381 / 653
第3部 周りと仲良くしろと言われました
78.あちこちに影響を及ぼすのはやめてもらいたいのです
しおりを挟む
いつもと変わらない。
また香子は青龍に触れられてしまった。
最後まではしないと言われたけど、その一歩手前まではされてしまう。もうどこまでがHなのかわからないと香子は頭を抱えた。
その夜は玄武と朱雀と共に過ごし、翌日は張錦飛に書を習った。不器用ながらも香子が真摯に向き合っていることは伝わったのか、張も厳しくはあったが有意義な時間を過ごせたようである。
『ようやく静かになりましたな』
書を習った後のお茶の時間で、張は珍しくため息混じりに呟いた。
香子は軽く首を傾げた。なんのことだろうか。
『……四神宮はいつも静かでしたな。ここだけ時が止まっているような、そんな静謐さが感じられます』
張とのお茶は四神宮の庭でしていた。茶室でもよかったが、陽射しも厳しくないので庭に出るのがちょうどいい。夏はさすがに陽射しが強くて日傘のようなものを差しかけないと外でお茶をするのは厳しかったが、今はそうでもないので香子は積極的に庭に出るようにしていた。
『四神宮の空気は不思議だと私も思います。陽射しなどは変わりますが、それ以外は気候が変わらないようなので』
香子は頷いて張に同意した。そうして、張の言葉の意味にようやく思い至った。
『……中秋がやっと終わった気がします』
張は軽く頷いた。
『張老師……もしかして、何かございましたか?』
張は思案するようにその仙人のような長い髭を撫でた。
『告げ口のようなことはあまりしたくありませんでしたが……』
そこまで言って張は言葉を切った。その目が楽しそうなのは香子にも見てとれた。張はわざと言っているのだ。ここで意地悪をしてもよかったがそれは香子の望むところではない。
『どうぞお聞かせください』
香子は素直に張を促した。何故か背後から不穏な空気が漂ってきたが香子は気づかないフリをした。
『いや……それがですな。何故かオロスの王がたびたび訪問されまして……書の話になるのですが最後に必ず花嫁様が好まれる物はなにかと聞いていかれたのですよ。おかげで歴史を紐解くという崇高な行いに支障をきたしましてな……。すでに帰国の途にはつかれたようですので、こうして一息ついたところでございます』
それを聞いた香子の目が座った。オロスの情報網、恐るべしである。
『そうでしたか……それはとんだご迷惑をおかけしました』
『いやいや、書の素晴らしさを他国の王と語り合えるなどそうそうできることではございません。それについてはご縁をいただけたこと誠に感謝しております。ですが花嫁様についての情報となりますと、わしでは些か不十分でしたようで。それについては少々申し訳なくも感じますな』
いつになく饒舌な張に香子は本当に申し訳なく思った。張がその状況を楽しんでいただろうということは想像に難くないが、それでも香子の情報をどうにかして手に入れようとするオロス王に香子は身震いした。
オロス王はとても美しい容姿をしていたと思う。すらりとした長身で、透き通るような白い肌をしていた。オロスは大陸の北にあるから冬はあまり陽射しは届かないのかもしれない。大陸の位置や気候でいろいろ違うのだろうが、香子は地理にあまり明るくないのでよくわからなかった。
『張老師にはたびたびご迷惑をおかけしているかと存じます。本当に申し訳なく思っていますが……』
『花嫁様』
いつのまにか下がってしまっていた香子の頭が、張に呼ばれたことで弾かれたように上がった。
『それは花嫁様が気になさる必要はございません。この件についてはすでに書状を認め、皇上(皇帝)へ奏上いたしました。今朝中書省に持って行きましたので二、三日中には皇上より花嫁様になんらか話があるやもしれませぬ』
香子は口元が引きつりそうになるのをどうにか堪えた。香子からしたら皇帝からのアクションなどとんでもない話である。
(オロス王、許すまじ!)
こういうことがあると多少なりとも権力は必要だなと香子も思ってしまうが、権力があるということは責任も多大にあるということだ。やはり四神の影に隠れているぐらいがちょうどいいかと香子は一瞬で思い直した。
『そうですか。張老師、これからもどうぞよろしくお願いします』
『それはこちらの科白でございますよ』
張はそう言ってほっほっほっと笑った。やはりその笑い方にバルタン星人かなと香子は思った。
それにしてもオロス王がそんなに香子を気にしていたなど、彼女は全く知らなかった。張を送り出してから香子は嘆息した。
次から次へと厄介な問題が降ってくるものだと香子は面倒くさく思う。先ほどの不穏な気配の主が黒月であろうことは香子にもわかっていた。
『庭のお茶は片付けてしまった?』
延夕玲に聞くと、まだそのままのはずだと答えられた。
『じゃあ……老師の分だけ片付けておいて。まだあそこでお茶を飲みたいから……』
そう言って庭に戻った。
香子は一人で少しだけ考えたかった。もちろんその場には黒月と夕玲がいて侍女たちもいるが、香子が求めない限りは声をかけてくることはあまりない。
(考えたってしょうがないんだけどさぁ……)
オロス王の狙いはなんだろう、と香子はぼんやり考える。香子をなめきってちょっかいをかけているようにはとても思えないのだ。
(大したことでなければいいのだけど)
香子は知らなかったが、その日四神宮に届いた贈物はオロスからの物が一番多かったのである。
また香子は青龍に触れられてしまった。
最後まではしないと言われたけど、その一歩手前まではされてしまう。もうどこまでがHなのかわからないと香子は頭を抱えた。
その夜は玄武と朱雀と共に過ごし、翌日は張錦飛に書を習った。不器用ながらも香子が真摯に向き合っていることは伝わったのか、張も厳しくはあったが有意義な時間を過ごせたようである。
『ようやく静かになりましたな』
書を習った後のお茶の時間で、張は珍しくため息混じりに呟いた。
香子は軽く首を傾げた。なんのことだろうか。
『……四神宮はいつも静かでしたな。ここだけ時が止まっているような、そんな静謐さが感じられます』
張とのお茶は四神宮の庭でしていた。茶室でもよかったが、陽射しも厳しくないので庭に出るのがちょうどいい。夏はさすがに陽射しが強くて日傘のようなものを差しかけないと外でお茶をするのは厳しかったが、今はそうでもないので香子は積極的に庭に出るようにしていた。
『四神宮の空気は不思議だと私も思います。陽射しなどは変わりますが、それ以外は気候が変わらないようなので』
香子は頷いて張に同意した。そうして、張の言葉の意味にようやく思い至った。
『……中秋がやっと終わった気がします』
張は軽く頷いた。
『張老師……もしかして、何かございましたか?』
張は思案するようにその仙人のような長い髭を撫でた。
『告げ口のようなことはあまりしたくありませんでしたが……』
そこまで言って張は言葉を切った。その目が楽しそうなのは香子にも見てとれた。張はわざと言っているのだ。ここで意地悪をしてもよかったがそれは香子の望むところではない。
『どうぞお聞かせください』
香子は素直に張を促した。何故か背後から不穏な空気が漂ってきたが香子は気づかないフリをした。
『いや……それがですな。何故かオロスの王がたびたび訪問されまして……書の話になるのですが最後に必ず花嫁様が好まれる物はなにかと聞いていかれたのですよ。おかげで歴史を紐解くという崇高な行いに支障をきたしましてな……。すでに帰国の途にはつかれたようですので、こうして一息ついたところでございます』
それを聞いた香子の目が座った。オロスの情報網、恐るべしである。
『そうでしたか……それはとんだご迷惑をおかけしました』
『いやいや、書の素晴らしさを他国の王と語り合えるなどそうそうできることではございません。それについてはご縁をいただけたこと誠に感謝しております。ですが花嫁様についての情報となりますと、わしでは些か不十分でしたようで。それについては少々申し訳なくも感じますな』
いつになく饒舌な張に香子は本当に申し訳なく思った。張がその状況を楽しんでいただろうということは想像に難くないが、それでも香子の情報をどうにかして手に入れようとするオロス王に香子は身震いした。
オロス王はとても美しい容姿をしていたと思う。すらりとした長身で、透き通るような白い肌をしていた。オロスは大陸の北にあるから冬はあまり陽射しは届かないのかもしれない。大陸の位置や気候でいろいろ違うのだろうが、香子は地理にあまり明るくないのでよくわからなかった。
『張老師にはたびたびご迷惑をおかけしているかと存じます。本当に申し訳なく思っていますが……』
『花嫁様』
いつのまにか下がってしまっていた香子の頭が、張に呼ばれたことで弾かれたように上がった。
『それは花嫁様が気になさる必要はございません。この件についてはすでに書状を認め、皇上(皇帝)へ奏上いたしました。今朝中書省に持って行きましたので二、三日中には皇上より花嫁様になんらか話があるやもしれませぬ』
香子は口元が引きつりそうになるのをどうにか堪えた。香子からしたら皇帝からのアクションなどとんでもない話である。
(オロス王、許すまじ!)
こういうことがあると多少なりとも権力は必要だなと香子も思ってしまうが、権力があるということは責任も多大にあるということだ。やはり四神の影に隠れているぐらいがちょうどいいかと香子は一瞬で思い直した。
『そうですか。張老師、これからもどうぞよろしくお願いします』
『それはこちらの科白でございますよ』
張はそう言ってほっほっほっと笑った。やはりその笑い方にバルタン星人かなと香子は思った。
それにしてもオロス王がそんなに香子を気にしていたなど、彼女は全く知らなかった。張を送り出してから香子は嘆息した。
次から次へと厄介な問題が降ってくるものだと香子は面倒くさく思う。先ほどの不穏な気配の主が黒月であろうことは香子にもわかっていた。
『庭のお茶は片付けてしまった?』
延夕玲に聞くと、まだそのままのはずだと答えられた。
『じゃあ……老師の分だけ片付けておいて。まだあそこでお茶を飲みたいから……』
そう言って庭に戻った。
香子は一人で少しだけ考えたかった。もちろんその場には黒月と夕玲がいて侍女たちもいるが、香子が求めない限りは声をかけてくることはあまりない。
(考えたってしょうがないんだけどさぁ……)
オロス王の狙いはなんだろう、と香子はぼんやり考える。香子をなめきってちょっかいをかけているようにはとても思えないのだ。
(大したことでなければいいのだけど)
香子は知らなかったが、その日四神宮に届いた贈物はオロスからの物が一番多かったのである。
4
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた
いに。
恋愛
"佐久良 麗"
これが私の名前。
名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。
両親は他界
好きなものも特にない
将来の夢なんてない
好きな人なんてもっといない
本当になにも持っていない。
0(れい)な人間。
これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。
そんな人生だったはずだ。
「ここ、、どこ?」
瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。
_______________....
「レイ、何をしている早くいくぞ」
「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」
「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」
「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」
えっと……?
なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう?
※ただ主人公が愛でられる物語です
※シリアスたまにあり
※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です
※ど素人作品です、温かい目で見てください
どうぞよろしくお願いします。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる