252 / 565
第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
98.厄介な話が多すぎます
しおりを挟む
『なんで? なんでなの? なんで紅夏の”つがい”がエリーザなのよー?』
どうしても納得がいかない、と香子は憤っていた。まず白虎に八つ当たりをし、朱雀に『監督不行き届きだ!』と怒り、玄武の胸に飛び込んだ。青龍の手がわきわきしていたが気づかないフリをする。
白虎の眷属である白雲、青龍の眷属である青藍、そして今度は朱雀の眷属である紅夏。眷属は眷属同士で番うのではなかったか。何故みな四神宮に関係のある女性が”つがい”なのか。
(絶対天上にいる神さまたちが謀っている気がする……)
そう考えざるを得ない、と香子は思う。ただ紅児に関してはよくわからない。紅夏が”つがい”と言うならばそうなのだろうし、紅児が本気で嫌がらなければ静観するしかない。
(でもまだ14歳なんだよね……)
この国の法律で考えてもまだ未成年である少女。四神やその眷属に人間の法は関係ないとはいえ後見人は香子である。
(どうしてもしなきゃいけないというなら目をつぶるけど、かなり長生きするわけだし)
やはり邪魔はさせてもらおうと香子は決めた。
(よしっ!)
『玄武さま、私紅夏に恨まれても諌めます』
『ふむ』
『四神の眷属にとって”つがい”が絶対であることはわかっているつもりです。でも私はエリーザの気持ちを尊重したいのです』
玄武がその麗しい顔をほんの少し緩めて香子を抱きなおした。
『我らが”つがい”を見つけた眷族を阻むことはない』
『わかっています。でも私は四神の花嫁である前に人ですから』
『そなたの好きにするといい』
鷹揚と、香子がしようとすることを認めてくれる玄武のバリトンが優しい。香子は嬉しくなって改めて玄武に抱きついた。そうしてちろりとその傍らに腰掛けている朱雀を見やる。
青龍はいつのまにか戻ってしまった。だが朱雀は当たり前のようにそこにいるからそれもまた憎らしいと香子は思う。
ああでもないこうでもないとやっているうちに遅い時間になってしまった。
『お風呂……でももう遅いですよね……侍女さんたちがかわいそうかも』
『それが仕事であろう』
朱雀はそう言うと一瞬扉の方を見やった。朱雀の室の前にいる黒月に連絡してくれたのに違いなかった。
(お湯を入れてもらうのはしかたないけど……特に世話はいらないかな……)
それでも一人二人は浴室の前で待機することになるのだろう。できるだけ侍女たちに手間をかけさせない方向でいい案がないか考えていると朱雀に手を取られた。
『今宵は我らが洗ってやろう』
『え』
当たり前のようにとんでもないことを言われ、香子は目が点になった。
共に入浴をしたことがないわけではないが、改めて言われるととても恥ずかしい。しかも実を言うと四神との入浴は事後が多く、ほとんど意識のない状態で入れられている。ただ何故か朝になるとそれがありありと思い出されるのだが……。
『洗ってもらうだけですからね?』
逆らうと後が面倒くさそうなので、仕方なく香子は二神に身を委ねた。
厄介事というのはまとめてやってくるものらしい。
翌日の昼食の後青龍の室でまったりしていると、珍しく女官の延夕玲が顔を出した。
『夕玲、何かあったの?』
夕玲は申し訳なさそうな顔し、少しもじもじしていた。また皇太后から手紙を預かったのかもしれない。
『お手紙、かしら?』
『はい……それと、その手紙は花嫁さま自ら読まれるようにと言付かっています』
香子はとても困ってしまった。読めないことはないがこの国の言葉は繁体字で、しかも書き方は文語体である。
『ええと、これは返事が必要なものかしら?』
『いえ、特には……』
『四神と一緒に読むのはだめ?』
小首を傾げると夕玲はうっすらと頬を染め、困ったような表情をした。
『花嫁さま、夕玲を誘惑するのはお止めください』
青藍が間髪入れず抗議する。
『誘惑……してない、してないから……』
青龍にも抱かれ安定してきているとは聞いたがまだまだ人に影響を及ぼすらしい。人間の男性にはもうどちらにせよ接触するつもりはないが、女性に関しては大目に見てもらいたいと香子は思う。夕玲が咳払いをした。
『四神と読まれるのでしたら大丈夫です』
『わかったわ。じゃあ悪いけど』
『我らは室の前におりますので何かありましたらお声掛けください』
青藍がそう言って夕玲の手をやんわりと掴み青龍の室を出た。
『すばやい……』
これだから眷属ってやつは、と言いたくなる現金さである。
それはともかく皇太后からの手紙だ。
『青龍さま、読んでいただいても?』
『ふむ』
包まれていた紙から出し、読んでもらう。文語でよくわからないがなんだか皇后のことが書かれているようだった。
『うーん……?』
『……全く人間というのは浅はかなものよ……』
椅子になっている青龍の憤りを感じ、香子は腕を捕らえて詳しい内容を教えてもらった。
そうして。
『……これ、皇帝が悪いんですよね?』
『ああ、光基の怠慢だ』
近々皇后から声がかかるだろうことを想定し、香子は深く嘆息した。
ーー
登場人物一覧についてはプチプリの「異世界で暮らしてます[四神番外]」ご確認ください。
https://puchi-puri.jp/books/113
「貴女色に染まる」22話辺りの話です。
どうしても納得がいかない、と香子は憤っていた。まず白虎に八つ当たりをし、朱雀に『監督不行き届きだ!』と怒り、玄武の胸に飛び込んだ。青龍の手がわきわきしていたが気づかないフリをする。
白虎の眷属である白雲、青龍の眷属である青藍、そして今度は朱雀の眷属である紅夏。眷属は眷属同士で番うのではなかったか。何故みな四神宮に関係のある女性が”つがい”なのか。
(絶対天上にいる神さまたちが謀っている気がする……)
そう考えざるを得ない、と香子は思う。ただ紅児に関してはよくわからない。紅夏が”つがい”と言うならばそうなのだろうし、紅児が本気で嫌がらなければ静観するしかない。
(でもまだ14歳なんだよね……)
この国の法律で考えてもまだ未成年である少女。四神やその眷属に人間の法は関係ないとはいえ後見人は香子である。
(どうしてもしなきゃいけないというなら目をつぶるけど、かなり長生きするわけだし)
やはり邪魔はさせてもらおうと香子は決めた。
(よしっ!)
『玄武さま、私紅夏に恨まれても諌めます』
『ふむ』
『四神の眷属にとって”つがい”が絶対であることはわかっているつもりです。でも私はエリーザの気持ちを尊重したいのです』
玄武がその麗しい顔をほんの少し緩めて香子を抱きなおした。
『我らが”つがい”を見つけた眷族を阻むことはない』
『わかっています。でも私は四神の花嫁である前に人ですから』
『そなたの好きにするといい』
鷹揚と、香子がしようとすることを認めてくれる玄武のバリトンが優しい。香子は嬉しくなって改めて玄武に抱きついた。そうしてちろりとその傍らに腰掛けている朱雀を見やる。
青龍はいつのまにか戻ってしまった。だが朱雀は当たり前のようにそこにいるからそれもまた憎らしいと香子は思う。
ああでもないこうでもないとやっているうちに遅い時間になってしまった。
『お風呂……でももう遅いですよね……侍女さんたちがかわいそうかも』
『それが仕事であろう』
朱雀はそう言うと一瞬扉の方を見やった。朱雀の室の前にいる黒月に連絡してくれたのに違いなかった。
(お湯を入れてもらうのはしかたないけど……特に世話はいらないかな……)
それでも一人二人は浴室の前で待機することになるのだろう。できるだけ侍女たちに手間をかけさせない方向でいい案がないか考えていると朱雀に手を取られた。
『今宵は我らが洗ってやろう』
『え』
当たり前のようにとんでもないことを言われ、香子は目が点になった。
共に入浴をしたことがないわけではないが、改めて言われるととても恥ずかしい。しかも実を言うと四神との入浴は事後が多く、ほとんど意識のない状態で入れられている。ただ何故か朝になるとそれがありありと思い出されるのだが……。
『洗ってもらうだけですからね?』
逆らうと後が面倒くさそうなので、仕方なく香子は二神に身を委ねた。
厄介事というのはまとめてやってくるものらしい。
翌日の昼食の後青龍の室でまったりしていると、珍しく女官の延夕玲が顔を出した。
『夕玲、何かあったの?』
夕玲は申し訳なさそうな顔し、少しもじもじしていた。また皇太后から手紙を預かったのかもしれない。
『お手紙、かしら?』
『はい……それと、その手紙は花嫁さま自ら読まれるようにと言付かっています』
香子はとても困ってしまった。読めないことはないがこの国の言葉は繁体字で、しかも書き方は文語体である。
『ええと、これは返事が必要なものかしら?』
『いえ、特には……』
『四神と一緒に読むのはだめ?』
小首を傾げると夕玲はうっすらと頬を染め、困ったような表情をした。
『花嫁さま、夕玲を誘惑するのはお止めください』
青藍が間髪入れず抗議する。
『誘惑……してない、してないから……』
青龍にも抱かれ安定してきているとは聞いたがまだまだ人に影響を及ぼすらしい。人間の男性にはもうどちらにせよ接触するつもりはないが、女性に関しては大目に見てもらいたいと香子は思う。夕玲が咳払いをした。
『四神と読まれるのでしたら大丈夫です』
『わかったわ。じゃあ悪いけど』
『我らは室の前におりますので何かありましたらお声掛けください』
青藍がそう言って夕玲の手をやんわりと掴み青龍の室を出た。
『すばやい……』
これだから眷属ってやつは、と言いたくなる現金さである。
それはともかく皇太后からの手紙だ。
『青龍さま、読んでいただいても?』
『ふむ』
包まれていた紙から出し、読んでもらう。文語でよくわからないがなんだか皇后のことが書かれているようだった。
『うーん……?』
『……全く人間というのは浅はかなものよ……』
椅子になっている青龍の憤りを感じ、香子は腕を捕らえて詳しい内容を教えてもらった。
そうして。
『……これ、皇帝が悪いんですよね?』
『ああ、光基の怠慢だ』
近々皇后から声がかかるだろうことを想定し、香子は深く嘆息した。
ーー
登場人物一覧についてはプチプリの「異世界で暮らしてます[四神番外]」ご確認ください。
https://puchi-puri.jp/books/113
「貴女色に染まる」22話辺りの話です。
応援ありがとうございます!
11
お気に入りに追加
3,964
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる