手術台に向けた。

――そこから先の十数分で、龍立は「神業」という言葉が安っぽく感じられるものを目撃することになる。

揺れる非常灯と、スマホの白い光。その中で、南方仁の指先は、まるで死神が弾くピアノの鍵盤のように、迷いなく動いた。画像装置など一切ない状況で、彼は指の感触だけを頼りに、股動脈を探り当て、切開し、カテーテルを挿入し、バルーンで血流を一時遮断する。人体構造に対するその「掌握」は、見ているだけで頭皮がしびれるほどだった。

「血圧下降。破綻部、いったん封じた」

南方仁は、汗まみれの白衣のまま床に座り込み、ポケットから安物の焼酎のボトルを取り出し、喉に流し込んだ。

「命は拾った。だが――このまま大病院に転送して根治手術をしなけりゃ、三日は持たん」

龍立は、この男をまじまじと見つめる。

「このレベルの“ブラインド操作”ができるのは、日本中で五人もいない。あんた……東都大学附属病院時代、『マジシャン』と呼ばれた心臓外科のエース――南方仁教授だな?」

南方仁は、顔を上げ、自嘲気味に笑った。

「教授? そんな肩書きはもう消えたよ。今の俺は、医師会から追放された流刑囚さ。このボロ島で漁師たちの命をつないでるだけのな」

「なぜここに?」

龍立は問う。「その腕がありながら、どうしてこんな場所に落とされた?」

南方仁は、焼酎の瓶を強く握りしめ、関節が真っ白になるほど力を込めた。

「俺が、“空気が読めない”医者だったからさ」

「三年前――財前院長は、日本医師会会長選挙の票を集めるために、国産ステントグラフト『ゼウス(Zeus)』を開発した。従来の開胸手術の代わりに、胸部大動脈瘤に対してTEVAR(胸部大動脈ステントグラフト内挿術)を前面に押し出して、“国産最先端医療”という看板を取りたかった」

「俺は、その臨床試験の責任者だった。だが、『ゼウス』の形状記憶合金は、高度に石灰化し、ねじれた血管内では金属疲労で折損し、最悪、大動脈を内側から突き破るリスクが高いとわかった。だから、適合証明書にサインを拒否した」

「財前は欠陥を隠すためにデータを書き換え、逆に俺がリベートを受け取って医療事故を起こしたとでっち上げ、病院からたたき出した」

その時だった。龍立のプライベート用スマホが鳴る。画面に表示された名前は――「澄原 澪」。

「姉さん? どうした」

スピーカー越しに聞こえたのは、悲鳴のような泣き声と、病院のアラームの騒音だった。

『三弟(さんてい)……早く帰ってきて……。お母さんが……検査で巨大な胸部大動脈瘤が見つかったの……!』

『財前院長が“明日の朝一で手術しないと危ない”って……。お父さん、もう同意書にサインしちゃった……!』

『それで財前が言うの。“最先端の国産技術で、世界で一番いい治療を”って……お母さんに使うのは――“ゼウス・ステント”だって!!』

轟音のような雷鳴が、窓ガラスを震わせた。龍立の手から、スマホが滑り落ちそうになる。

床に座っていた南方仁が、「ゼウス」という単語を聞いた瞬間、飛び上がるように立ち上がり、握っていた瓶を床に叩きつけた。

「今なんて言った?! お前の母親に、ゼウスを入れるだと!?」

南方仁は龍立の胸ぐらをつかみ、血走った目で詰め寄る。

「お母さんは何歳だ! 血管の状態は!」

「六十二歳……。血管壁が生まれつき脆い家系だ」

「狂ってる!! 自殺行為だ!!」

南方仁の怒号が、雷鳴をかき消した。

「ゼウスが一番やっちゃいけないのが、そのタイプの薄くてねじれた血管だ! 俺が署名を拒否した臨床シミュレーションの“ハイリスクモデル”――まさに、その症例を想定したパターンだったんだぞ!!」

「ステントを展開した瞬間、あの馬鹿みたいな張力で、お前の母親の大動脈は確実に裂ける! あれは手術じゃない。公開処刑だ!」

龍立は通話を切り、窓の外の暴風雨をにらみつけた。瞳に宿る殺気は、台風よりもなお凶暴だった。

「吉岡!」

龍立は叫ぶ。

「澄心物流の管制センターに回線つなげ! 『ポセイドン号』を出せ! 東京湾をひっくり返してでもいい。一時間以内に、この島を出る!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?

嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】  ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。  見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。  大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!  神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。 「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】全60話 完結しました。読者の皆様ありがとうございます! 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

処理中です...