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第四十五話 100点のための代償
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時間:GIGAエンターテインメント『ファントム・スター』第1回オフライン・カーニバル当日
場所:東京・秋葉原・UDX広場
UDXの広場は、人、人、人――。数千人の若いプレイヤーで埋め尽くされ、頭上には巨大なホログラムスクリーン。そこには、佐藤健が設計した最新レイドダンジョンの映像が映し出され、ギミックが決まるたびに、地鳴りのような歓声が上がっていた。
澄原龍立は、カジュアルなジャケット姿で、銀髪の白人の老教授と並んで会場を歩いていた。
「龍立、君のゲーム会社は本当に素晴らしい」
老教授は流暢な英語で言う。「トロント大学にいた頃から、私はずっと“この青年は世界を変える”と思っていた。だが、まさか本当にここまでやってのけるとはね」
「ジェームズ教授、買いかぶりすぎですよ」龍立は微笑み、肩をすくめる。「わざわざカナダからお呼び立てしてしまって……」
そのときだった。人混みの端の方から、空気を裂くような悲鳴が響いた。
「誰か! 飛び降りるぞ!!」「子どもだ! 四階のテラスの手すりの外に!」
歓声が一瞬で凍りつく。全員が一斉にビルの四階を見上げた。ガラスの手すりの外側――。名門私立中学の制服を着た、痩せた少年が、今にも落ちそうな体勢で縁にまたがっている。手には、ぐしゃぐしゃになるまで握りしめられた答案用紙。頬を涙が伝い、目は空洞のように虚ろだった。
「満点じゃなかったら……生きてる価値なんてない……」
少年はかすれた声でつぶやく。だが、死を前にしたその独り言は、静まり返った空気の中で、残酷なほど鮮明に響いた。「僕はゴミだ……。母さんのお金を無駄にしてる、ゴミなんだ……」
警備員たちは近づけない。少しでも動けば、少年は本当に手を離しそうだった。龍立の目が細くなる。彼はジェームズ教授にジャケットを預け、豹のような速度でビルの側面へと消えた。
◇
屋上に吹きつける風が、悲鳴のように鳴る。少年は目を閉じ、指を少しずつ離していく。
「ごめんなさい、母さん……」
体が前へと傾いた、その瞬間――。鉄の鉤のように強く、しかし決して千切れない掌が、その手首を掴んだ。
「――捕まえた」
龍立は半身を手すりの外へ乗り出し、額の血管が浮き上がるほど力を込めて、少年の体を引き戻す。二人は、そのまま避難通路の床に、ごろりと転がり込んだ。
少年は安堵するどころか、崩れ落ちるように座り込み、風にさらわれていく答案用紙を見送って、胸の奥から引き裂かれるような叫び声をあげた。
「ぼ、僕の……答案が……! 99点だったのに……。もう……全部終わりだ……!」
足元に、紙切れが舞い落ちてきた。龍立はそれを拾い、目を落とす。――数学 99点。
「99点で死ぬのか?」龍立は眉をひそめた。「誰に、そんなことを教わった?」
少年はびくりと身をすくめると、無意識に袖を握りしめて引き寄せた。龍立はそっと少年の袖をつかみ、ためらいなく引き上げた。
思わず息をのむ。痩せこけた腕には、青紫の指の跡がびっしりと残っていた。皮膚の一部は爪でえぐられたように割れ、血がにじみ、かさぶたになっている。
「僕……“東大進学塾(Todai Juku)”の特進クラスに通ってます……」
少年は嗚咽まじりに言う。「黒川理事長が言うんです。“一点足りないのは、親に対する裏切りだ。落ちこぼれは、社会の不良品だ”って……」
「これは“罰”なんです。トイレで反省しても足りないと、“反省室”に閉じ込められて……。僕……。小数点を一つ、打ち間違えただけで……」
彼の全身は、百億円の企業買収を前にしたときよりも、ずっと激しく震えていた。
龍立は、99点の答案と、目の前の少年を交互に見つめる。胸の奥で、何かが焼ける音がした。
「教授。GIGAは、もう“工業廃棄物”みたいなゲームを作っていません」声は低く、確かな怒りを孕んでいた。「でも――日本の教育はまだ、子どもたちを大量生産される“絶望の部品”にし続けている」
場所:東京・秋葉原・UDX広場
UDXの広場は、人、人、人――。数千人の若いプレイヤーで埋め尽くされ、頭上には巨大なホログラムスクリーン。そこには、佐藤健が設計した最新レイドダンジョンの映像が映し出され、ギミックが決まるたびに、地鳴りのような歓声が上がっていた。
澄原龍立は、カジュアルなジャケット姿で、銀髪の白人の老教授と並んで会場を歩いていた。
「龍立、君のゲーム会社は本当に素晴らしい」
老教授は流暢な英語で言う。「トロント大学にいた頃から、私はずっと“この青年は世界を変える”と思っていた。だが、まさか本当にここまでやってのけるとはね」
「ジェームズ教授、買いかぶりすぎですよ」龍立は微笑み、肩をすくめる。「わざわざカナダからお呼び立てしてしまって……」
そのときだった。人混みの端の方から、空気を裂くような悲鳴が響いた。
「誰か! 飛び降りるぞ!!」「子どもだ! 四階のテラスの手すりの外に!」
歓声が一瞬で凍りつく。全員が一斉にビルの四階を見上げた。ガラスの手すりの外側――。名門私立中学の制服を着た、痩せた少年が、今にも落ちそうな体勢で縁にまたがっている。手には、ぐしゃぐしゃになるまで握りしめられた答案用紙。頬を涙が伝い、目は空洞のように虚ろだった。
「満点じゃなかったら……生きてる価値なんてない……」
少年はかすれた声でつぶやく。だが、死を前にしたその独り言は、静まり返った空気の中で、残酷なほど鮮明に響いた。「僕はゴミだ……。母さんのお金を無駄にしてる、ゴミなんだ……」
警備員たちは近づけない。少しでも動けば、少年は本当に手を離しそうだった。龍立の目が細くなる。彼はジェームズ教授にジャケットを預け、豹のような速度でビルの側面へと消えた。
◇
屋上に吹きつける風が、悲鳴のように鳴る。少年は目を閉じ、指を少しずつ離していく。
「ごめんなさい、母さん……」
体が前へと傾いた、その瞬間――。鉄の鉤のように強く、しかし決して千切れない掌が、その手首を掴んだ。
「――捕まえた」
龍立は半身を手すりの外へ乗り出し、額の血管が浮き上がるほど力を込めて、少年の体を引き戻す。二人は、そのまま避難通路の床に、ごろりと転がり込んだ。
少年は安堵するどころか、崩れ落ちるように座り込み、風にさらわれていく答案用紙を見送って、胸の奥から引き裂かれるような叫び声をあげた。
「ぼ、僕の……答案が……! 99点だったのに……。もう……全部終わりだ……!」
足元に、紙切れが舞い落ちてきた。龍立はそれを拾い、目を落とす。――数学 99点。
「99点で死ぬのか?」龍立は眉をひそめた。「誰に、そんなことを教わった?」
少年はびくりと身をすくめると、無意識に袖を握りしめて引き寄せた。龍立はそっと少年の袖をつかみ、ためらいなく引き上げた。
思わず息をのむ。痩せこけた腕には、青紫の指の跡がびっしりと残っていた。皮膚の一部は爪でえぐられたように割れ、血がにじみ、かさぶたになっている。
「僕……“東大進学塾(Todai Juku)”の特進クラスに通ってます……」
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「これは“罰”なんです。トイレで反省しても足りないと、“反省室”に閉じ込められて……。僕……。小数点を一つ、打ち間違えただけで……」
彼の全身は、百億円の企業買収を前にしたときよりも、ずっと激しく震えていた。
龍立は、99点の答案と、目の前の少年を交互に見つめる。胸の奥で、何かが焼ける音がした。
「教授。GIGAは、もう“工業廃棄物”みたいなゲームを作っていません」声は低く、確かな怒りを孕んでいた。「でも――日本の教育はまだ、子どもたちを大量生産される“絶望の部品”にし続けている」
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