義兄皇子に囚われて溺愛されてます

浅葱

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九、他回来了(帰宅した)

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 その日の夜も、偉仁は夕食に間に合うように帰宅した。
 とても忙しい時期のはずだが明玲の為に帰ってきたのだろう。山琴を始め妾妃たちもそれはわかっているから明玲を見る目がとても優しい。明玲自身はそれが腑に落ちなかった。山琴の教育がいいのか、それとも彼女たちの元々の性格故か、彼女たちは偉仁の動向をあまり気にしていないように見えた。
 今夜夕食に同席した妾妃は令妃だった。妾妃たちは偉仁の隣で給仕の真似事をするのが仕事である。

「今日は何をなさったんですの?」

 山琴がいつものように偉仁に尋ねる。

「各地から集まってきた要望書の整理だ。なにかと春は忙しい」
「お疲れ様です」

 そんな簡単なやりとりをするだけだが、円滑に物事を進める為には情報の共有が不可欠である。他の王は普段妻とは閨でしか会わないというのも少なくはないが、偉仁はできるだけ夕食を共に取るようにしていた。

明玲ミンリン
「はい」
「今日は何を学んだ?」

 偉仁に尋ねられ、明玲は今日学んだことを思い出した。

「本日は古楽府を学びました」
「ほう、何を?」
「”上邪”(天よ)です」
「諳んじてみよ」

 偉仁は楽しそうな表情をした。明玲としては少し恥ずかしい。何故ならこれは情歌だからだ。

「はい、おかしなところがあればおっしゃてください。

 上邪!(天よ)
 我欲與君相知(私は貴方と出会い、)
 長命無絶衰(命ある限り想いが変わることなく共にありたいと思っています)
 山無陵(山の小高いところがなくなり)
 江水為竭(川の水がなくなり)
 冬雷震震(冬に雷が激しく鳴り響き)
 夏雨雪(夏に雪が降り)
 天地合(天と地が合わさる)
 乃敢與君絶(そうして初めて私は貴方から引き離されるのでしょう)

「ふむ、見事だな」
「素敵な詩ですわ」
「……ありがとうございます」

 偉仁と山琴、そして令妃が手を叩く。明玲はあまりの恥ずかしさに顔を伏せた。顔が真っ赤になっているのを感じる。
”上邪”という呼びかけはそのまま聞くと天に呼びかけているようだが、解釈次第では愛しい者に呼びかけているとも受け取れる。明玲はこの詩を読んだ時、自分はこれほどまでに深く偉仁を愛してるかどうか自問した。そこまでの天変地異が起こらない限り、絶対に離れないという想いの深さに舌を巻く。
 けれど偉仁は明玲を娶ると言ってくれた。それならばこの詩のようにに在ってもいいはずだと明玲は思う。

「明玲」
「はい」
「後ほど私の部屋に来るように」
「……はい……」

 偉仁に当然のように言われ、明玲は顔から火が出るのではないかと思うぐらい頭が熱くなるのを感じた。
 その後はもう、何を食べているのかわからなかった。



ーーーーー
短くてすいません。

古楽府 漢魏の漢詩の一形式で、古体詩の一種。六朝時代(三国時代の呉・東晋・宋・斉・梁・陳の六王朝)以前に作られた楽府をいう。

上邪の訳については↓のページの解釈を参考にしました。
https://chinese.hix05.com/Gafu/gafu03.joya.html
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