112 / 161
第一百一十二話 タイムカプセル
しおりを挟む
時刻:翌日 深夜23時00分
場所:東京郊外・八王子市 某24時間コンビニ
都市のネオンはここへ届かない。あるのはコンビニの白く冷たい照明が、闇へ小さな光斑を落とすだけだ。佐久間(情報統括)の網は、三年前の人事記録と現在の社会保険データを照合し、ついに重要人物を割り出した。
土屋 健(28)。三年前、黒鉄建設が重点育成していた若手現場監理。将来有望。だが高架完成の年、突然辞職し、SNSを全削除し、同僚と断交し、蒸発した。誰も想像しなかった。彼はこの僻地のコンビニで、最低賃金の夜勤レジをしていた。
「いらっしゃいませ……」土屋は反射的に言い、顔を上げない。温かい缶コーヒーが、静かにカウンターへ置かれた。土屋が顔を上げた瞬間、全身が凍る。テレビのニュースで何度も見た顔――国会議員に喧嘩を売る澄原龍立。
「……っ」バーコードスキャナが手から滑り、床に落ちて乾いた音を立てた。追われる者が見せる蒼白な恐怖。
「土屋さん。橋が裂けた」龍立の声は小さい。だが重槌のように土屋の心臓を叩いた。
土屋は震え、膝が抜け、頭を抱えてしゃがみ込み、堪え込んでいた嗚咽を漏らす。「……やっぱり……やっぱり、いつかこうなる……砂が……砂が、人を食うんだ……」
十分後。裏口の路地。龍立は煙草に火を点け、土屋へ渡した。土屋は震える指で受け取り、深く吸う。火の赤が、恐怖で神経質になった顔を照らす。
「俺も……やりたくなかった……本当に……」泣き声混じりの告白。「でも黒鉄には“幽霊部署(Ghost Dept)”がある。組織図に載らない。厳造が飼っている打ち手と偽造屋の集団だ。奴らは偽造した検査票を持ってきて、俺たちに署名させる。署名しないと、東京湾へ“海を見に行く”ことになる」
土屋は唇を噛む。「意味、分かりますか。セメント樽に詰められて……海底に沈むんです。先輩がいた。粗悪な鉄筋を返品しようとして……消えた。警察も動かない。署内に奴らの人間がいる。怖かった……だから逃げた。生きたかっただけだ」
龍立は土屋を見た。「生きたいのは罪じゃない。だが今、真実を止めれば、もっと多くが死ぬ。その橋を毎日、子供が通る。証拠は? 君は良心があった。なら、必ず保険を残している」
土屋は長く沈黙した。煙草の火が指に食い込み、熱さで我に返る。顔を上げる。目に決意が宿る。
「あります。本物の検査報告書。それと、厳造が現場で怒鳴った録音です。“海砂を混ぜろ”“鉄筋を減らせ”――全部。耐火・防水のチタン合金USBに封じました。持ち歩けない。家にも置けない。未完成の場所に隠した。東京湾第二海底トンネルです。第7換気井の内壁。色が少し違う中空レンガがある。俺が監理の時、自分で積んだ“タイムカプセル”です」
それは土屋の命綱。同時に、黒鉄の死刑宣告。龍立は工事中の海底トンネルの方角を見た。地下50メートル。警備は軍用レベル。
「案内しろ」車のドアを開け、声に一切の余地がない。「今夜だ。黒鉄が、橋の本当の原因に気づく前に」
場所:東京郊外・八王子市 某24時間コンビニ
都市のネオンはここへ届かない。あるのはコンビニの白く冷たい照明が、闇へ小さな光斑を落とすだけだ。佐久間(情報統括)の網は、三年前の人事記録と現在の社会保険データを照合し、ついに重要人物を割り出した。
土屋 健(28)。三年前、黒鉄建設が重点育成していた若手現場監理。将来有望。だが高架完成の年、突然辞職し、SNSを全削除し、同僚と断交し、蒸発した。誰も想像しなかった。彼はこの僻地のコンビニで、最低賃金の夜勤レジをしていた。
「いらっしゃいませ……」土屋は反射的に言い、顔を上げない。温かい缶コーヒーが、静かにカウンターへ置かれた。土屋が顔を上げた瞬間、全身が凍る。テレビのニュースで何度も見た顔――国会議員に喧嘩を売る澄原龍立。
「……っ」バーコードスキャナが手から滑り、床に落ちて乾いた音を立てた。追われる者が見せる蒼白な恐怖。
「土屋さん。橋が裂けた」龍立の声は小さい。だが重槌のように土屋の心臓を叩いた。
土屋は震え、膝が抜け、頭を抱えてしゃがみ込み、堪え込んでいた嗚咽を漏らす。「……やっぱり……やっぱり、いつかこうなる……砂が……砂が、人を食うんだ……」
十分後。裏口の路地。龍立は煙草に火を点け、土屋へ渡した。土屋は震える指で受け取り、深く吸う。火の赤が、恐怖で神経質になった顔を照らす。
「俺も……やりたくなかった……本当に……」泣き声混じりの告白。「でも黒鉄には“幽霊部署(Ghost Dept)”がある。組織図に載らない。厳造が飼っている打ち手と偽造屋の集団だ。奴らは偽造した検査票を持ってきて、俺たちに署名させる。署名しないと、東京湾へ“海を見に行く”ことになる」
土屋は唇を噛む。「意味、分かりますか。セメント樽に詰められて……海底に沈むんです。先輩がいた。粗悪な鉄筋を返品しようとして……消えた。警察も動かない。署内に奴らの人間がいる。怖かった……だから逃げた。生きたかっただけだ」
龍立は土屋を見た。「生きたいのは罪じゃない。だが今、真実を止めれば、もっと多くが死ぬ。その橋を毎日、子供が通る。証拠は? 君は良心があった。なら、必ず保険を残している」
土屋は長く沈黙した。煙草の火が指に食い込み、熱さで我に返る。顔を上げる。目に決意が宿る。
「あります。本物の検査報告書。それと、厳造が現場で怒鳴った録音です。“海砂を混ぜろ”“鉄筋を減らせ”――全部。耐火・防水のチタン合金USBに封じました。持ち歩けない。家にも置けない。未完成の場所に隠した。東京湾第二海底トンネルです。第7換気井の内壁。色が少し違う中空レンガがある。俺が監理の時、自分で積んだ“タイムカプセル”です」
それは土屋の命綱。同時に、黒鉄の死刑宣告。龍立は工事中の海底トンネルの方角を見た。地下50メートル。警備は軍用レベル。
「案内しろ」車のドアを開け、声に一切の余地がない。「今夜だ。黒鉄が、橋の本当の原因に気づく前に」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?
嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】
ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。
見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。
大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!
神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。
「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
ゴミ鑑定だと追放された元研究者、神眼と植物知識で異世界最高の商会を立ち上げます
黒崎隼人
ファンタジー
元植物学の研究者、相川慧(あいかわ けい)が転生して得たのは【素材鑑定】スキル。――しかし、その効果は素材の名前しか分からず「ゴミ鑑定」と蔑まれる日々。所属ギルド「紅蓮の牙」では、ギルドマスターの息子・ダリオに無能と罵られ、ついには濡れ衣を着せられて追放されてしまう。
だが、それは全ての始まりだった! 誰にも理解されなかったゴミスキルは、慧の知識と経験によって【神眼鑑定】へと進化! それは、素材に隠された真の効果や、奇跡の組み合わせ(レシピ)すら見抜く超チートスキルだったのだ!
捨てられていたガラクタ素材から伝説級ポーションを錬金し、瞬く間に大金持ちに! 慕ってくれる仲間と大商会を立ち上げ、追放された男が、今、圧倒的な知識と生産力で成り上がる! 一方、慧を追い出した元ギルドは、偽物の薬草のせいで自滅の道をたどり……?
無能と蔑まれた生産職の、痛快無比なざまぁ&成り上がりファンタジー、ここに開幕!
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』
月神世一
SF
【あらすじ】
「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」
坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。
かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。
背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。
目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。
鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。
しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。
部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。
(……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?)
現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。
すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。
精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。
これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる