カナダに追放された財閥の三男が帰国しました:父が「搾取は伝統だ」と言うので、「あらゆる手段」を使ってこの1兆円規模のブラック巨艦を完全ホワイ

RyuChoukan

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第一百一十二話 タイムカプセル

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 時刻:翌日 深夜23時00分

 場所:東京郊外・八王子市 某24時間コンビニ

 都市のネオンはここへ届かない。あるのはコンビニの白く冷たい照明が、闇へ小さな光斑を落とすだけだ。佐久間(情報統括)の網は、三年前の人事記録と現在の社会保険データを照合し、ついに重要人物を割り出した。

 土屋 健(28)。三年前、黒鉄建設が重点育成していた若手現場監理。将来有望。だが高架完成の年、突然辞職し、SNSを全削除し、同僚と断交し、蒸発した。誰も想像しなかった。彼はこの僻地のコンビニで、最低賃金の夜勤レジをしていた。

「いらっしゃいませ……」土屋は反射的に言い、顔を上げない。温かい缶コーヒーが、静かにカウンターへ置かれた。土屋が顔を上げた瞬間、全身が凍る。テレビのニュースで何度も見た顔――国会議員に喧嘩を売る澄原龍立。

「……っ」バーコードスキャナが手から滑り、床に落ちて乾いた音を立てた。追われる者が見せる蒼白な恐怖。

「土屋さん。橋が裂けた」龍立の声は小さい。だが重槌のように土屋の心臓を叩いた。

 土屋は震え、膝が抜け、頭を抱えてしゃがみ込み、堪え込んでいた嗚咽を漏らす。「……やっぱり……やっぱり、いつかこうなる……砂が……砂が、人を食うんだ……」

 十分後。裏口の路地。龍立は煙草に火を点け、土屋へ渡した。土屋は震える指で受け取り、深く吸う。火の赤が、恐怖で神経質になった顔を照らす。

「俺も……やりたくなかった……本当に……」泣き声混じりの告白。「でも黒鉄には“幽霊部署(Ghost Dept)”がある。組織図に載らない。厳造が飼っている打ち手と偽造屋の集団だ。奴らは偽造した検査票を持ってきて、俺たちに署名させる。署名しないと、東京湾へ“海を見に行く”ことになる」

 土屋は唇を噛む。「意味、分かりますか。セメント樽に詰められて……海底に沈むんです。先輩がいた。粗悪な鉄筋を返品しようとして……消えた。警察も動かない。署内に奴らの人間がいる。怖かった……だから逃げた。生きたかっただけだ」

 龍立は土屋を見た。「生きたいのは罪じゃない。だが今、真実を止めれば、もっと多くが死ぬ。その橋を毎日、子供が通る。証拠は? 君は良心があった。なら、必ず保険を残している」

 土屋は長く沈黙した。煙草の火が指に食い込み、熱さで我に返る。顔を上げる。目に決意が宿る。

「あります。本物の検査報告書。それと、厳造が現場で怒鳴った録音です。“海砂を混ぜろ”“鉄筋を減らせ”――全部。耐火・防水のチタン合金USBに封じました。持ち歩けない。家にも置けない。未完成の場所に隠した。東京湾第二海底トンネルです。第7換気井の内壁。色が少し違う中空レンガがある。俺が監理の時、自分で積んだ“タイムカプセル”です」

 それは土屋の命綱。同時に、黒鉄の死刑宣告。龍立は工事中の海底トンネルの方角を見た。地下50メートル。警備は軍用レベル。

「案内しろ」車のドアを開け、声に一切の余地がない。「今夜だ。黒鉄が、橋の本当の原因に気づく前に」
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