異世界で四神と結婚しろと言われました

浅葱

文字の大きさ
421 / 653
第3部 周りと仲良くしろと言われました

118.見守ることしかできないのはしかたないのです

しおりを挟む
紅児との会話の詳細は「貴方色に染まる」92話を参照してください。
ーーーーー



 一通りこれからの流れを確認してから、香子はみなを朱雀の室から追い出した。
 紅児と話したいことがあったのだ。もちろん室の主である朱雀も追いやった。朱雀の室の前に黒月だけ残すよう伝え、香子は紅児に言っておかなければならないことを伝えた。
 紅夏から、紅児の叔父が話した内容を聞いたこと。
 紅児の母が叔父と結婚したということを、紅児が受け入れられないのは当然であること。
 セレスト王国へ帰国するとしたら、片道二か月は同じ船の中にいることになる。もし叔父と母親をどうしても許せないのなら今回は帰るのを見合わせた方がいいということなどを香子は伝えた。
 セレスト王国からの船は年に一、二回はやってくる。だから渡航は今回だけに限るわけではない。ただし、今回見送ったことで何かが国で起こるかもしれない。紅児には後悔しないように決めるよう、香子はせめて言葉を尽くした。
 そうしたことで、紅児もある程度腹が決まったようだった。

『花嫁さま、ありがとうございます。私、がんばってみます!』

 先ほどとは打って変わった晴れやかな笑顔で頭を下げ、紅児は勢いよく立ち上がった。
 若さっていいなぁと香子は年寄りのようなことを思う。おそらくもう、紅児は大丈夫だろう。
 紅児が朱雀の室を出ていく際、黒月に朱雀に声をかけてもらうよう香子は頼んだ。
 紅児を見送ってから、香子はため息をついた。
 紅児は船に乗るつもりだろう。ということは今夜辺り紅夏に抱かれる予定なのだろう。
 紅夏に抱かれたら、紅児は人ではなくなってしまう。

『ごめんね……』

 香子は呟いた。
 紅夏を止められなくて本当に申し訳ないことをしたと香子は思っていた。涙までは出なかったが、香子は自分がとても情けないと思った。

香子シャンズ、如何した?』

 朱雀が戻ってきた。香子は無言で立ち上がり、朱雀に抱き付いた。

『……何をそんなに気に病む。あの娘のこれまでのことを思えば、今が最善ではないか』
『それは、そうなんですけど……もっとどうにかしてあげられなかったのかなって……』

 朱雀は香子を抱き上げた。

『香子、そなたはもう何も考えるな。あの娘の手はもう離したのだ。……今は我のことだけ考えよ』
『うー……』

 朱雀はどこまでも優しい。
 そうなのだ。これ以上香子が紅児にしてあげられることはない。香子にできるのは餞別をできるだけ多く渡すとか、もし船に乗れなくて戻ってきたならば温かく再び迎え入れることぐらいだ。そう、紅児の精神上の問題で船に乗れない可能性だってあるのだ。そうしたらセレスト王国に帰るにはもっと時間がかかるかもしれない。
 紅児を本当の意味で支えるのは紅夏の役目ではあるが、香子もそれに少しは関われたらいいなと思った。
 昼間からとか、今日はもうそんなこと関係なかった。香子は自分が弱いことをよく知っている。自分の心がどうにもならないのだから誰かに頼るしかない。

『朱雀様、抱いてくださ……』

 唇に指が当てられた。

『元よりそのつもりだ。だから、煽るな。昼食は遅らせるよう伝えておこう』
『ありがとうございます』

 朱雀はいつも強引で、香子がくよくよ悩んでいたりしてもぐいぐい引っ張っていってくれる。朱雀とか、玄武に頼れば大丈夫だと香子は思う。

(なんで四神には花嫁が一人なんだろうって疑問だったけど……)

 花嫁の心を守るには一人では足りなかったのだ。そこの気遣いを天皇(ティエンホワン)がしてくれたのはありがたいと香子も思うが、やっぱり早く返事を寄こせとも思ってしまうわけで。
 とりあえず今は朱雀に慰めてもらうことにしたのだった。


 紅児にはもう暇を出した。
 迎えが来たのだからそれは当然のことである。だからもう香子の部屋の隅に紅児が控えることはない。

(……ちょっと寂しいかも)

 また部屋付の侍女を探してもらわないといけないだろう。ただ、紅児が戻ってくる可能性もないとは言えないから、十日ばかりは保留になるのだが。

(あれ? でも……)
夕玲シーリン
『はい』
『エリーザって、もしこちらに戻って来ることになったらどうするのかしら? 私の部屋付に戻ってくれるのかしらね?』
『……花嫁さま、気がはようございます』
『わかってるけど、侍女を手配するのもたいへんだって聞いたわ』

 しれっと香子は答えた。延夕玲が香子にわかるように嘆息する。困ったものだと思っているようだった。

『紅児がどうするつもりなのかは趙様に一任すればよろしいかと』
『それもそうね』

 最近四神宮の主官である趙の影は非常に薄いと香子は思う。単純に四神が香子に趙との接触をさせないだけなのだが、姿を見ないとそんな風に思ってしまうものだ。
 趙は趙なりに、香子を筆頭とした四神宮に関わる人たちの為に奔走していたりするのだが、それに香子が気づく日が来ることはない。香子がそれを知るとしてもあと最低十年はかかるはずである。
 それはともかく香子の部屋付の侍女の件である。どちらにせよ四神宮の人員が足りていないことに違いはない。

『誰か、雇用できないものかしらね?』

 香子が気にすることではないが、首を傾げて呟いたのだった。



ーーーーー
「貴方色に染まる」は92~94話辺りです。
しおりを挟む
感想 94

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

黒騎士団の娼婦

星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です

氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。 英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

処理中です...