カナダに追放された財閥の三男が帰国しました:父が「搾取は伝統だ」と言うので、「あらゆる手段」を使ってこの1兆円規模のブラック巨艦を完全ホワイ

RyuChoukan

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第一百四十五話 精神病院の賭けと理性の駆け引き

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時刻:潜入二日目・放風時間

場所:病院中庭・高い壁の下

空は灰色。周囲には高さ五メートルのコンクリート塀が聳え、高圧電流が通っている。空気は息が詰まるほど沈黙に満ち、時折、どこかで間の抜けた笑い声が響くだけ。

劉立は、目の死んだ患者たちの群れに紛れていた。ここにいる者の大半はもう“死んでいる”。長期投薬で脳を不可逆に損傷し、よだれを垂らして院内をただ円を描いて歩く、歩く死体だ。

そして——中庭の隅、枯れた木の下。

劉立は、あの見慣れた影を見つけた。

佐伯教授。

かつて品格と風格をまとった心理学の泰斗は、今や骨と皮だけの痩せ細り、白髪は乱れ、手には箒。落ち葉を機械のように掃き続けている。目は濁り、口の中で何かを暗唱していた。

劉立は、石につまずいたふりをして転がり、教授のそばへ滑り込む。

「先生」

声は極低い。

「僕です。劉立です。澄原龍立が外にいます。迎えに来ました。家へ帰りましょう」

教授の濁った目が、ぴたりと止まった。

一瞬、清明が灯る。だが次に来たのは、凄まじい恐怖だった。

「早く……行け……子どもよ、早く……御子柴……奴は実験を……『プロメテウス計画』……前頭葉を切り取る……明日だ……明日……私は……もう……」

「前頭葉切除(ロボトミー)?」

劉立の胸が凍った。

それは、前頭葉の神経線維を切断して感情と自律性を奪い、従順な“人形”に変える、野蛮な手術。

残り時間は二十四時間もない。

情報を、今すぐ外へ送らねばならない。

だが、危機は同時に降りてきた。

院長室

御子柴狂介は監視映像を見つめ、眉を寄せた。手元の万年筆が、机を規則正しく叩く。

「この新入りの劉立……おかしい」

御子柴は画面を指で示す。

「狂ったふりはしている。だが歩き方だ……あれは格闘経験者の重心制御だ。それに周囲を見る目が違う。恐怖じゃない。観察だ」

「地下へ連れて行け。私が直々に“治療”してやる」

地下室・取調べ室

劉立は特製の電撃椅子に縛られ、身動きが取れない。

御子柴は電撃装置のレバーを握り、蛇みたいに冷たい目を向けた。

「劉立さん。もうやめなさい。あなた、薬を飲んでいないだろう?」

「誰の差し金だ。記者か? それとも警察か?」

「ジ——ッ!!!」

高電圧の電流が、瞬間的に劉立の全身を貫いた。

痙攣。筋肉は断裂しそうなほど緊張し、歯は唇を噛み切り、血がにじむ。

それでも劉立は御子柴を見据え、一切声を上げなかった。

電流が止む。

劉立は汗まみれで荒く呼吸しながら、口角を引き上げた。

その笑みは、狂人より狂っていて、悪魔より冷たかった。

「御子柴院長……左手がずっと震えてる。抗不安薬の長期服用の副作用だろ?」

身体は拘束されている。だが精神は、ここから逆襲を始めた。

「何が怖い? お前が殺した連中が戻ってくるのが怖いのか?」

「それとも——ケイマン諸島に隠した、マネロン用のペーパーカンパニーが暴かれるのが怖いのか?」

(これは佐久間が徹夜で掘り出した黒い材料を、骨伝導イヤホン越しに劉立へ流し込んだものだ。)

御子柴の顔色が、一瞬で真っ青になった。幽霊を見たみたいに一歩下がる。

「な……なぜ知っている?!」

「俺も心理学者だ、院長」

劉立の声に圧が乗る。

「お前の心の中の“鬼”が見える」

「治療したいんだろ? やってみろよ」

「お前の電撃が強いか、俺の催眠が強いか——」

御子柴は怒り、同時に恐怖に飲まれていく。

「化け物め! お前を白痴にしてやる!!」

そのとき、イヤホンに吉岡の声が入った。

「劉立、耐えろ! 龍立が隊を動かした。三上の弁護団が正門で陽動。カウントダウン三分!」
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