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第4部 四神を愛しなさいと言われました
184.景山でもとても甘いのはどうかと思います
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昼食は暖石を入れた籠で運んできたらしい。
景山の山頂にある万春亭で、香子は玄武の腕に抱かれたまま昼食を食べることになった。
なんというか、見守っている人が多くて香子は少し落ち着かなかった。
侍女たちが卓に料理を並べていく。それを見ながら、香子は簡単なものでいいと伝えておくべきだったと後悔した。そんな香子の様子に気づいてか、玄武がその頬を撫でる。
『香子』
『はい』
『そなたの優しさは伝わっているはずだ』
香子はこてんと首を傾げた。玄武の言葉の意味がわからなかった。
『香子』
朱雀に手を取られ、口づけられた。香子はそれに少し動揺した。
(け、結婚してるんだもんね。問題ない、問題ない……)
香子は落ち着こうとしたが、その頬は赤く染まっていた。それを侍女や夕玲たちは微笑ましいものを見るように眺める。香子はこんなにも四神に愛されているというのに、いつまで経っても慣れないその様子が侍女たちにとっては悶えポイントだったりする。当然ながらそのことを香子は知らない。
『朱雀様……?』
『そなたは余計なことを考えすぎる。我らのことだけそのかわいい頭に入れておけ』
朱雀は香子をまっすぐに見つめながらそう伝えた。香子は全身が熱くなるのを感じた。
『……そんなこと、できません』
そんなことをしたら、香子は四神なしでは生きていけなくなってしまう。
『朱雀、あまり香子を困らせるな』
『はい』
朱雀はまた香子の手の甲に口づけると、その手をそっと放した。本当に香子は困ってしまった。
もう、どこにいても甘い。甘すぎてとろけてしまいそうだった。
気を取り直して昼食に手をつける。
前菜も主菜もスープもデザートもあり、香子は目を丸くした。
『あの……明日以降ここに来る時は、もっと簡単に食べられるものにしてくれる?』
『お気に召しませんでしたか?』
侍女たちが心配そうな顔をした。
『そうではないの。こんなに運んでくるのはたいへんでしょう? 四神はどうせそれほど食べないから、軽食ぐらいでいいわ』
『では、四神宮に戻られましたら改めてご用意しましょう』
『え……』
侍女たちの目があまりにも輝いていたから、そんなことはしなくていいと香子には言えなかった。
侍女たちは花嫁の世話をしたくてたまらないのだが、それが香子には未だに伝わっていない。香子は自分のことに必死で、未だに自分の立ち位置というものをよく理解していないのだった。
『……おなかいっぱい』
山頂の建物で食べる昼食もおいしかった。食後のお茶を飲み、香子は満足そうに呟いた。
『これからどうしたい?』
『楼台に出たいです』
玄武に聞かれて、香子はそう答えた。
まだ昼ではあるが、楼台からの眺めは最高だった。楼台に上がったのは四神と香子、そして眷属と趙文英、王英明である。
侍女や女官たちが見てよい景色ではないらしい。
(まぁある意味軍事機密だもんねぇ)
香子は皇城を見下ろしながら思った。景山の山頂からは、皇城の配置が一目瞭然である。皇城を攻めようと思うなら、まずこの風景を模写するだろう。今のところそういった者はいないようだが、いつ政権が変わったとしてもおかしくはない。
(四神はこの国を守っているけど、王朝は入れ替わってるんだもんねぇ)
唐になるまでの歴史が元の世界と変わらないということは、隋の前の南北朝時代四神はどうしていたのだろう。
『香子、如何した?』
歴史に思いをはせていてぼうっとしていたらしい。玄武に声をかけられて香子はハッとした。
『いえ、この国の歴史を思い出していました』
『この光景も、そなたにとっては歴史に通じるのか?』
『ええ。だって、ここが都になってから長いのでしょう?』
『……そうやもしれぬな』
唐の都は長安(現在の西安)であったが、北京に遷都してきたと聞いている。唐がずっと続いているということが別世界なのだが、何故遷都してきたのかも香子は聞いていなかった。なんというか、四神との関係にかまけて歴史を紐解くこともできないでいた。
『これからいろいろ調べたいです』
皇城にいる時間は限られているが、張錦飛に会いたいと香子は思う。
四神に聞いてもいろいろ曖昧なので参考にはならない。
万春亭を出てからは、山を登り下りしてその景色を楽しんだ。
『明日は植物園に行きたいです』
『かしこまりました』
趙と王が拱手した。
『やっぱり、外の空気に触れると違いますね』
玄武の腕の中で、香子は無邪気にそんなことを言う。
『四神宮でも外には出ているだろう?』
『それとはまた違うんですよ。私、いろんなところへ行きたいですし、いろいろ経験してみたいです。もちろん四神も一緒ですよ』
『それならばよい』
機嫌がよかったらしく、今回玄武は香子を抱いたまま普通に四神宮に戻った。香子はよかったと胸を撫で下ろしたが、そのまま玄武の室に連れ込まれそうになり、青龍が止めた。
『玄武兄、これからの時間は我が香子と過ごしとうございます』
『……そうであったか』
玄武はすんなり香子を青龍に渡したが、その背中にはとぼとぼという文字が見えるようだったと香子は思ったのだった。
景山の山頂にある万春亭で、香子は玄武の腕に抱かれたまま昼食を食べることになった。
なんというか、見守っている人が多くて香子は少し落ち着かなかった。
侍女たちが卓に料理を並べていく。それを見ながら、香子は簡単なものでいいと伝えておくべきだったと後悔した。そんな香子の様子に気づいてか、玄武がその頬を撫でる。
『香子』
『はい』
『そなたの優しさは伝わっているはずだ』
香子はこてんと首を傾げた。玄武の言葉の意味がわからなかった。
『香子』
朱雀に手を取られ、口づけられた。香子はそれに少し動揺した。
(け、結婚してるんだもんね。問題ない、問題ない……)
香子は落ち着こうとしたが、その頬は赤く染まっていた。それを侍女や夕玲たちは微笑ましいものを見るように眺める。香子はこんなにも四神に愛されているというのに、いつまで経っても慣れないその様子が侍女たちにとっては悶えポイントだったりする。当然ながらそのことを香子は知らない。
『朱雀様……?』
『そなたは余計なことを考えすぎる。我らのことだけそのかわいい頭に入れておけ』
朱雀は香子をまっすぐに見つめながらそう伝えた。香子は全身が熱くなるのを感じた。
『……そんなこと、できません』
そんなことをしたら、香子は四神なしでは生きていけなくなってしまう。
『朱雀、あまり香子を困らせるな』
『はい』
朱雀はまた香子の手の甲に口づけると、その手をそっと放した。本当に香子は困ってしまった。
もう、どこにいても甘い。甘すぎてとろけてしまいそうだった。
気を取り直して昼食に手をつける。
前菜も主菜もスープもデザートもあり、香子は目を丸くした。
『あの……明日以降ここに来る時は、もっと簡単に食べられるものにしてくれる?』
『お気に召しませんでしたか?』
侍女たちが心配そうな顔をした。
『そうではないの。こんなに運んでくるのはたいへんでしょう? 四神はどうせそれほど食べないから、軽食ぐらいでいいわ』
『では、四神宮に戻られましたら改めてご用意しましょう』
『え……』
侍女たちの目があまりにも輝いていたから、そんなことはしなくていいと香子には言えなかった。
侍女たちは花嫁の世話をしたくてたまらないのだが、それが香子には未だに伝わっていない。香子は自分のことに必死で、未だに自分の立ち位置というものをよく理解していないのだった。
『……おなかいっぱい』
山頂の建物で食べる昼食もおいしかった。食後のお茶を飲み、香子は満足そうに呟いた。
『これからどうしたい?』
『楼台に出たいです』
玄武に聞かれて、香子はそう答えた。
まだ昼ではあるが、楼台からの眺めは最高だった。楼台に上がったのは四神と香子、そして眷属と趙文英、王英明である。
侍女や女官たちが見てよい景色ではないらしい。
(まぁある意味軍事機密だもんねぇ)
香子は皇城を見下ろしながら思った。景山の山頂からは、皇城の配置が一目瞭然である。皇城を攻めようと思うなら、まずこの風景を模写するだろう。今のところそういった者はいないようだが、いつ政権が変わったとしてもおかしくはない。
(四神はこの国を守っているけど、王朝は入れ替わってるんだもんねぇ)
唐になるまでの歴史が元の世界と変わらないということは、隋の前の南北朝時代四神はどうしていたのだろう。
『香子、如何した?』
歴史に思いをはせていてぼうっとしていたらしい。玄武に声をかけられて香子はハッとした。
『いえ、この国の歴史を思い出していました』
『この光景も、そなたにとっては歴史に通じるのか?』
『ええ。だって、ここが都になってから長いのでしょう?』
『……そうやもしれぬな』
唐の都は長安(現在の西安)であったが、北京に遷都してきたと聞いている。唐がずっと続いているということが別世界なのだが、何故遷都してきたのかも香子は聞いていなかった。なんというか、四神との関係にかまけて歴史を紐解くこともできないでいた。
『これからいろいろ調べたいです』
皇城にいる時間は限られているが、張錦飛に会いたいと香子は思う。
四神に聞いてもいろいろ曖昧なので参考にはならない。
万春亭を出てからは、山を登り下りしてその景色を楽しんだ。
『明日は植物園に行きたいです』
『かしこまりました』
趙と王が拱手した。
『やっぱり、外の空気に触れると違いますね』
玄武の腕の中で、香子は無邪気にそんなことを言う。
『四神宮でも外には出ているだろう?』
『それとはまた違うんですよ。私、いろんなところへ行きたいですし、いろいろ経験してみたいです。もちろん四神も一緒ですよ』
『それならばよい』
機嫌がよかったらしく、今回玄武は香子を抱いたまま普通に四神宮に戻った。香子はよかったと胸を撫で下ろしたが、そのまま玄武の室に連れ込まれそうになり、青龍が止めた。
『玄武兄、これからの時間は我が香子と過ごしとうございます』
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玄武はすんなり香子を青龍に渡したが、その背中にはとぼとぼという文字が見えるようだったと香子は思ったのだった。
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