異世界で四神と結婚しろと言われました

浅葱

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第3部 周りと仲良くしろと言われました

78.あちこちに影響を及ぼすのはやめてもらいたいのです

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 いつもと変わらない。
 また香子は青龍に触れられてしまった。
 最後まではしないと言われたけど、その一歩手前まではされてしまう。もうどこまでがHなのかわからないと香子は頭を抱えた。
 その夜は玄武と朱雀と共に過ごし、翌日は張錦飛に書を習った。不器用ながらも香子が真摯に向き合っていることは伝わったのか、張も厳しくはあったが有意義な時間を過ごせたようである。

『ようやく静かになりましたな』

 書を習った後のお茶の時間で、張は珍しくため息混じりに呟いた。
 香子は軽く首を傾げた。なんのことだろうか。

『……四神宮はいつも静かでしたな。ここだけ時が止まっているような、そんな静謐さが感じられます』

 張とのお茶は四神宮の庭でしていた。茶室でもよかったが、陽射しも厳しくないので庭に出るのがちょうどいい。夏はさすがに陽射しが強くて日傘のようなものを差しかけないと外でお茶をするのは厳しかったが、今はそうでもないので香子は積極的に庭に出るようにしていた。

『四神宮の空気は不思議だと私も思います。陽射しなどは変わりますが、それ以外は気候が変わらないようなので』

 香子は頷いて張に同意した。そうして、張の言葉の意味にようやく思い至った。

『……中秋がやっと終わった気がします』

 張は軽く頷いた。

『張老師……もしかして、何かございましたか?』

 張は思案するようにその仙人のような長い髭を撫でた。

『告げ口のようなことはあまりしたくありませんでしたが……』

 そこまで言って張は言葉を切った。その目が楽しそうなのは香子にも見てとれた。張はわざと言っているのだ。ここで意地悪をしてもよかったがそれは香子の望むところではない。

『どうぞお聞かせください』

 香子は素直に張を促した。何故か背後から不穏な空気が漂ってきたが香子は気づかないフリをした。

『いや……それがですな。何故かオロスの王がたびたび訪問されまして……書の話になるのですが最後に必ず花嫁様が好まれる物はなにかと聞いていかれたのですよ。おかげで歴史を紐解くという崇高な行いに支障をきたしましてな……。すでに帰国の途にはつかれたようですので、こうして一息ついたところでございます』

 それを聞いた香子の目が座った。オロスの情報網、恐るべしである。

『そうでしたか……それはとんだご迷惑をおかけしました』
『いやいや、書の素晴らしさを他国の王と語り合えるなどそうそうできることではございません。それについてはご縁をいただけたこと誠に感謝しております。ですが花嫁様についての情報となりますと、わしでは些か不十分でしたようで。それについては少々申し訳なくも感じますな』

 いつになく饒舌な張に香子は本当に申し訳なく思った。張がその状況を楽しんでいただろうということは想像に難くないが、それでも香子の情報をどうにかして手に入れようとするオロス王に香子は身震いした。
 オロス王はとても美しい容姿をしていたと思う。すらりとした長身で、透き通るような白い肌をしていた。オロスは大陸の北にあるから冬はあまり陽射しは届かないのかもしれない。大陸の位置や気候でいろいろ違うのだろうが、香子は地理にあまり明るくないのでよくわからなかった。

『張老師にはたびたびご迷惑をおかけしているかと存じます。本当に申し訳なく思っていますが……』
『花嫁様』

 いつのまにか下がってしまっていた香子の頭が、張に呼ばれたことで弾かれたように上がった。

『それは花嫁様が気になさる必要はございません。この件についてはすでに書状を認め、皇上ホワンシャン(皇帝)へ奏上いたしました。今朝中書省に持って行きましたので二、三日中には皇上より花嫁様になんらか話があるやもしれませぬ』

 香子は口元が引きつりそうになるのをどうにか堪えた。香子からしたら皇帝からのアクションなどとんでもない話である。

(オロス王、許すまじ!)

 こういうことがあると多少なりとも権力は必要だなと香子も思ってしまうが、権力があるということは責任も多大にあるということだ。やはり四神の影に隠れているぐらいがちょうどいいかと香子は一瞬で思い直した。

『そうですか。張老師、これからもどうぞよろしくお願いします』
『それはこちらの科白でございますよ』

 張はそう言ってほっほっほっと笑った。やはりその笑い方にバルタン星人かなと香子は思った。
 それにしてもオロス王がそんなに香子を気にしていたなど、彼女は全く知らなかった。張を送り出してから香子は嘆息した。
 次から次へと厄介な問題が降ってくるものだと香子は面倒くさく思う。先ほどの不穏な気配の主が黒月であろうことは香子にもわかっていた。

『庭のお茶は片付けてしまった?』

 延夕玲に聞くと、まだそのままのはずだと答えられた。

『じゃあ……老師の分だけ片付けておいて。まだあそこでお茶を飲みたいから……』

 そう言って庭に戻った。
 香子は一人で少しだけ考えたかった。もちろんその場には黒月と夕玲がいて侍女たちもいるが、香子が求めない限りは声をかけてくることはあまりない。

(考えたってしょうがないんだけどさぁ……)

 オロス王の狙いはなんだろう、と香子はぼんやり考える。香子をなめきってちょっかいをかけているようにはとても思えないのだ。

(大したことでなければいいのだけど)

 香子は知らなかったが、その日四神宮に届いた贈物はオロスからの物が一番多かったのである。
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