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第3部 周りと仲良くしろと言われました
52.どんな格好をしても四神は美しいと思うのです
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給仕の者たちが内心右往左往してかわいそうだと香子は思ったので、遠くにある皿を四神に渡すよう指示したりしていた。こういう指示は本来女官が行うことだが、香子付きの女官である延夕玲は皇太后のところへ出向している。眷属は基本こういう時は全く役に立たないので香子が声をかけるしかないのだった。給仕に料理の載った皿をうやうやしく渡された白虎が、料理を香子の皿に取り分けてくれる。それだけで香子は幸せだった。
一通り料理を食べたところで、香子は真ん中で踊っている女性たちに目を向けた。どうやら月にまつわる踊りをしてくれているらしい。純粋にキレイだなと思った。
指先の動きや、腰の動きがなんとも美しい。そしてすごく身体が柔らかい。香子はかつて上海雑技団を見に行ったことがある。その時は踊りとかというより、その身体の柔らかさに戦慄を覚えたようだった。
日が陰ってきた。もう少し暗くなれば香子たちは移動しなければならない。前門に上って大唐の民衆に顔を見せるだけだが、それが重要なのだと香子は思う。今まで四神は大唐の守り神として存在していたが、ほとんどその姿を目にした者はいなかった。春節の際も四神は直接四神宮に飛んでくるという。さすがにそれはどうかと香子は思った。せっかく人の世にいるのだから、四神の姿をある程度は見せないともったいないと香子は思うのだ。姿を見せることで信仰は固まる。それは大唐の存続にも寄与するはずだと香子は考えていた。
『あれは……”嫦娥奔月”でしょうか』
女性と男性が踊っているのを見て、香子は一人で月に上ってヒキガエルになった仙女を想像した。
『そうかもしれぬな』
『あれってあくまで物語なんですか?』
『五帝が一人帝俊の娘か。不老不死の霊薬を煽って月に上ったと聞いたことがあるがその後は知らぬ』
『そうなんですね……』
(本当に上ったんだ)
香子は感心した。とはいえ元の世界ではあくまで神話である。それが本当であったとしても元の世界では確認するすべはない。
(仙女じゃあ例え月にいたとしても見つからない気がするなぁ。でも月は寂しすぎたから下界に下りたみたいな話も聞いたことがあるけどどうなんだろう)
そこらへん、香子は自分で想像することにした。
声をかけられて、もうそんな時間かと移動することとなった。もちろんまた着替えをしなければならない。この着替えというのが面倒だと、香子は内心げんなりした。
(まぁでも、王様たちに声をかけられなくてよかった)
そこは皇帝もうまくやったようだった。
香子の衣裳は目立つようにと白地に白い糸で白虎が縫われている長袍がメインである。光沢のある絹にところどころ金が混じる上品なものだ。
(白地に白い糸で白虎様って、地味だけど近くで見ると美しいなぁ……)
香子は着替えさせられた衣裳を見てうっとりと息を吐いた。もちろん内側の衫と裙も着替えている。そんな香子の着替えを手伝った侍女たちは悶えそうになるのを必死にこらえていた。四神全てに抱かれた香子から危うさはもう感じられないが、抱かれていることで漂う色気はまた別の話である。肌は真っ白く瑞々しい。胸も以前に比べると大きくなっているように見える。髪の色が暗紫紅色でなければ月の女神を想像したかもしれない。香子の容姿はすでに人を離れた美しさを感じさせるようになっていたが、当の本人は全く気づいていなかった。
(ああああ緊張するうううう……)
できるだけ顔に出さないようにしているが、香子の内心はこんなものである。大学を卒業したばかりの庶民が前門の楼台から民衆を見下ろすなんてどういうことだと香子は思う。
(私は四神の添え物、四神の添え物……)
そう思わないととてもやってられなかった。
『何を着てもそなたは美しい』
白虎が迎えにくるなりそう香子に言った。白虎の衣裳もまた変わっていた。薄い黄色がかった長袍には白い糸で白虎が刺繍されている。まんまだなと香子は思った。
『……そんなことは、ないですよ? 白虎様はいつも素敵です』
香子ははにかんだ。白虎がそんな香子を抱き上げる。
『このまま……そなたを連れて戻りたいが、よいか?』
『……だめに決まってるじゃないですか。楼台から挨拶したらまたごはんですよ。終ってすぐに四神宮に飛ぶとかだめですからね』
こうやって釘を刺さないといけないところが四神なのだと香子は思う。
(こういうところが残念なんだよね)
ほとんど表情が動かない四神は黙っていれば神々しいが、いざ口をきいた途端残念になるなと香子は少しだけがっかりする。しかし同時に、それが四神なのだとも思った。
『白虎様にとって人は慈しむ存在でございましょう。困らせてはいけません』
『……そなたにはかなわぬな』
苦笑交じりに白虎が呟き、香子を抱き上げた。どうやら楼台に自分の足で立つことはできそうもなかった。
ーーーーー
嫦娥 月に上った仙女。興味がありましたら調べてみてください。
一通り料理を食べたところで、香子は真ん中で踊っている女性たちに目を向けた。どうやら月にまつわる踊りをしてくれているらしい。純粋にキレイだなと思った。
指先の動きや、腰の動きがなんとも美しい。そしてすごく身体が柔らかい。香子はかつて上海雑技団を見に行ったことがある。その時は踊りとかというより、その身体の柔らかさに戦慄を覚えたようだった。
日が陰ってきた。もう少し暗くなれば香子たちは移動しなければならない。前門に上って大唐の民衆に顔を見せるだけだが、それが重要なのだと香子は思う。今まで四神は大唐の守り神として存在していたが、ほとんどその姿を目にした者はいなかった。春節の際も四神は直接四神宮に飛んでくるという。さすがにそれはどうかと香子は思った。せっかく人の世にいるのだから、四神の姿をある程度は見せないともったいないと香子は思うのだ。姿を見せることで信仰は固まる。それは大唐の存続にも寄与するはずだと香子は考えていた。
『あれは……”嫦娥奔月”でしょうか』
女性と男性が踊っているのを見て、香子は一人で月に上ってヒキガエルになった仙女を想像した。
『そうかもしれぬな』
『あれってあくまで物語なんですか?』
『五帝が一人帝俊の娘か。不老不死の霊薬を煽って月に上ったと聞いたことがあるがその後は知らぬ』
『そうなんですね……』
(本当に上ったんだ)
香子は感心した。とはいえ元の世界ではあくまで神話である。それが本当であったとしても元の世界では確認するすべはない。
(仙女じゃあ例え月にいたとしても見つからない気がするなぁ。でも月は寂しすぎたから下界に下りたみたいな話も聞いたことがあるけどどうなんだろう)
そこらへん、香子は自分で想像することにした。
声をかけられて、もうそんな時間かと移動することとなった。もちろんまた着替えをしなければならない。この着替えというのが面倒だと、香子は内心げんなりした。
(まぁでも、王様たちに声をかけられなくてよかった)
そこは皇帝もうまくやったようだった。
香子の衣裳は目立つようにと白地に白い糸で白虎が縫われている長袍がメインである。光沢のある絹にところどころ金が混じる上品なものだ。
(白地に白い糸で白虎様って、地味だけど近くで見ると美しいなぁ……)
香子は着替えさせられた衣裳を見てうっとりと息を吐いた。もちろん内側の衫と裙も着替えている。そんな香子の着替えを手伝った侍女たちは悶えそうになるのを必死にこらえていた。四神全てに抱かれた香子から危うさはもう感じられないが、抱かれていることで漂う色気はまた別の話である。肌は真っ白く瑞々しい。胸も以前に比べると大きくなっているように見える。髪の色が暗紫紅色でなければ月の女神を想像したかもしれない。香子の容姿はすでに人を離れた美しさを感じさせるようになっていたが、当の本人は全く気づいていなかった。
(ああああ緊張するうううう……)
できるだけ顔に出さないようにしているが、香子の内心はこんなものである。大学を卒業したばかりの庶民が前門の楼台から民衆を見下ろすなんてどういうことだと香子は思う。
(私は四神の添え物、四神の添え物……)
そう思わないととてもやってられなかった。
『何を着てもそなたは美しい』
白虎が迎えにくるなりそう香子に言った。白虎の衣裳もまた変わっていた。薄い黄色がかった長袍には白い糸で白虎が刺繍されている。まんまだなと香子は思った。
『……そんなことは、ないですよ? 白虎様はいつも素敵です』
香子ははにかんだ。白虎がそんな香子を抱き上げる。
『このまま……そなたを連れて戻りたいが、よいか?』
『……だめに決まってるじゃないですか。楼台から挨拶したらまたごはんですよ。終ってすぐに四神宮に飛ぶとかだめですからね』
こうやって釘を刺さないといけないところが四神なのだと香子は思う。
(こういうところが残念なんだよね)
ほとんど表情が動かない四神は黙っていれば神々しいが、いざ口をきいた途端残念になるなと香子は少しだけがっかりする。しかし同時に、それが四神なのだとも思った。
『白虎様にとって人は慈しむ存在でございましょう。困らせてはいけません』
『……そなたにはかなわぬな』
苦笑交じりに白虎が呟き、香子を抱き上げた。どうやら楼台に自分の足で立つことはできそうもなかった。
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嫦娥 月に上った仙女。興味がありましたら調べてみてください。
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