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第3部 周りと仲良くしろと言われました
83.大陸の庶民の味も最高なのです
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お茶菓子は相変わらず乾き物ばかりだが、今回香子は自分の大好物を持参してきた。
『老仏爺、いつものお菓子もとてもおいしいのですが……庶民の味も食べてみませんか?』
『ほう、どのような物かえ?』
皇后の顔がさっと青ざめた。別に揶揄したつもりはなかったので香子は内心慌てた。どうフォローしていいかもわからないので平然と会話を続けることにする。
『煎餅と言いまして、私が元の世界にいた時好んで食べていたものです。こちらでも庶民が食べるものと知りまして作ってもらいました』
『ほほう』
『しょっぱいというか少しばかり辛味があるものですが、老仏爺の口に合うと幸いです』
煎餅というのは簡単に言ってしまうと中華クレープのことだ。薄いクレープ状の生地に卵を割り落として広げ、辛味噌(甘味噌の場合もあり)を塗る。香菜、ネギなどを散らして小麦粉を薄く揚げた物を乗せてから生地で包み、ざくざくとヘラで軽く切って外側のクレープ生地を折り畳む。それを紙に包んで渡してくれるという本当に庶民の食べ物である。香子はこれが大好物で、大学が終るとわざわざ大学の外の屋台に買いに行っていたものだった。
馬遼と厨師たちに無理を言って作らせたそれは籠に入れ、暖石も一緒に入れてあるのでいつまでも温かい。こちらの世界に来て香子がよかったなと思うのはこの保温効果が保たれていることだ。石さまさまである。
もちろん余分に持ってきたので皇后の分もある。
お皿の上に、紙に包んだまま煎餅を置いてもらった。
『ふむ。これはどう食べたらよいものか』
皇太后の疑問に香子はにんまりした。
『見本をお見せしますね。これはこう持って、こう食べるのです!』
そう言って香子は紙のまま煎餅を持ち、がぶり、と噛みついた。うん、おいしいと香子は頷いた。出来立てではないけど中の薄脆(小麦粉を薄く揚げたもの)がサクサクしていてとてもいい食感である。
『どれ、我もいただくとしよう』
青龍も煎餅を紙に包んだまま持ち、香子のようにかぶりついた。皇后がとんでもないという顔をしているのが香子にはおかしく感じられた。
『なんとも豪快なことよのぅ。どれ』
女官に袖を抑えさせて、皇太后もまだその手に紙に包まれたままの煎餅を持った。
『ほう、随分と熱いものじゃ』
皇太后は感心したように言うとぱくりと食べた。本当は毒見が必要なのだろうが四神宮から持ち込まれた食べ物である。青龍が側にいる以上、毒などが入っていれば食べていなくてもわかるので毒見は不要だった。
『これは……食べづらいが、なんとも……うむ』
皇太后は軽く何度も頷いた。そしてまたぱくりと食べる。おいしくなければ二口目は躊躇するだろう。ということは皇太后の口に合ったようだと香子は内心胸を撫で下ろした。皇后をちら、と見ればおずおずとだが一応手に持ってはいた。まずこういう手に取って食べる物というのを食べたことがないのかもしれなかった。
『万瑛、そなたも一口食べてみよ。なんとも不思議な味がする』
皇太后に促され、皇后は意を決したように手に持った煎餅を凝視した。
『はい……』
そして一口、いつになく大きな口を開けてがぶりっと食べた。
香子はおお、と思った。初めてのものをあんなに一度に口に入れて大丈夫だろうかと少し心配になった。
どうしても食べ物というのは味の好みというものがあるから、口に合わなかったらどうしようと香子は思ったのだ。だがそれは杞憂だったらしい。
皇后はもぐもぐと食べ、ごくりと飲み込むともう一口ぱくりと食べた。
よかったと、香子は思った。
『これは……いろいろな味が混ざっていて面白いものじゃのぅ。こなにおいしいものを庶民は食べておるのか。材料はなんじゃ?』
皇太后が楽しそうに聞く。香子は材料を説明した。
『ほうほう、この食感は小麦粉を薄く焼いたものなのか。ああ、もったいないがもうおなかがいっぱいじゃ』
さすがに一個丸ごとは食べられなかったようで、皇太后はくやしそうな顔をしながら三分の一ほど残った煎餅を見た。
『これは冷えてもおいしいものか?』
『やはり温かい方がおいしいですね』
『そうか。残念じゃのう』
皇太后は本当に残念そうだった。皇太后の口に合ってよかったと香子はしみじみ思う。みなでおいしく食べるのはまた格別おいしく感じられた。
皇后はやはり若いのか、最後までキレイに食べてしまった。途中紙をどうしたらいいのかと目で訴えていたので香子が紙を折りたたんだりするところを見せるとそのようにした。こうして見ると皇后もなかなかに愛嬌がある。こういう姿を皇帝が見たら可愛く思うのではないかなと香子は思ったが、皇帝と皇后は政略結婚だからやはりどうなのだろう。香子は男性ではないからわからないが、政略結婚とはいえ肌を合わせた女性を大事にできない皇帝は最低だと思っている。
『香子、口の端についているぞ』
『あ……』
青龍の指がそっと香子の唇の端を拭ってそれを自分の口に咥えた。香子は頬を染めた。
『ほ、ほ。なんとも仲が良いものじゃのう。これはいいものを見せてもろうた』
皇太后がにこにこする。
『青龍様、布で拭ってくださいませ……』
香子は真っ赤になって、そう言うことしかできなかった。
(あれ? 私なんの為に皇太后を呼び出したんだっけ?)
煎餅でおなかいっぱいになった後なかなか目的を思い出せなくて困った。
(そうだ、仕立て屋を呼んでもらおうと思ったんだ)
煎餅はついでだったはずなのについつい紹介に熱が入ってしまった。香子はこっそり反省した。でもこれからもいろいろなものを皇太后に紹介したいと思ったのだった。
『老仏爺、いつものお菓子もとてもおいしいのですが……庶民の味も食べてみませんか?』
『ほう、どのような物かえ?』
皇后の顔がさっと青ざめた。別に揶揄したつもりはなかったので香子は内心慌てた。どうフォローしていいかもわからないので平然と会話を続けることにする。
『煎餅と言いまして、私が元の世界にいた時好んで食べていたものです。こちらでも庶民が食べるものと知りまして作ってもらいました』
『ほほう』
『しょっぱいというか少しばかり辛味があるものですが、老仏爺の口に合うと幸いです』
煎餅というのは簡単に言ってしまうと中華クレープのことだ。薄いクレープ状の生地に卵を割り落として広げ、辛味噌(甘味噌の場合もあり)を塗る。香菜、ネギなどを散らして小麦粉を薄く揚げた物を乗せてから生地で包み、ざくざくとヘラで軽く切って外側のクレープ生地を折り畳む。それを紙に包んで渡してくれるという本当に庶民の食べ物である。香子はこれが大好物で、大学が終るとわざわざ大学の外の屋台に買いに行っていたものだった。
馬遼と厨師たちに無理を言って作らせたそれは籠に入れ、暖石も一緒に入れてあるのでいつまでも温かい。こちらの世界に来て香子がよかったなと思うのはこの保温効果が保たれていることだ。石さまさまである。
もちろん余分に持ってきたので皇后の分もある。
お皿の上に、紙に包んだまま煎餅を置いてもらった。
『ふむ。これはどう食べたらよいものか』
皇太后の疑問に香子はにんまりした。
『見本をお見せしますね。これはこう持って、こう食べるのです!』
そう言って香子は紙のまま煎餅を持ち、がぶり、と噛みついた。うん、おいしいと香子は頷いた。出来立てではないけど中の薄脆(小麦粉を薄く揚げたもの)がサクサクしていてとてもいい食感である。
『どれ、我もいただくとしよう』
青龍も煎餅を紙に包んだまま持ち、香子のようにかぶりついた。皇后がとんでもないという顔をしているのが香子にはおかしく感じられた。
『なんとも豪快なことよのぅ。どれ』
女官に袖を抑えさせて、皇太后もまだその手に紙に包まれたままの煎餅を持った。
『ほう、随分と熱いものじゃ』
皇太后は感心したように言うとぱくりと食べた。本当は毒見が必要なのだろうが四神宮から持ち込まれた食べ物である。青龍が側にいる以上、毒などが入っていれば食べていなくてもわかるので毒見は不要だった。
『これは……食べづらいが、なんとも……うむ』
皇太后は軽く何度も頷いた。そしてまたぱくりと食べる。おいしくなければ二口目は躊躇するだろう。ということは皇太后の口に合ったようだと香子は内心胸を撫で下ろした。皇后をちら、と見ればおずおずとだが一応手に持ってはいた。まずこういう手に取って食べる物というのを食べたことがないのかもしれなかった。
『万瑛、そなたも一口食べてみよ。なんとも不思議な味がする』
皇太后に促され、皇后は意を決したように手に持った煎餅を凝視した。
『はい……』
そして一口、いつになく大きな口を開けてがぶりっと食べた。
香子はおお、と思った。初めてのものをあんなに一度に口に入れて大丈夫だろうかと少し心配になった。
どうしても食べ物というのは味の好みというものがあるから、口に合わなかったらどうしようと香子は思ったのだ。だがそれは杞憂だったらしい。
皇后はもぐもぐと食べ、ごくりと飲み込むともう一口ぱくりと食べた。
よかったと、香子は思った。
『これは……いろいろな味が混ざっていて面白いものじゃのぅ。こなにおいしいものを庶民は食べておるのか。材料はなんじゃ?』
皇太后が楽しそうに聞く。香子は材料を説明した。
『ほうほう、この食感は小麦粉を薄く焼いたものなのか。ああ、もったいないがもうおなかがいっぱいじゃ』
さすがに一個丸ごとは食べられなかったようで、皇太后はくやしそうな顔をしながら三分の一ほど残った煎餅を見た。
『これは冷えてもおいしいものか?』
『やはり温かい方がおいしいですね』
『そうか。残念じゃのう』
皇太后は本当に残念そうだった。皇太后の口に合ってよかったと香子はしみじみ思う。みなでおいしく食べるのはまた格別おいしく感じられた。
皇后はやはり若いのか、最後までキレイに食べてしまった。途中紙をどうしたらいいのかと目で訴えていたので香子が紙を折りたたんだりするところを見せるとそのようにした。こうして見ると皇后もなかなかに愛嬌がある。こういう姿を皇帝が見たら可愛く思うのではないかなと香子は思ったが、皇帝と皇后は政略結婚だからやはりどうなのだろう。香子は男性ではないからわからないが、政略結婚とはいえ肌を合わせた女性を大事にできない皇帝は最低だと思っている。
『香子、口の端についているぞ』
『あ……』
青龍の指がそっと香子の唇の端を拭ってそれを自分の口に咥えた。香子は頬を染めた。
『ほ、ほ。なんとも仲が良いものじゃのう。これはいいものを見せてもろうた』
皇太后がにこにこする。
『青龍様、布で拭ってくださいませ……』
香子は真っ赤になって、そう言うことしかできなかった。
(あれ? 私なんの為に皇太后を呼び出したんだっけ?)
煎餅でおなかいっぱいになった後なかなか目的を思い出せなくて困った。
(そうだ、仕立て屋を呼んでもらおうと思ったんだ)
煎餅はついでだったはずなのについつい紹介に熱が入ってしまった。香子はこっそり反省した。でもこれからもいろいろなものを皇太后に紹介したいと思ったのだった。
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