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第4部 四神を愛しなさいと言われました
206.それは独占欲なのでしょうか
大して時間も経っていないのに夕飯を食べられるのかという問いについては、香子はいくらでも食べられると答えられる。
先ほどこれでもかと食べたのに、夕飯を前にしたらまた食べられるというのが香子としては不思議だった。だがそれが人ではなくなった証拠なのだろうと納得したが、だからといってこんなに食べてどうするのだという疑問も生じた。
『……食べた分ってどこへいくんでしょう』
トイレに行かないわけではないが、香子としては不思議でしかたない。
『さてな』
玄武にもわからないようである。
目が覚めて、ごはんを食べて、少し時間を空けて夕飯を食べて、今夜を過ごしたら残りは八日だ。
(明日でもうあと八日かぁ……)
一年と少しの期間であったが、何故か途方もなく長い時間が経ったように香子には感じられた。
今日の夕飯もおいしかった。いろいろな野菜が出てきているらしい。香子は野菜料理が好きだからと、豆苗のニンニク炒めや五目炒めなど野菜がふんだんに使われた料理が出てくる。
『ここを出てからもこんなにおいしい料理が食べられればいいけど……』
香子はついそんなことを呟いてしまった。そして、あ、と口を抑える。四神宮から出ることに少しナーバスになっているせいか、不用意なことを言うことが多いと香子は反省した。
『香子は我が領地の食事は気に入っている様子だったが』
『はい。玄武様のところはあまりここと料理が変わりませんから』
『それならばよかった』
玄武が目を細めて笑む。その表情にノックアウトされそうになり、香子は軽く首を振った。四神の笑顔は香子にとって特に危険である。
『香子、如何した?』
『大したことではありませんのでお気になさらず!』
香子としては気にされても困ってしまう。
『そうか。ではのちほど聞くとしよう』
『うっ……』
それはずるいと、香子は思ったがしかたないことだった。
四神は香子の全てを知っていたいのだから。
夕飯の後は少し食休みをした後、湯あみに向かう。湯に浸かって、香子は自分のおなかを確認しようとした。あれだけ食べたのだからさぞかし膨らんでいるだろうと思ったのだが。
「う……」
豊満な胸のせいで自分の腹の状態が見えない。しかもこの胸、湯に浮かぶのである。
さすが脂肪と香子は思った。
そういえば黒月の豊満な胸も湯にぷかぷか浮いていたことを思い出した。立った時、自分の足元が見えないのは問題である。
胸が大きければいいと思っていたが、やはり限度はある。香子はそっと嘆息した。
侍女に手伝ってもらって身体を洗い、脱衣所に出たら何故か玄武が待っていた。
『玄武様?』
『待ちきれなくてな』
『……待っていてくださらなければ困ります』
湯を浴びた後すぐに玄武に会うことを香子は想定していなかったから、つい口を尖らせてしまった。いわゆる照れ隠しというやつである。
だが玄武は真に受けたようで目を伏せた。
『……すまなかった』
そこで踵を返し浴室から出ようとした玄武だったが、黒月に無理矢理引き戻されてしまう。
『玄武様、しっかりなさってください。花嫁様もそのような物言いをするものではありません』
黒月にぴしゃりと言われて、香子は目を丸くした。侍女たちが慌てて香子を拭いていく。
『少々お待ちください』
侍女たちが急いで香子の身支度を終え、『お待たせしました!』と香子を玄武に差し出した。香子はその早業に目を丸くした。
玄武も一瞬目を見開いたが、すぐに香子を愛しくてならないというように抱き上げた。
『わっ……!』
『もらっていく』
侍女たちがキラキラした瞳で礼をし、玄武と香子を送り出した。その背を黒月が満足そうに見送る。
黒月は少し離れて玄武が己の室に香子を運ぶのを見届けてから、軽く頷いた。
黒月にとって香子は守護する大事な人だが、玄武は己の神である。黒月が玄武と香子をくっつけたいのは当然と言えた。
『ずるいわね』
そんな黒月に声がかかった。その存在が近づいてきていたことを黒月は気づいていた。
『何がずるい』
『妾は花嫁様には是非青龍様と一緒になっていただきたいわ』
『……そのようなこと』
延夕玲だった。夕玲は青藍に口説かれている。四神の眷属は己の”つがい”を決して逃がさない。夕玲が青藍に嫁ぐのは時間の問題だった。
黒月はそれを鼻で笑った。
青龍と黒月は最初のうち香子の印象が最悪だったのだ。それはすぐに解消されたとはいえ、青龍が玄武にかなうことはないだろうと黒月は確信している。
『あら、まだわからないわよ?』
夕玲はふふ、と笑んだ。黒月は眉を寄せる。
香子の知らないところで、彼女たちはそうしてバチバチとやりあっている。
『ほら、朱雀様もいらしたわ』
夕玲が楽しそうに言う。黒月は途端に不機嫌になった。
朱雀は迷わずまっすぐ玄武の室に入っていく。その時、朱雀は黒月を一瞥した。
黒月は唇を嚙みしめたのだった。
玄武の室に運ばれた香子はそのまま寝室に連れていかれ、床にそっと降ろされた。
『玄武さま……』
『片時もそなたを離したくない』
香子はそっと胸を手で押さえた。こんな風に求められたら、想いが溢れてしまう。
『玄武様のことは好きですが……』
『今は言わぬのだったな?』
『はい……』
『わかっている』
香子は少し笑いたくなった。
『玄武兄』
『そなたは少し遠慮するがいい』
寝室に入ってきた朱雀に玄武が声をかける。
『できませぬな』
香子は玄武の首に腕を絡めた。今は香子だけを見る時間だから。
ーーーーー
エールとっても嬉しいです。ありがとうございまーす!
いいねもありがとうございます!
小ネタ:
侍女たちの会話
「黒月様と主官の趙様って……」
「あ、やっぱり?」
「趙様の方が絶対ご執心よね」
「黒月様って確か未成年って伺ったのだけど」
「うそっ!?」
青藍「……噂話はよろしくないな」
「「「「「申し訳ありませんっっ!!」」」」」
侍女たちは逃げていった。
それを青藍は見送ると、どうしたものかと首を軽く傾げた。
恋愛は自由だが、黒月が未成年ということが眷属としてはネックだった。
先ほどこれでもかと食べたのに、夕飯を前にしたらまた食べられるというのが香子としては不思議だった。だがそれが人ではなくなった証拠なのだろうと納得したが、だからといってこんなに食べてどうするのだという疑問も生じた。
『……食べた分ってどこへいくんでしょう』
トイレに行かないわけではないが、香子としては不思議でしかたない。
『さてな』
玄武にもわからないようである。
目が覚めて、ごはんを食べて、少し時間を空けて夕飯を食べて、今夜を過ごしたら残りは八日だ。
(明日でもうあと八日かぁ……)
一年と少しの期間であったが、何故か途方もなく長い時間が経ったように香子には感じられた。
今日の夕飯もおいしかった。いろいろな野菜が出てきているらしい。香子は野菜料理が好きだからと、豆苗のニンニク炒めや五目炒めなど野菜がふんだんに使われた料理が出てくる。
『ここを出てからもこんなにおいしい料理が食べられればいいけど……』
香子はついそんなことを呟いてしまった。そして、あ、と口を抑える。四神宮から出ることに少しナーバスになっているせいか、不用意なことを言うことが多いと香子は反省した。
『香子は我が領地の食事は気に入っている様子だったが』
『はい。玄武様のところはあまりここと料理が変わりませんから』
『それならばよかった』
玄武が目を細めて笑む。その表情にノックアウトされそうになり、香子は軽く首を振った。四神の笑顔は香子にとって特に危険である。
『香子、如何した?』
『大したことではありませんのでお気になさらず!』
香子としては気にされても困ってしまう。
『そうか。ではのちほど聞くとしよう』
『うっ……』
それはずるいと、香子は思ったがしかたないことだった。
四神は香子の全てを知っていたいのだから。
夕飯の後は少し食休みをした後、湯あみに向かう。湯に浸かって、香子は自分のおなかを確認しようとした。あれだけ食べたのだからさぞかし膨らんでいるだろうと思ったのだが。
「う……」
豊満な胸のせいで自分の腹の状態が見えない。しかもこの胸、湯に浮かぶのである。
さすが脂肪と香子は思った。
そういえば黒月の豊満な胸も湯にぷかぷか浮いていたことを思い出した。立った時、自分の足元が見えないのは問題である。
胸が大きければいいと思っていたが、やはり限度はある。香子はそっと嘆息した。
侍女に手伝ってもらって身体を洗い、脱衣所に出たら何故か玄武が待っていた。
『玄武様?』
『待ちきれなくてな』
『……待っていてくださらなければ困ります』
湯を浴びた後すぐに玄武に会うことを香子は想定していなかったから、つい口を尖らせてしまった。いわゆる照れ隠しというやつである。
だが玄武は真に受けたようで目を伏せた。
『……すまなかった』
そこで踵を返し浴室から出ようとした玄武だったが、黒月に無理矢理引き戻されてしまう。
『玄武様、しっかりなさってください。花嫁様もそのような物言いをするものではありません』
黒月にぴしゃりと言われて、香子は目を丸くした。侍女たちが慌てて香子を拭いていく。
『少々お待ちください』
侍女たちが急いで香子の身支度を終え、『お待たせしました!』と香子を玄武に差し出した。香子はその早業に目を丸くした。
玄武も一瞬目を見開いたが、すぐに香子を愛しくてならないというように抱き上げた。
『わっ……!』
『もらっていく』
侍女たちがキラキラした瞳で礼をし、玄武と香子を送り出した。その背を黒月が満足そうに見送る。
黒月は少し離れて玄武が己の室に香子を運ぶのを見届けてから、軽く頷いた。
黒月にとって香子は守護する大事な人だが、玄武は己の神である。黒月が玄武と香子をくっつけたいのは当然と言えた。
『ずるいわね』
そんな黒月に声がかかった。その存在が近づいてきていたことを黒月は気づいていた。
『何がずるい』
『妾は花嫁様には是非青龍様と一緒になっていただきたいわ』
『……そのようなこと』
延夕玲だった。夕玲は青藍に口説かれている。四神の眷属は己の”つがい”を決して逃がさない。夕玲が青藍に嫁ぐのは時間の問題だった。
黒月はそれを鼻で笑った。
青龍と黒月は最初のうち香子の印象が最悪だったのだ。それはすぐに解消されたとはいえ、青龍が玄武にかなうことはないだろうと黒月は確信している。
『あら、まだわからないわよ?』
夕玲はふふ、と笑んだ。黒月は眉を寄せる。
香子の知らないところで、彼女たちはそうしてバチバチとやりあっている。
『ほら、朱雀様もいらしたわ』
夕玲が楽しそうに言う。黒月は途端に不機嫌になった。
朱雀は迷わずまっすぐ玄武の室に入っていく。その時、朱雀は黒月を一瞥した。
黒月は唇を嚙みしめたのだった。
玄武の室に運ばれた香子はそのまま寝室に連れていかれ、床にそっと降ろされた。
『玄武さま……』
『片時もそなたを離したくない』
香子はそっと胸を手で押さえた。こんな風に求められたら、想いが溢れてしまう。
『玄武様のことは好きですが……』
『今は言わぬのだったな?』
『はい……』
『わかっている』
香子は少し笑いたくなった。
『玄武兄』
『そなたは少し遠慮するがいい』
寝室に入ってきた朱雀に玄武が声をかける。
『できませぬな』
香子は玄武の首に腕を絡めた。今は香子だけを見る時間だから。
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「黒月様と主官の趙様って……」
「あ、やっぱり?」
「趙様の方が絶対ご執心よね」
「黒月様って確か未成年って伺ったのだけど」
「うそっ!?」
青藍「……噂話はよろしくないな」
「「「「「申し訳ありませんっっ!!」」」」」
侍女たちは逃げていった。
それを青藍は見送ると、どうしたものかと首を軽く傾げた。
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