異世界で四神と結婚しろと言われました

浅葱

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第3部 周りと仲良くしろと言われました

5.一人で過ごしたいと思ったのです

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 正直、その日の夜は玄武、朱雀と過ごしたくなかった。かといって青龍と過ごせば丸一日ベッドの中から出られないだろう。もちろん白虎と過ごすなんていうのは論外だった。
 それでも香子が一人で過ごす夜があってもいいのではないかと香子は思うのだ。

(黒月さんと過ごすのはダメなのかな。やっぱり四神の誰かじゃないとダメ?)

 夕食の後茶室でお茶を淹れ、それを啜りながら香子は眉を寄せた。香子が部屋で一人過ごそうと思っても必ず四神の誰かが来てしまうから、夜は一人にはなれないとは言われている。黒月とガールズトーク? をしたいと思っても四神の誰かが来れば黒月は遠慮するだろう。となると本当に一人になる方法はないのだろうか。

香子シャンズ、如何した?』

 柔らかく玄武に尋ねられた。

『いえ……』

 なんでもないと言おうとして香子は口ごもった。なんでもなくはない。香子は不満なのだ。

『あのぅ……私今夜は一人で眠りたいんです』
『……それで?』

 朱雀のテナーが耳をくすぐる。なんか怖い。

『でももしかしたら夜中寂しくなるかもしれません。そうしたらどなたかの室にお伺いしてもいいですか?』

 これで一晩ぐらい一人にしてはくれないものだろうか。実のところ香子はものすごく寝つきがいい。布団に入ってすぐぐらいに寝てしまうのだが、それを四神は知らないはずである。二度とは使えない手法だろうが、今夜は本当に一人になりたかった。

『香子……寂しくなって来るのはかまわぬが、ただ寝るだけでは済まないということはわかっているな?』
『っ……! ……はい』

 品茗杯を呷り、玄武がそう言う。その色を含んだバリトンに香子は息を飲む。

(行かないっ! 行かないからっ!)

 それはどの室へ行ったとしても同じだろう。だが香子は平穏な夜が欲しいのだ。ごくごくたまに、ただ一人で過ごす夜があってもいいではないか。香子は頬を染めたまま玄武を見つめ返した。
 玄武の緑の瞳が香子を見つめる。二人はそのまましばし見つめ合った。
 香子は頬がどんどん熱くなるのを感じたが、根負けしてはいけないと睨むように玄武の瞳を見続ける。玄武がほんの少しだけ口元を緩める。その変化を香子は見逃さなかった。

『……今宵だけだ』
『約束してください』

 そうでなければ安心できない。香子はずっと一人になる時間が欲しいと言い続けてきたのだ。それを四神は拒んできた。彼らにも言い分はあるだろうが、今夜だけは嫌だった。

『何故一人になりたいと望むのか』
『それは私が……いえ、私の心が人だからです』

 香子の身体はもう人ではない。それを理解しているから香子は言い直した。

『四神のことは好きです。でもだからと言って、常に共にいたいわけではないのです。私はこれからずっとどなたかと過ごすのでしょう? ならば一晩ぐらい一人にしてくれてもいいのではないでしょうか?』
『……我らにはわからぬ感情だ』
『四神に理解できるとは思いません。理解しなくてもかまわないので、一人になる時間をください』

 香子は四神を見回した。彼らは一様に釈然としない表情をしていた。黒月を見る。彼女もなんともいえない表情だをしていた。香子に玄武と過ごしてはほしいが、香子の言い分にも一理あるというところだろうか。なんにせよここまで言ったのだ。香子としても今夜だけは譲る気はなかった。

『……私を愛しいと、唯一無二だと言いながら私の望みは叶えてくれないのですね……』

 こんなことは言いたくなかった。香子は大それた望みを口にしたわけではない。たった一晩一人にしてほしいと言っただけなのに。
 なんとも情けなく、悔しくて香子の目から涙がぽつりと落ちた。はっとしたように玄武が己の腕の中に香子を捕らえる。
 そうではない。そうではないのだ。

『……どうしても、どうしても一人でなければいけないのか。ここは我らの領地ではない。せめて同じ部屋にいることを許してはくれないか』
『……どなたかの領地に行ったら、一人にしてくれるのですか?』
『そなたの部屋を用意しよう。部屋の中だけならば、たまには……』

 四神の不安が伝わってきた。
 四神宮は、四神にとって休める場所ではないのだということがわかった。

『では、どなたかが私の部屋の居間で過ごすようにしてくださればいいのではないですか。今宵に関してはこれ以上は譲れません』

 四神を居間で寝せるなどとんでもない話かもしれない。だがもう香子は引き下がれなかった。

『香子、そなたが寂しくなったら呼んでくれるのか?』
『っっ!! ……ええ、たぶん』

 きっと落ち着かないから声をかけてしまうのだろうなと香子は思う。今玄武の腕の中から出ないように、おそらく自分から囚われにいってしまうのだろう。
 そんなことを言い合っていたら、白虎への怒りなど霧散してしまった。
 そうしてもう、何を一人で考えようとしたのかすら忘れてしまったのだった。
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