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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
139.お茶にはとてもうるさいのです
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お茶がおいしすぎて、皇太后に延夕玲と青藍の件を話すのを忘れていた。正直香子自身にも意味がわからない。張錦飛にはまた別に聞きたいことがあったのだがお茶があまりにおいしすぎて全て吹っ飛んでしまった。やっぱり意味がわからなかった。
(おいしすぎるお茶……危険……)
すぎる、というのはよくない表現ではあるがもう、そうとしか言いようがない。
「あああああ~~この茶の色といい味といいもうたまらない~~~」
白虎の室で正直に悶えていたら目を丸くされた。引かれただろうかと座り直すと、
『そなたは好きなものが多いな』
と言われた。香子はじっと白虎を見る。他意はかけらほどもなさそうだった。
いや、白虎は心からそう思っているのだろう。四神は香子には正直で誠実である。
『ええ、はい。私この国そのものが好きなんですよ。料理もお茶もおいしいし、歴史は興味深いし、史跡も見たいですし。衣装も漢字も……元の世界で触れた人々はみんないい人たちばかりでしたから』
香子は視線をスッと上げて遠くを見る。それはもう届かないなにかに向けられていたのかもしれなかった。
よくよく記憶を探ってみればみんながみんないい人ではなかった。でも幸いなことに、中国で悪人に遭ったことはなかった。みんな一生懸命に生きていたと香子は思う。上の者たちの思惑がどうであれ、香子は中国がたまらなく好きなのだ。
(でも別に、前世が中国人かもとは思わなかったな)
そもそも前世があるのかどうかすらわからない。そしてそれを知りたいとも思わなかった。知らなくていいことは知らないままでいいのだ。
おいしいお茶を飲んで、四神とだらだらごろごろ過ごす日々が続いていくのだと思っていたのだが、また何かあったらしい。四神宮の主官である趙文英に面会を求められたので謁見の間へ向かった。
謁見の間には王英明もいた。香子に関係する件とは聞いていたがみな心配したらしく四神も勢揃いである。それに加えて黒月、白雲、延夕玲、青藍まで着いてきている。ある程度広いはずの謁見の間がとても狭く感じられた。
心配性どもめ、と香子は思ったが口には出さない。出したら大惨事である。うかつなことは言えなかった。
香子は内容を知らされていなかったが、白雲を通して四神はすでにどういう話か知っているようである。何故当事者である香子に知らされるのが最後なのか小一時間問い詰めたい。
目の前で平伏している趙と王を立たせる。基本彼らと口を利くのは白雲だ。
『この度はお時間をいただきありがとうございます』
『口上はよい。伝えよ』
『唯(はい)』
王が『では私からお話させていただきます』と前置きして今回の面会の理由について話した。
発端は先日香子が皇太后のところで飲んだお茶だった。件の商人は元々王宮の御用達だったが香子を近くで見たのは初めてだった。皇太后が香子の一声で扱っているお茶を購入したことから、四神の花嫁は本当にいいものをわかっていると香子を絶賛したそうなのだ。それを聞いた別の商人たちも香子に是非うちの商品を見てもらいたいということで、現在中書省に問い合わせが殺到しているらしい。
元々四神宮は贈物で食品の類は受け取らないことになっている。それは茶葉も同様である。故に高級な果物や茶葉を扱っている商人は四神特需の恩恵を受けられないでいた。故にこれを機に! としつこくせっつかれているのだという。
香子は深く嘆息した。白雲を通すのは面倒なので直接話すことにする。
『果物はあまり興味がありません』
『承知いたしました』
『茶葉については……そんなに自信があるのかしら?』
香子は玄武の腕の中で首を傾げる。
『老佛爷のところでいただいたお茶は確かに極上のものでした。ですが緑茶はこちらで出されるもので満足していますし、烏龍茶については私本当にうるさいのです』
ここで一拍置く。
『もし自信を持って持ってこられたとして、少しでもお茶に渋味が感じられたら私激怒すると思います。そうならないという自信が彼らにあるのかしら?』
『……そのように伝えさせていただきます』
『こちらに直接顔を出すよりも、他の皇族の方に飲んでいただくのが先ではないかしら。間接的に飲ませていただいて、欲しくなったらその方を通じて購入することがあるかもしれないわ』
そう言って『戻ります』と玄武に伝えた。話は終りだ。ここに商人を呼ぶなどとんでもない。
『花嫁さま、貴重なお時間をいただき誠にありがとうございました』
王と趙の礼にひらひらと手を振る。
人の欲とは果てしない。香子だって他のお茶を飲みたいとは思うが、香子自身は一銭も持っていない。もちろん四神の花嫁には潤沢な予算が用意されていることは知っている。だがそれはこの国の民からの血税なのだ。皇族や貴族にはある程度金を使う義務があるが香子にそんな義務はない。
『本当は他のお茶も欲しいのではないか』
『十分おいしいお茶を毎日いただいていますから。これ以上を求めたら罰が当たりますよ』
『我らは咎めぬぞ』
『玄武さまたちは私に甘すぎです』
香子は笑った。
そういえば罰を当てるであろう神はここにいたのだった。
(おいしすぎるお茶……危険……)
すぎる、というのはよくない表現ではあるがもう、そうとしか言いようがない。
「あああああ~~この茶の色といい味といいもうたまらない~~~」
白虎の室で正直に悶えていたら目を丸くされた。引かれただろうかと座り直すと、
『そなたは好きなものが多いな』
と言われた。香子はじっと白虎を見る。他意はかけらほどもなさそうだった。
いや、白虎は心からそう思っているのだろう。四神は香子には正直で誠実である。
『ええ、はい。私この国そのものが好きなんですよ。料理もお茶もおいしいし、歴史は興味深いし、史跡も見たいですし。衣装も漢字も……元の世界で触れた人々はみんないい人たちばかりでしたから』
香子は視線をスッと上げて遠くを見る。それはもう届かないなにかに向けられていたのかもしれなかった。
よくよく記憶を探ってみればみんながみんないい人ではなかった。でも幸いなことに、中国で悪人に遭ったことはなかった。みんな一生懸命に生きていたと香子は思う。上の者たちの思惑がどうであれ、香子は中国がたまらなく好きなのだ。
(でも別に、前世が中国人かもとは思わなかったな)
そもそも前世があるのかどうかすらわからない。そしてそれを知りたいとも思わなかった。知らなくていいことは知らないままでいいのだ。
おいしいお茶を飲んで、四神とだらだらごろごろ過ごす日々が続いていくのだと思っていたのだが、また何かあったらしい。四神宮の主官である趙文英に面会を求められたので謁見の間へ向かった。
謁見の間には王英明もいた。香子に関係する件とは聞いていたがみな心配したらしく四神も勢揃いである。それに加えて黒月、白雲、延夕玲、青藍まで着いてきている。ある程度広いはずの謁見の間がとても狭く感じられた。
心配性どもめ、と香子は思ったが口には出さない。出したら大惨事である。うかつなことは言えなかった。
香子は内容を知らされていなかったが、白雲を通して四神はすでにどういう話か知っているようである。何故当事者である香子に知らされるのが最後なのか小一時間問い詰めたい。
目の前で平伏している趙と王を立たせる。基本彼らと口を利くのは白雲だ。
『この度はお時間をいただきありがとうございます』
『口上はよい。伝えよ』
『唯(はい)』
王が『では私からお話させていただきます』と前置きして今回の面会の理由について話した。
発端は先日香子が皇太后のところで飲んだお茶だった。件の商人は元々王宮の御用達だったが香子を近くで見たのは初めてだった。皇太后が香子の一声で扱っているお茶を購入したことから、四神の花嫁は本当にいいものをわかっていると香子を絶賛したそうなのだ。それを聞いた別の商人たちも香子に是非うちの商品を見てもらいたいということで、現在中書省に問い合わせが殺到しているらしい。
元々四神宮は贈物で食品の類は受け取らないことになっている。それは茶葉も同様である。故に高級な果物や茶葉を扱っている商人は四神特需の恩恵を受けられないでいた。故にこれを機に! としつこくせっつかれているのだという。
香子は深く嘆息した。白雲を通すのは面倒なので直接話すことにする。
『果物はあまり興味がありません』
『承知いたしました』
『茶葉については……そんなに自信があるのかしら?』
香子は玄武の腕の中で首を傾げる。
『老佛爷のところでいただいたお茶は確かに極上のものでした。ですが緑茶はこちらで出されるもので満足していますし、烏龍茶については私本当にうるさいのです』
ここで一拍置く。
『もし自信を持って持ってこられたとして、少しでもお茶に渋味が感じられたら私激怒すると思います。そうならないという自信が彼らにあるのかしら?』
『……そのように伝えさせていただきます』
『こちらに直接顔を出すよりも、他の皇族の方に飲んでいただくのが先ではないかしら。間接的に飲ませていただいて、欲しくなったらその方を通じて購入することがあるかもしれないわ』
そう言って『戻ります』と玄武に伝えた。話は終りだ。ここに商人を呼ぶなどとんでもない。
『花嫁さま、貴重なお時間をいただき誠にありがとうございました』
王と趙の礼にひらひらと手を振る。
人の欲とは果てしない。香子だって他のお茶を飲みたいとは思うが、香子自身は一銭も持っていない。もちろん四神の花嫁には潤沢な予算が用意されていることは知っている。だがそれはこの国の民からの血税なのだ。皇族や貴族にはある程度金を使う義務があるが香子にそんな義務はない。
『本当は他のお茶も欲しいのではないか』
『十分おいしいお茶を毎日いただいていますから。これ以上を求めたら罰が当たりますよ』
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『玄武さまたちは私に甘すぎです』
香子は笑った。
そういえば罰を当てるであろう神はここにいたのだった。
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