【完結】Life

浅葱

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14.Past(過ぎたこと)

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 珍しくひどく歩美が不機嫌だったので、中国人の友だちも誘ってミッションベイまで車を走らせた。2人きりになれる根性は、まだなくて。
 中国人の友人たちはとっくに俺の気持ちなんか見抜いていたのか、歩美が席を外した隙に、

「お前歩美が好きなんだろ? 2人きりにしてやるよ」

 と余計なお世話なことを言った。俺はそれに苦笑して、「いいんだ」とこたえる。友人たちはどうしても合点がいかないらしく、しきりに、「なんで? なんで?」と聞いてきた。
 悪い連中じゃないんだけどな。
 そうこうしているうちに歩美が戻ってきた。これで話は終るだろうと思っていたら、あろうことかその友人は、歩美に話をフッたのだ。

「歩美、カズが2人きりになりたいってさ」

 オーマイガッッ!!
 ムンクの叫び状態で動きが止まる。なんてことをいうんだこいつは~~~~~~~っっ!!

「カズをからかうのはよしなさいよ。そーゆーのやめて」

 しかし歩美は一瞬眉を微妙に寄せただけで、平然と彼にそう応えた。それでも彼は言い募る。

「でもカズは歩美のこと好きだろ? そうだよな?」

 頼むからやめてくれええええええええっっっ!!
 こういう時、とっさに英語が出てこない己の語学力のなさを痛感させられる。っていうかそうじゃなくてっっ!!

「ギャリー、日本人はそうそう他人様のプライベートには触れてこないものよ。わからないなら、中国語で言おうか?」

 最近日本人ばっかりとつるんではいるが、歩美はもともと中国語がしゃべれるのだ。
 友人―イングリッシュネームをギャリーという―がそれに頷く。そういえばこいつはあんまり英語ができないんだよな。ヘンな単語はよく知ってるくせに。
 2人はそして、俺の知らない言葉で会話を始めた。なんつーか音がすごく自然でうわあと思ってしまう。もう1人の友人も歩美と話がしたくてうずうずしている。
 俺もいくつかは中国語の単語を覚えたけど、歩美の足元にも及ばない。辞書も持たず、ジェスチャーもなしでよくあそこまで流暢にしゃべれるものだと、いつも感心してしまう。英語は俺の方が若干うまいが、それでもネイティブと流暢に話せるほどではない。いったいどれぐらい勉強すればあそこまで流暢に話せるようになるのだろうか。

「マイケル、歩美の中国語ってうまいの?」

 ついつい隣の友人に聞いてしまう。彼はお人よしで、ギャリーと歩美が話をしている時俺が取り残されてしまうとわかると2人の会話に入っていったりはしない。

「うまいよ。日本語なまりはあるけど、北京以外の場所に住んでる中国人なんかよりよっぽどキレイだ」

 手放しの褒めようだ。

「すごいんだな」
「歩美はすごいよ」

 もしかしたら、マイケルも歩美が好きなのかな。それとも中国人は素直なだけなのか。
 じゃあ、ニュージーランド人は?
 楽しいはずなのに、クリスのことが頭をよぎる。
 歩美はギャリーと笑っていた。そういえば歩美は中国の大学を出たんだったよな。俺もこっちの大学に入れば、英語もそれぐらい流暢になるだろうか。
 って、そんな金はないよな。

「どうしたの、カズ? 楽しくない?」

 そんなことを考えていたら、いきなり歩美が顔をのぞき込んできた。思わずのけぞる。

「いや、ちょっと……ぼーっとしてて……」
「ふうん?」

 なんだか歩美の表情は心配そうだ。そういえば。
 思い出す。口調はきついけど、歩美は誰よりも周りに気を使ってくれている。
 そう、いつでも。
 そんなところに惚れたんだった。それなら。

「あのさ……ちょっと悩み、あんだけど。今度聞いてくれる?」

 もう、君を困らせたりはしないから。

「いいよ」

 案の定、歩美は微笑わらって応えてくれた。
 ああ、こんなにも俺、歩美が好きだったんだな。
 そう思う。


 けれど、その時は気づかなかった。俺の歩美に対する気持ちが、いつのまにか過去形になっていたということに。
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