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第3部 周りと仲良くしろと言われました
79.珍しいことがありまして
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『香子、如何した?』
香子が庭でお茶を啜りながら物思いにふけっていると、不意に低い声がかかった。耳に心地いいバスである。その声で香子は誰が来たのかわかった。ゆっくりと顔をそちらへ向ける。
『白虎様』
『手習いは終わったのであろう?』
『はい、終わりました。白虎様もこちらでお茶をしませんか?』
香子は笑みを浮かべて白虎を誘った。
なかなか白虎の元へ顔を出さないから気にしてくれたのだろうかと香子は思う。香子の訪れを待っている白虎を想像したら頬が緩んだ。
白虎がすぐ隣の、石造りの椅子に腰かける。香子は侍女から器を受け取り、お茶を注いだ。大きい急須を用意されているので自分で手軽に入れられるのが楽だ。大きいのが少し玉に瑕である。
そして白虎の前に置いた。
『請(どうぞ)』
『一人で茶をするのなら呼べばいいものを』
『白虎様には悪いですが、私も一人になりたい時がありますので』
以前は口にすることも憚られたことだが、何をどう言ったところで四神がびくともしないことに気づいてからは香子も言うようになった。遠慮して言わないでいるとまた爆発してしまうかもしれないので。
『それは悪いことをしたか?』
『いいえ。来てくださってとても嬉しいです』
呼びに行かなくても来てくれるなんて幸せなことだと香子は笑顔になった。
『そなたにはかなわぬな』
香子はふふ、と笑った。
四神宮の中ではめったに吹かない風が吹いた。
あら珍しい、と香子は思ってから白虎を見た。白虎は杯を傾けながら香子を見ていた。その金の瞳には香子だけが映っていた。
『この風は……白虎様が吹かせていらっしゃるのですか?』
『風?』
風が止まった。香子は少し残念に思った。
『とても心地いい風だったのですが……』
『そうか』
また優しく風が吹き始めた。四神宮の中の気候は変わらないが、こうして優しく風が吹くと更に過ごしやすくなる。
『冬の風は困りますが、今の季節にはいいですね』
『覚えておこう』
白虎は杯を置き、香子を抱き寄せる。とても自然な所作で唇が重なった。香子はほんの少しだけ驚いたが、観念して白虎に身を委ねた。
『んっ……』
声が漏れてしまうのが恥ずかしいと香子は思う。でも白虎は離してくれないから。
できれば外ではやめてほしいと、誰かが見ているところではやめてほしいと言っているのだけど想いの発露だからキスぐらいはしょうがないのかなと香子は目を閉じる。
『香子、参るぞ』
『……いや、です……』
でもその口づけで発情するのはいただけないと香子は思うのだ。
(やっぱり外でそういうことするのはダメ絶対!)
と思いを新たにしたがドナドナされるのは変わらなかった。
そして、香子の受難はそれだけでは終わらなかった。夕食後、香子は黒月に声をかけられた。
『花嫁様、共に入浴をしましょう』
珍しいこともあるものだと香子は思った。珍しいこと、というよりも黒月からそのように声をかけられたのは初めてではないだろうか。何か話でもあるのだろうかと香子は考えたが、心当たりは全くなかった。
(オロス王のことかしら。でも私に言われてもどうにもならないし……)
それよりも黒月が誘ってくれたということが、香子にとっては嬉しかった。
誘惑に負けた代償は、なんとも困惑するものであったけれど。
『花嫁様』
『なあに?』
『花嫁様は……玄武様とは何故、昼も共に過ごされないのでしょうか?』
『え?』
湯舟に浸かりながらそんなことを聞かれて、香子はきょとんとした。
『それは……玄武様とはいつも夜は一緒でしょう?』
顔が熱くなる。こんなことを言わせないでほしいと香子は思った。
『……最近は共に過ごされぬ夜もありましょう』
『そ、そうね……』
言われてみればそうだが、ほぼ毎晩のように抱かれているから全く離れている気が香子はしないのである。
『どうか玄武様と昼も過ごすようにしていただけないでしょうか。……最近は花嫁様と共にいない時間はほぼ寝ていらっしゃるのです。あれでは領地にいらっしゃる時と変わりませぬ!』
『ええ?』
それは初耳だった。でも、と香子は首を傾げた。
(玄武様って亀なんだよね?)
涼しくなってきたから寝る時間が増えたとかそういうことではないのだろうか。ただこれは単なる憶測なので、それについては直接玄武に確認することにした。
『そうね……今度また四神と話をしてみるわ。黒月、いつもありがとう』
『……花嫁様、仕える者にそう礼などを言っては……』
また小言が始まりそうだった。香子は黒月に近づく。
『黒月っておっぱい大きいよね』
『は?』
『触っちゃだめ?』
香子はずっと黒月の胸を狙っていたのだ。
『ははは花嫁さまっ!?』
黒月が動揺するなんて珍しいこともあるものだ。
『ちょっと失礼』
湯舟に浮かんでいる透き通るように白い胸を下から軽く持ち上げるようにした。
『花嫁さまっ!?』
『うーん、まだまだ黒月の方がおっきいよねー。私のもこれぐらい大きくなるかなー?』
『いいかげんになされませ!』
『っっ! いったーいっ!』
香子は黒月に思いっきり頭をはたかれ、その後こんこんと説教されたのだった。
受難でもあったことは間違いないが、後半は完全に自業自得である。香子は内心ペロリと舌を出したのだった。
ーーーーー
昨日は急きょ外出することになったので更新できませんでした。ごめんなさい!
調子に乗りすぎて怒られた香子ちゃん(ぉぃ
香子が庭でお茶を啜りながら物思いにふけっていると、不意に低い声がかかった。耳に心地いいバスである。その声で香子は誰が来たのかわかった。ゆっくりと顔をそちらへ向ける。
『白虎様』
『手習いは終わったのであろう?』
『はい、終わりました。白虎様もこちらでお茶をしませんか?』
香子は笑みを浮かべて白虎を誘った。
なかなか白虎の元へ顔を出さないから気にしてくれたのだろうかと香子は思う。香子の訪れを待っている白虎を想像したら頬が緩んだ。
白虎がすぐ隣の、石造りの椅子に腰かける。香子は侍女から器を受け取り、お茶を注いだ。大きい急須を用意されているので自分で手軽に入れられるのが楽だ。大きいのが少し玉に瑕である。
そして白虎の前に置いた。
『請(どうぞ)』
『一人で茶をするのなら呼べばいいものを』
『白虎様には悪いですが、私も一人になりたい時がありますので』
以前は口にすることも憚られたことだが、何をどう言ったところで四神がびくともしないことに気づいてからは香子も言うようになった。遠慮して言わないでいるとまた爆発してしまうかもしれないので。
『それは悪いことをしたか?』
『いいえ。来てくださってとても嬉しいです』
呼びに行かなくても来てくれるなんて幸せなことだと香子は笑顔になった。
『そなたにはかなわぬな』
香子はふふ、と笑った。
四神宮の中ではめったに吹かない風が吹いた。
あら珍しい、と香子は思ってから白虎を見た。白虎は杯を傾けながら香子を見ていた。その金の瞳には香子だけが映っていた。
『この風は……白虎様が吹かせていらっしゃるのですか?』
『風?』
風が止まった。香子は少し残念に思った。
『とても心地いい風だったのですが……』
『そうか』
また優しく風が吹き始めた。四神宮の中の気候は変わらないが、こうして優しく風が吹くと更に過ごしやすくなる。
『冬の風は困りますが、今の季節にはいいですね』
『覚えておこう』
白虎は杯を置き、香子を抱き寄せる。とても自然な所作で唇が重なった。香子はほんの少しだけ驚いたが、観念して白虎に身を委ねた。
『んっ……』
声が漏れてしまうのが恥ずかしいと香子は思う。でも白虎は離してくれないから。
できれば外ではやめてほしいと、誰かが見ているところではやめてほしいと言っているのだけど想いの発露だからキスぐらいはしょうがないのかなと香子は目を閉じる。
『香子、参るぞ』
『……いや、です……』
でもその口づけで発情するのはいただけないと香子は思うのだ。
(やっぱり外でそういうことするのはダメ絶対!)
と思いを新たにしたがドナドナされるのは変わらなかった。
そして、香子の受難はそれだけでは終わらなかった。夕食後、香子は黒月に声をかけられた。
『花嫁様、共に入浴をしましょう』
珍しいこともあるものだと香子は思った。珍しいこと、というよりも黒月からそのように声をかけられたのは初めてではないだろうか。何か話でもあるのだろうかと香子は考えたが、心当たりは全くなかった。
(オロス王のことかしら。でも私に言われてもどうにもならないし……)
それよりも黒月が誘ってくれたということが、香子にとっては嬉しかった。
誘惑に負けた代償は、なんとも困惑するものであったけれど。
『花嫁様』
『なあに?』
『花嫁様は……玄武様とは何故、昼も共に過ごされないのでしょうか?』
『え?』
湯舟に浸かりながらそんなことを聞かれて、香子はきょとんとした。
『それは……玄武様とはいつも夜は一緒でしょう?』
顔が熱くなる。こんなことを言わせないでほしいと香子は思った。
『……最近は共に過ごされぬ夜もありましょう』
『そ、そうね……』
言われてみればそうだが、ほぼ毎晩のように抱かれているから全く離れている気が香子はしないのである。
『どうか玄武様と昼も過ごすようにしていただけないでしょうか。……最近は花嫁様と共にいない時間はほぼ寝ていらっしゃるのです。あれでは領地にいらっしゃる時と変わりませぬ!』
『ええ?』
それは初耳だった。でも、と香子は首を傾げた。
(玄武様って亀なんだよね?)
涼しくなってきたから寝る時間が増えたとかそういうことではないのだろうか。ただこれは単なる憶測なので、それについては直接玄武に確認することにした。
『そうね……今度また四神と話をしてみるわ。黒月、いつもありがとう』
『……花嫁様、仕える者にそう礼などを言っては……』
また小言が始まりそうだった。香子は黒月に近づく。
『黒月っておっぱい大きいよね』
『は?』
『触っちゃだめ?』
香子はずっと黒月の胸を狙っていたのだ。
『ははは花嫁さまっ!?』
黒月が動揺するなんて珍しいこともあるものだ。
『ちょっと失礼』
湯舟に浮かんでいる透き通るように白い胸を下から軽く持ち上げるようにした。
『花嫁さまっ!?』
『うーん、まだまだ黒月の方がおっきいよねー。私のもこれぐらい大きくなるかなー?』
『いいかげんになされませ!』
『っっ! いったーいっ!』
香子は黒月に思いっきり頭をはたかれ、その後こんこんと説教されたのだった。
受難でもあったことは間違いないが、後半は完全に自業自得である。香子は内心ペロリと舌を出したのだった。
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昨日は急きょ外出することになったので更新できませんでした。ごめんなさい!
調子に乗りすぎて怒られた香子ちゃん(ぉぃ
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