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第3部 周りと仲良くしろと言われました
37.中秋節といったら月餅だと思うのです
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ごまのクッキーもおいしかった。香子はこの喉が渇くような固さのクッキーが好きなのである。お茶がよく進む。
(こんなに食べてても夕飯はおいしく食べられるんだよね)
不思議だなぁと思いながらおいしいお茶を飲んでお茶菓子を食べるのは至福だった。
皇帝は用件だけ告げると、戻って行った。本当に秋の大祭のことを頼みに来ただけらしい。一国の、しかも大国の皇帝である。細かいことは役人たちが決めていくのだろうが決裁文書だけで膨大な量だろう。それを宰相や重鎮たちと共に処理していくのだからたいへんだ。この国の全てが皇帝の肩にかかっている状態というのはどんな気持ちなのだろうと香子は考えたが、想像もつかなかったのですぐやめてしまった。
『秋の大祭に出ていただけるとは、これほど喜ばしいことはございません。ちょうどよいものが届きましたのでいただきましょうぞ』
皇太后が女官を促した。何やら立派な箱が出てきて、香子は目を丸くした。上蓋を開けて見せられたのは、月餅だった。
『わぁ……月餅!』
一つ一つ模様が違う物が箱の中に並べられているのを見て、香子は目を輝かせた。
『花嫁様、どうぞ』
自分から選んでもいいのだろうかと白虎や玄武を窺うと頷かれた。皇太后が促してくれたので、恐れ多いとは思ったが香子はまじまじと月餅を見つめた。
『では、こちらを……』
香子が手のひらで指し示した月餅を女官が皿に移してくれた。みなの皿にいきわたってから食べ始める。配られた月餅は全て一人で食べられるような小さめのサイズで、直径が4cmほどではないかと香子には思われた。切り分けてもらって食べた月餅はなんとも上品な味わいである。香子が選んだものには胡桃が入っていた。
『この時期は月餅ですよね……おいしい』
『そういえば花嫁様は卵が入ったものは苦手と伺ったが……』
『ええ、食べたいとは思わないですね』
『あれはあれでなかなかおいしいものじゃがのう』
『好みの違いです』
留学していた頃を香子は思い出す。
大陸ではこの時期になると会う人会う人から月餅をもらっていたが、その中に卵の黄身が入っていたものがあった。月を表しているのだなということはわかったが、香子の口には合わなかった。それからは自分で買うものなども材料名を確認するなど慎重になったが、それでも毎年中秋となると月餅を買って食べた。月見、というよりもう月餅を食べることが目的になっていたなと香子は懐かしく思った。
『秋の大祭って月餅は出ないんですか?』
香子は疑問に思って聞いてみた。女官が答えた。
『恐れながら、晩餐会の他に茶会がございます』
そこで月餅が振舞われるらしい。
『茶会ってどんな方々が出席されるんですか?』
その質問には皇后が答えた。
『皇上主催となりますので、妾も出席します。他に各国の国王や大使なども出席します』
なんとも堅苦しい茶会だと香子は肩を竦めた。皇后はにっこりしている。
『是非花嫁様にも出席していただきたいものですわ』
香子はう、とつまった。女性の申し出には弱いのだ。
『ほ、他に女性などは……』
『王妃を伴って出席される方もいらっしゃるとか。あとは公主を伴われる王もいらっしゃるとは聞いています』
『そうですか……』
晩餐会には出ないで茶会に出るというのはありなのだろうかと香子は考える。そもそも晩餐会と茶会の顔ぶれは違うのだろうかという問題もある。
『確か、行程などをいただけるのですよね? そちらを見せてもらってから判断してもよろしいですか?』
『はい、よい返事を期待しておりますわ』
皇后がちょっと強かになった。いい傾向だと香子は思う。お茶もおいしかったし、お茶菓子も月餅もおいしかった。そろそろだろうと香子が思ったところでお開きになった。
『花嫁様はとてもお優しい。もう少しご自身のことを中心に据えてもよろしいのではないかと思いますぞ』
『そうでしょうか? 老仏爺、本日はありがとうございました』
香子は言われるほど自分が優しいとは思っていない。だから皇太后の忠告は不思議だった。だが相手は香子よりも三倍ぐらい長く生きている老人である。気には留めておこうと思った。
(長生きしててもあまり考えが及ばない人もいるけど……)
人ではないが四神とか、と香子は非常に失礼なことを思った。四阿を辞して御花園から出ると、白虎は香子を玄武に渡した。
『玄武兄、どうぞ』
『うむ。先に戻る』
玄武がそう言った途端目の前の景色が瞬時に変わった。相変わらずちょっと心臓に悪いと香子は思う。でも一声かけただけ進歩したなとも思った。
『香子……』
『玄武様……』
お菓子も、月餅も食べたし、お茶もいっぱい飲んだから大丈夫だと香子は思う。でもできれば夕飯は食べさせてもらいたいなとも思った。
『玄武様、あのぅ……』
『なにか?』
玄武の室の床にそっと下ろされて、香子は慌てて口を開いた。
『夕飯はいただきたいので、お願いしますね?』
玄武は一瞬きょとんとした後、ククッと笑った。
(玄武様が笑ったー)
好きだと、香子は思う。
『そうだな。香子は食事が楽しみなのだった。夕食時には呼びにくるよう言っておこう』
『ありがとうございます』
なんとも色気のないやりとりである。
が、次の瞬間玄武の雰囲気が変わった。
(ああ……)
香子は胸を押さえる。
まだ昼間なのに、と思ったが逆らえない。香子はおずおずと玄武の頬に触れる。そうして二人の唇が重なった。
(こんなに食べてても夕飯はおいしく食べられるんだよね)
不思議だなぁと思いながらおいしいお茶を飲んでお茶菓子を食べるのは至福だった。
皇帝は用件だけ告げると、戻って行った。本当に秋の大祭のことを頼みに来ただけらしい。一国の、しかも大国の皇帝である。細かいことは役人たちが決めていくのだろうが決裁文書だけで膨大な量だろう。それを宰相や重鎮たちと共に処理していくのだからたいへんだ。この国の全てが皇帝の肩にかかっている状態というのはどんな気持ちなのだろうと香子は考えたが、想像もつかなかったのですぐやめてしまった。
『秋の大祭に出ていただけるとは、これほど喜ばしいことはございません。ちょうどよいものが届きましたのでいただきましょうぞ』
皇太后が女官を促した。何やら立派な箱が出てきて、香子は目を丸くした。上蓋を開けて見せられたのは、月餅だった。
『わぁ……月餅!』
一つ一つ模様が違う物が箱の中に並べられているのを見て、香子は目を輝かせた。
『花嫁様、どうぞ』
自分から選んでもいいのだろうかと白虎や玄武を窺うと頷かれた。皇太后が促してくれたので、恐れ多いとは思ったが香子はまじまじと月餅を見つめた。
『では、こちらを……』
香子が手のひらで指し示した月餅を女官が皿に移してくれた。みなの皿にいきわたってから食べ始める。配られた月餅は全て一人で食べられるような小さめのサイズで、直径が4cmほどではないかと香子には思われた。切り分けてもらって食べた月餅はなんとも上品な味わいである。香子が選んだものには胡桃が入っていた。
『この時期は月餅ですよね……おいしい』
『そういえば花嫁様は卵が入ったものは苦手と伺ったが……』
『ええ、食べたいとは思わないですね』
『あれはあれでなかなかおいしいものじゃがのう』
『好みの違いです』
留学していた頃を香子は思い出す。
大陸ではこの時期になると会う人会う人から月餅をもらっていたが、その中に卵の黄身が入っていたものがあった。月を表しているのだなということはわかったが、香子の口には合わなかった。それからは自分で買うものなども材料名を確認するなど慎重になったが、それでも毎年中秋となると月餅を買って食べた。月見、というよりもう月餅を食べることが目的になっていたなと香子は懐かしく思った。
『秋の大祭って月餅は出ないんですか?』
香子は疑問に思って聞いてみた。女官が答えた。
『恐れながら、晩餐会の他に茶会がございます』
そこで月餅が振舞われるらしい。
『茶会ってどんな方々が出席されるんですか?』
その質問には皇后が答えた。
『皇上主催となりますので、妾も出席します。他に各国の国王や大使なども出席します』
なんとも堅苦しい茶会だと香子は肩を竦めた。皇后はにっこりしている。
『是非花嫁様にも出席していただきたいものですわ』
香子はう、とつまった。女性の申し出には弱いのだ。
『ほ、他に女性などは……』
『王妃を伴って出席される方もいらっしゃるとか。あとは公主を伴われる王もいらっしゃるとは聞いています』
『そうですか……』
晩餐会には出ないで茶会に出るというのはありなのだろうかと香子は考える。そもそも晩餐会と茶会の顔ぶれは違うのだろうかという問題もある。
『確か、行程などをいただけるのですよね? そちらを見せてもらってから判断してもよろしいですか?』
『はい、よい返事を期待しておりますわ』
皇后がちょっと強かになった。いい傾向だと香子は思う。お茶もおいしかったし、お茶菓子も月餅もおいしかった。そろそろだろうと香子が思ったところでお開きになった。
『花嫁様はとてもお優しい。もう少しご自身のことを中心に据えてもよろしいのではないかと思いますぞ』
『そうでしょうか? 老仏爺、本日はありがとうございました』
香子は言われるほど自分が優しいとは思っていない。だから皇太后の忠告は不思議だった。だが相手は香子よりも三倍ぐらい長く生きている老人である。気には留めておこうと思った。
(長生きしててもあまり考えが及ばない人もいるけど……)
人ではないが四神とか、と香子は非常に失礼なことを思った。四阿を辞して御花園から出ると、白虎は香子を玄武に渡した。
『玄武兄、どうぞ』
『うむ。先に戻る』
玄武がそう言った途端目の前の景色が瞬時に変わった。相変わらずちょっと心臓に悪いと香子は思う。でも一声かけただけ進歩したなとも思った。
『香子……』
『玄武様……』
お菓子も、月餅も食べたし、お茶もいっぱい飲んだから大丈夫だと香子は思う。でもできれば夕飯は食べさせてもらいたいなとも思った。
『玄武様、あのぅ……』
『なにか?』
玄武の室の床にそっと下ろされて、香子は慌てて口を開いた。
『夕飯はいただきたいので、お願いしますね?』
玄武は一瞬きょとんとした後、ククッと笑った。
(玄武様が笑ったー)
好きだと、香子は思う。
『そうだな。香子は食事が楽しみなのだった。夕食時には呼びにくるよう言っておこう』
『ありがとうございます』
なんとも色気のないやりとりである。
が、次の瞬間玄武の雰囲気が変わった。
(ああ……)
香子は胸を押さえる。
まだ昼間なのに、と思ったが逆らえない。香子はおずおずと玄武の頬に触れる。そうして二人の唇が重なった。
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