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八、権威婚姻(政略結婚)
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趙山琴の部屋でお茶をすることになった。
令妃も一緒にと明玲が声を掛けたので山琴の部屋で合流した。まだ寒さの残る季節である。天気はとてもいいのだが庭でお茶をするには早いと思われた。それでも庭の景色は見たいからと扉を開け放ち、春の息吹を感じながら三人は集まった。
「山琴様、明玲様、お招きありがとうございます」
「声を掛けたのは明玲よ」
「いえ。令妃様、朝は本当にありがとうございました」
丁寧な所作で挨拶をする令妃を見習わなければと明玲は思う。そして朝食の際山琴を止めてくれたことに対して礼を言った。令妃はふふっと笑った。
「明玲様が気になさることはありませんわ」
どこまでも柔らかい印象の妾妃である。令妃は偉仁が山琴と結婚してから最初に迎えた妾妃だ。控えめで今まであまり発言することはなかったが、今朝の凛とした姿を明玲は頼もしくも感じた。
侍女たちが甲斐甲斐しくお茶の準備を整える。茶菓子なども揃った時点で山琴は人払いをした。侍女たちはしずしずと部屋の外へ出て行った。
山琴がにっこりする。
「さ、明玲。昨夜のことを白状してもらうわよ」
そして、とても楽しそうに言った。明玲は一瞬遠い目をした。
結局明玲は頬を染めながら口づけられたことまで話してしまった。だが山琴たちの反応は薄かった。
「あら」
「まあ……」
山琴たちは口に手を当て、互いに顔を見合わせた。偉仁の妻たちは仲がいいようである。
「抱かれてはいないと思ったけど、口づけだけなのね。偉仁も随分我慢したこと」
「……そうですね」
明玲は首を傾げた。
明玲は男の性についてほとんど知らない。周りがそういう話を一切しないようにしていたし、触れさせないように守ってきたからだった。
そんなことは全く知らない明玲は二人が何を言っているのかわからなくて困った。
「あの……?」
「こちらの話だから貴女がが気にすることはないわ。いいこと、閨については偉仁に任せておけば大丈夫だからね。で、なんだったかしら? いつ頃から貴女と偉仁の血が繋がっていないことを知っていたか、だったかしら?」
「はい」
「そんなこと最初からに決まっているでしょう」
当然というふうに言われ、そういうものなのかと明玲は思う。
「妾が偉仁に嫁ぐのは家が決めたこと。事前に顔を合わせる必要もなかったのに、わざわざ偉仁は訪ねてきて貴女のことを話してくれたわ。だから、明玲はもう少し自分に自信を持ちなさいな」
「……え……」
心の内のどろどろしたものを山琴に言い当てられて明玲は目を白黒させた。確かに昨夜からいろいろなことが頭に浮かんでいる。
「趙姐はその……私のことを聞いて……」
「明玲」
山琴がそっと明玲の手を包み込んだ。知らず知らずのうちに震えていたようだった。
「妾たちの結婚は家が決めたことなのよ。もちろん偉仁に情はあるけれど貴女が気にすることはないわ。貴女は貴女の想いを優先なさい」
血が繋がっていない妹が住んでいることも、その妹が夫に嫁ぐこともわかっているのに山琴は冷静だった。そして政略結婚なのだからと明玲の想いを肯定してくれている。ただいくらそうであっても簡単に割り切れることではないだろう。とてもかなわないと明玲は思った。
「趙姐、ありがとうございます……」
「そうと決まったら改めてしっかりと花嫁修業をしなくてはならないわ。妾が妻としての心得を叩きこんであげるから覚悟なさい」
「……はい、よろしくご指導ください」
どうやら花嫁修業は山琴についてすることになったようだ。この館から出なくていいのは助かるが、山琴のことだ、とても厳しいに違いない。ありがたいと思いつつも明玲は顔を引きつらせた。
令妃がそっと明玲の肩に触れる。慰めてくれているようだが、少しでも山琴の暴走を止めてくれることを願った。
令妃も一緒にと明玲が声を掛けたので山琴の部屋で合流した。まだ寒さの残る季節である。天気はとてもいいのだが庭でお茶をするには早いと思われた。それでも庭の景色は見たいからと扉を開け放ち、春の息吹を感じながら三人は集まった。
「山琴様、明玲様、お招きありがとうございます」
「声を掛けたのは明玲よ」
「いえ。令妃様、朝は本当にありがとうございました」
丁寧な所作で挨拶をする令妃を見習わなければと明玲は思う。そして朝食の際山琴を止めてくれたことに対して礼を言った。令妃はふふっと笑った。
「明玲様が気になさることはありませんわ」
どこまでも柔らかい印象の妾妃である。令妃は偉仁が山琴と結婚してから最初に迎えた妾妃だ。控えめで今まであまり発言することはなかったが、今朝の凛とした姿を明玲は頼もしくも感じた。
侍女たちが甲斐甲斐しくお茶の準備を整える。茶菓子なども揃った時点で山琴は人払いをした。侍女たちはしずしずと部屋の外へ出て行った。
山琴がにっこりする。
「さ、明玲。昨夜のことを白状してもらうわよ」
そして、とても楽しそうに言った。明玲は一瞬遠い目をした。
結局明玲は頬を染めながら口づけられたことまで話してしまった。だが山琴たちの反応は薄かった。
「あら」
「まあ……」
山琴たちは口に手を当て、互いに顔を見合わせた。偉仁の妻たちは仲がいいようである。
「抱かれてはいないと思ったけど、口づけだけなのね。偉仁も随分我慢したこと」
「……そうですね」
明玲は首を傾げた。
明玲は男の性についてほとんど知らない。周りがそういう話を一切しないようにしていたし、触れさせないように守ってきたからだった。
そんなことは全く知らない明玲は二人が何を言っているのかわからなくて困った。
「あの……?」
「こちらの話だから貴女がが気にすることはないわ。いいこと、閨については偉仁に任せておけば大丈夫だからね。で、なんだったかしら? いつ頃から貴女と偉仁の血が繋がっていないことを知っていたか、だったかしら?」
「はい」
「そんなこと最初からに決まっているでしょう」
当然というふうに言われ、そういうものなのかと明玲は思う。
「妾が偉仁に嫁ぐのは家が決めたこと。事前に顔を合わせる必要もなかったのに、わざわざ偉仁は訪ねてきて貴女のことを話してくれたわ。だから、明玲はもう少し自分に自信を持ちなさいな」
「……え……」
心の内のどろどろしたものを山琴に言い当てられて明玲は目を白黒させた。確かに昨夜からいろいろなことが頭に浮かんでいる。
「趙姐はその……私のことを聞いて……」
「明玲」
山琴がそっと明玲の手を包み込んだ。知らず知らずのうちに震えていたようだった。
「妾たちの結婚は家が決めたことなのよ。もちろん偉仁に情はあるけれど貴女が気にすることはないわ。貴女は貴女の想いを優先なさい」
血が繋がっていない妹が住んでいることも、その妹が夫に嫁ぐこともわかっているのに山琴は冷静だった。そして政略結婚なのだからと明玲の想いを肯定してくれている。ただいくらそうであっても簡単に割り切れることではないだろう。とてもかなわないと明玲は思った。
「趙姐、ありがとうございます……」
「そうと決まったら改めてしっかりと花嫁修業をしなくてはならないわ。妾が妻としての心得を叩きこんであげるから覚悟なさい」
「……はい、よろしくご指導ください」
どうやら花嫁修業は山琴についてすることになったようだ。この館から出なくていいのは助かるが、山琴のことだ、とても厳しいに違いない。ありがたいと思いつつも明玲は顔を引きつらせた。
令妃がそっと明玲の肩に触れる。慰めてくれているようだが、少しでも山琴の暴走を止めてくれることを願った。
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